カズヨシ
正直レイミの自堕落な性格は直ってはなかった。
人間一度でも楽を覚えてしまうとそれから抜け出すのは並大抵の事では無理だった。
彼女は六本木の店を点々とする事になる。その理由は彼女の高すぎるプライドにあった。
入店初日からナンバークラスのホステスのような振る舞いをしたり、とにかく他のホステスや店側とのトラブルが多かった。
そしてそれによる焦りと鬱憤を忘れようと連日ホストクラブに通い無駄に金を浪費していく。
に彼女の懐具合は徐々に苦しくなっていくのは想像に難しくないだろう。
「よー、レイミ。おまえアチコチの店で随分クビになってるらしいじゃねーか」
レイミによく言い寄ってくるいつものホストが顔をニヤつかせながら彼女の席の隣に座る。
「ハン!どこの店もレベルが低いのよ!」
「ま、ここの支払いさえしてくれればオレは構わないけどな」
鼻息の荒いレイミとは正反対に冷静に言葉を放つ彼。
「ったく大体だれのせいでこんな事になったと思ってるのよ」
レイミはそんな彼の態度が急に腹立たしく感じた。
「はぁ?オメーが勝手に俺の話に乗っかってきただけじゃねーか。つーかよ最近は誰も紹介してコネーし」
「できるわけないでしょ」
「だよな」
ホストの目付きが急に険しくなる。彼は自分のヘルプについている者に目配せをするとその彼はそそくさと席をあとにした。
そして、タバコを取り出し一服するとレイミの方をおもむろに向いた。彼の視界にほろ酔い気分でまだ現実の見えていないレイミが目に入る。
そして、彼はレイミの耳元で囁いた。その囁きは正に悪魔の手招き。
「なぁ、おまえに合う店紹介してやるから時間つくれよ」
レイミは一瞬耳を疑ったが自分の置かれている境遇を考えるとそれを断る気になれなかった。
と、いうか彼女のプライドとアルコールのせいで断るという選択肢は頭になかった。
「ど、どういう店なのよ?」
それでも本当にそうなのか?それだけでも確かめたかったので彼に質問をぶつけたが、見事にはぐらかされた。
その日の夜。というかほぼ明け方、レイミは何か得体の知れない不安をぬぐうように都内をうろつき始めた。
そして知らない間にとある出版社の前にいた。彼女の心の中で何かが蘇るような感じに襲われた。
思わず右の手のひらを見る。白くスッと伸びる指先。綺麗に手入れされているネイル。そんな指先。
しかしそんな指先にナゼか虚しさを感じた。
その時だった。レイミは不意に自分に向けられている視線を感じた。そちらの方を思わず見やる。
そこには紙袋をぶら下げたサラリーマンが立っていた。
際だった特徴のないそのサラリーマンの持つ紙袋が妙に目立ったのでレイミはそれに視線を合わせた。
「日本大印刷…」
思わず口に出してしまう。
「あ!やっぱりそうだった!君。六本木の…」
そのサラリーマンの彼はレイミの事を知ってるような事を言おうしたが、なぜだか途中で言葉を引っ込めた。
レイミも記憶の糸を必死で探るが彼の次の一言がそれを一瞬で繋げた。
「名刺、忘れてごめん」
「あ!」
蘇った記憶。レイミは凄い勢いでその彼に歩み寄る。
「っ…!」
しかし言葉が出てこない。いや、言うべき言葉が見つからない。正直彼に落ち度は無い。名刺を受け取る、受け取らないかは個人の自由だ。レイミはどうしてよいのか分らず突然、彼の前で踵を返す。
「て、てか、私あの店にはいないから、もう関係ないわ」
彼にぎこちなくそう言い放つと意外な言葉が帰って来た。
「そっかぁ、俺と一緒か…」
「?」
レイミは彼の放った一言が気にかかり振り返った。
「私と一緒ってなによ」
憮然とした態度を取りつつも思わずついて出た一言。
「俺もこの会社辞めんの」
「日本大印刷って超大手じゃない!なんで!?」
反射的に言葉を返すレイミ。
「まさか、会社のお金使い込んだとか?」
そして、意地悪い質問をぶつけた。
「まぁ、似たようなもんだな」
「は?まじ?」
「うん」
彼はコクリと頷く。
「って言うとかっこよすぎるか」
「は?何よ、ナニやらかしたの。つーかナニもったえぶってるの」
「会社のライン使って同人誌の印刷」
「印刷屋が印刷して何がいけないの?」
「えーと、レミィちゃんだっけ?」
「レイミよ!だれよそれ?どこのホステスよ」
「レミィは源氏名じゃなくて東方に出てくるキャラクターのあだ名。本名は、レミリア・スカーレット。二つ名は永遠に幼き赤い月」
「そんな事聞いてない」
「そっか、名前もそうだけど立ち振る舞いも何だか似てるなぁ。どっちかというと二次作品の方だけど」
「あーもう!その東方って何なのよ!!」




