空気よんで
「ちょっとカズヨシぃ~。私達に肉体労働させるなんてどゆこと?」
彼を見つけるなり開口一番ジャージ姿のレイミのボヤキが耳に入る。
「あーたこの程度でヘバったのかい?」
まーちゃんが顔色一つ変えずさらりと言い放つ。
「あんたどうしていつも、そう脳筋なのよ」
バテバテになって横になっているヒトミがボックス席から言葉を飛ばす。
「まー私もともと倉庫で働いてたし、トラックからリフト使わないで荷物の積み降ろしなんてしょっちゅうだよ。この程度じゃヘバらないよ」
得意げに彼女はそう言うと店の隅に積み上げられた段ボール箱を眺めた。
「どーりでメリハリボディな訳だ」
ヒトミはそう呟くとパタリとシートに寝込んだ。
「ったくだらしないな~」
へばったベテラン勢を見つつカズヨシは段ボール箱が積まれている方へと視線を向けた。
「どう?しおんちゃん。入庫漏れとかない?」
「はい、大丈夫ですよ」
ボードを片手に先ほどから運び込まれてきた荷物を検品しているしおんがそこにはいた。
「しかしバックナンバーも合わせると案外膨大な量になるんですね」
しおんは「ふう」と軽く息を吐きつつ積まれたそれを見た。
「さてと、これを開梱してある程度陳列するまで今日中に持っていかないと即売会に間に合わないぞ」
カズヨシはそう言うと腕まくりをした。
「カズヨシちょっとタンマ」
「あん?どうしたレイミ?昼飯はまだ先だぞ」
「いや、そうでなくて」
ジャージの上着を脱ぎながらタンクトップ姿になるレイミ。
「私みたいに頭脳労働がメインのキャバ嬢にまだ肉体労働をさせる気?」
「当たり前だろ?他に誰がいるっつーの?」
「ぐぐっ」
カズヨシの問いかけにレイミは言葉を詰まらせる。
「おまえ、アレだからな。橋本さんを呼ぶんじゃないぞ。彼はあくまでお客様だからな。そこんトコロわきまえろよ」
「ったく。わーってるって」
レイミは口を尖らせながらカズヨシを目線から外した。
「つーかレイミ。あんたこの際だから橋本さんと一緒になっちゃえ」
ヒトミが突然茶化す。
「この際ってどのサイよ」
「動物園やサバンナにいるサイではないのは確かね」
レイミの切り返しをヒトミはひょうひょう皮肉めいた言葉使いで送り返す。
「ったく」
レイミはそう舌打ち混じりに言い放つとタバコを咥えた。
「ま、キリもいいし少し休むか」
カズヨシはそう言うとバーカウンターにその身を一旦引っ込めた。
そしてトレイに人数分のグラスが載った物を持って出てきた。
「ほれ、作業中は小まめな水分補給」
そう言ってトレイをみんなの前に差し出す。
「お、茶色けど泡が立っていない」
レイミが眉間にしわを寄せながらグラスに入っている液体を見る。
「アホか!こんな昼間っから呑む奴があるか」
カズヨシはレイミを一喝する。
「下手なスポドリよりこりゃ効くぜ」
そうまーちゃんは言うとグラスを手に取りそれを一気にグイと煽った。
「ぷっはァッ!」
首からタオルをかけ、手には軍手。彼女もレイミと同じくジャージ姿にタンクトップだ。そしてトレードマークの長い金髪は後ろで一つに束ねられていた。
「その姿に麦藁帽を足したら、あなた確実に農家の人ね」
ヒトミが差し出された麦茶をチビチビ飲みながら言った。
「本当。眩しいくらいに健康的」
レイミはタバコの煙と一緒に言葉を吐き出すと喉を鳴らしながら麦茶を飲み干した
「ところでカズヨシ。お店の方はどうするの?」
レイミはバーカウンターに空になったグラスを置きながら聞いた。
「あー、勿論やるに決まってるだろ。なんか適当な布でも掛けて物販の品物は目張りする」
バーカウンターの中にある丸椅子でくつろいでいたカズヨシが答える。
「そうよね」
この手質問にしては珍しくレイミが呟くように返した。
「どうしたのレイミ?」
そのあまりにも似つかわしくない態度にヒトミは気付き、彼女に声をかけた。
「いや、なんかさウチらの店で即売会なんて夢みたい。そう思うと何だかさ」
「確かにね。」
ヒトミは静かにボックス席のシートから立ち上がるとレイミの傍に寄った。
彼女の視線の先には積まれた段ボール箱があり、それに二人は視線を重ねる。
「お客さんいっぱい来るといいですね」
しおんが二人に微笑みながら話しかける
「ま、あんまり多すぎると狭いから入りきれないかもな」
そこにまーちゃんも加わった。
「狭い店で悪かったな」
バーカウンターからカズヨシの声が飛んできた。
皆そちらの方に顔を向ける。
「私は好きだよ。このお店」
レイミがそう言うとカズヨシはバーカウンターから出てきた。
「さ、休憩終わり!」
彼はそう言うと一番手前にある段ボール箱をてに取った。
「ちょっ、カズヨシ少しは空気読みなさいよ」
「だから、読んだぜ。このままだとみんな作業しそうにないからな。特にレイミ、お前な」
そう言うとカズヨシはニッと笑った。




