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しゃんぐりら ~板橋の桃源郷~  作者: リノキ ユキガヒ
真紅の御旗の元へ
66/72

追われて、流れて

「最っ低!!」

腹の底から声を出すしおん。

「それが、さっきのヤツらって訳か」

しおんとは違いまーちゃんは冷静に話の流れを追う。

「で、レイミ。あなたそれからどうしたの?」

ヒトミはレイミの顔を見ながら話す。彼女は微笑をたたえると夜空に視線をさ迷わせた。

「六本木を出たわ。実家は学校の一件があるから田舎には戻れないし…

「だよね」ヒトミは短く返事をする。しかしまーちゃんは

「まぁ、あーたがやっていた事は褒められたもんじゃないしな。身から出た錆びだろ」

少し厳しい事を言った。

「本当。その通り」

勿論、レイミは否定しなかった。

「で、レイミさんどうしたんですか?」

「東京の外れにアパート借りて職探し」

「それで、しゃんぐりらに来たのね」

ヒトミが一人納得したような口調でレイミに話す。

「そ。でも私が行った時は店さえ出来ていなかった」

「え?!レイミさんってそんな頃からいたんですか!?」

しおんが驚きの声をあげた。レイミは目を丸くした彼女を暖かい目で見るとそっと頭を撫でた。


「なにかしら?」


レイミは通り掛けに地下に通じる階段を見つけた。

シャッターは開いているが何か商いをやっているような気配はない。

地下の方からは工事をしている音が聞こえてくる。

「あの?何か?」

レイミの背後から不意に穏やかで上品な女性の声がした。思わず振り向くレイミ。

「あ、いや、どんなお店ができるのかなーって見てたんです」

その女性は一瞬キョトンとした表情を浮かべたがすぐさま笑顔になり

「キャバクラよ」

と、レイミに答えた。

「え?」

レイミは一瞬その言葉の意味を考えた。

「キャバクラってあの?」

彼女は思わず質問を返してしまった。その女性はレイミのした質問をまるで咀嚼するかのように目線を空へとさ迷わせた。

「そう、あの。女の子と一緒にお酒を飲む」

「スナックではないんですよね」

レイミは改めて女性に問い正した。

「そうよ。純粋混じりっ気無しのキャ・バ・ク・ラ ☆」

彼女は少しおどけて言ったあとにパチリとウィンクをレイミに飛ばした。

「あ、はぁ」

レイミは彼女のその仕草に少し苦笑いを浮かべたが彼女は別段気にする感じはなかった。

白のブラウスに黒のパンツ。ローヒールのパンプス、後ろで一つに束ねられてはいるがウェーブのかかったヘアスタイル。

レイミは素早く彼女の姿を観察した。これは最早、キャバ嬢としての条件反射的なものだ。

「ひょっとしてこのお店のオーナーさん?か、なにか?」

そう言われた彼女は一瞬、大きめの目をパチクリさせた。

「よくわかったわねー。あなたも同業の方かしら?」

「元…、ですかね」

彼女の明るい返しとは違い、レイミは少し落ちたトーンだった。

「あら、なんだったらウチで働かない?キャスト経験者なら大歓迎よ」

そう言うと彼女はレイミの手をとった。

「あ、いや、キャバはちょっと」

「?。こんな東京の端にあるキャバじゃ働けない?」

レイミはドキリとした。勿論、そんな事は口にしていないし、心の中でもそんな事は思っていない。

だが、彼女の放った一言が妙に心に引っかかった。しばし二人の間に沈黙が続く。

「ふーん」

彼女は軽く受け流すと握ったレイミの指に視線を落とした。

「あら?ペンだこかしら?この指の」

そう言うとレイミの指に自身の指を絡めてきた。

「あ」っと思わずレイミは声をあげた。しかしその訳は自分でもわからなかった。ただ単に再び趣味でイラストを描き始めたのでそれが彼女に知れるのに気が引けたからだろうか?

そんなレイミの思いをよそに彼女は話しかける。

「ねぇ、ここであったのも何かの縁だからお昼一緒にしない?」

彼女は満面の笑みをレイミにむける。

不思議な魅力だった。母性的というか彼女のそれはレイミの固くなった心の一部に何かを与えた。

レイミは何も疑う事なく彼女のあとについていった

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