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しゃんぐりら ~板橋の桃源郷~  作者: リノキ ユキガヒ
「憂いのメイド長」
56/72

シメはやっぱり

しゃんぐりらから幾分離れたところだろうか?近くはない最寄駅の高架を潜り抜け、巨大な都営団地の中を突き抜けるようにある坂道を上り切るとそこには幻想的な景色が広がっていた。

幾重にもある路線軌道。それはまるで水面のようにキラキラと月明かりを反射して青白く輝いていた。

そしてそのレールの上に乗る銀色の車体は鉛色の光を放ち、その水面に奥行きを与える

さらに、各種様様な信号灯が宝石の如くきらびやかな彩りを添えていく。

その中をたゆたう作業員と思われる懐中電灯はまるで夜光虫。

そしてそれらの背景に遠く望む赤城山に月。


「わぁ」


彼女はそんな都営地下鉄の車両基地の景色に感嘆の声をあげる。

「昼間は地下を走っている電車だけど夜になるとここにたどり着くの」

そう言うと、レイミは彼女の肩にそっと手を置いた。

「ここにある電車は一生、日の光を見ずにその生涯を終えるかもしれない」

ヒトミが真っ直ぐ操車場をみながら呟く。

「え…」

彼女の瞳に悲壮感が浮き出る。

「そう。闇の中で生まれて闇の中で天寿を全うする」

「でも、それが不幸な事とは思わないでね」

「なぜなら彼らがいるから昼間の人間は輝く事ができるの」

「闇があるから光が生まれる」


「そう」


彼女の問いかけにレイミは満面の笑みで返事をする。

「とは言ってもあーた達は花より団子でしょ?」

そう言ってまーちゃんはビニール袋からパックに入った串団子を取り出した。

「あー、それそれ!!」

レイミは黄色い声をあげるとそれをまーちゃんより受け取る。

「お月見にはお団子ですよね」

しおんが既に封を解いたパックを彼女の前に差し出した。

「なんでだろー?コンビニの団子なんだけどこういう所で食べると異常に美味しく感じるの」

レイミが団子を頬張りながらそい言うとヒトミが早速絡んできた。

「アンタは腹に入れば何でもいいんでしょ?」

「カーッ、情緒のないヤツはやだねー」

「あんたのドコを叩けば情緒なんて言葉が出てくるの?」

ヒトミはそう言い放つと団子をパクついた。

「さぁ、フィナーレとまいりますか」

レイミは勢いよくそう言うとパンと手を鳴らした。

「やっぱ飲みのシメはラーメンね」

「そー、そー」

まーちゃんはヒトミの言った後にそう相槌を打つと目を細める。

「え?こんな遅くにラーメン屋さんなんてやってるんですか?」

彼女はキョトンとした表情をする。

「大丈夫ですよ」

しおんが笑顔で答えると

「しかも老舗」

とまーちゃんが後に続いた。

「老舗?」

彼女は小首を傾げた。

そして連れて来られたのは煌々とネオンサイン光り輝くコンビニエンスストアだった。

レイミ達はそこでカップラーメンを購入してお湯を注ぐと近所の公園のベンチに皆落ち着いた。

「確かに老舗ですね」

彼女はそう微笑みながら言う。外灯の明かりに照らされた公園内の植樹が蒼い光を弾く。

「はー」

一足先にレイミが豪快にラーメンを啜ると、吐息を吐いた。

「ふー」

それに続くヒトミ。まーちゃんとしおんもそれに習いカップラーメンを啜っていく。

「夜空が奇麗ですね」

彼女はふと言葉を漏らした。カップラーメンを食べ終えたレイミは空になったカップを騙らに置くとすっくと立ち上がった。

そして園内の植樹の隙間から見える月を見上げた。

「あぁ、お嬢様…」

レイミは瞳を潤ませながら言葉を発する。

「げっ…、そのスイッチ今入るか」

ヒトミがラーメンを啜るの止める。


「一筋の光も注がれない闇夜に希望を望むのは間違っているのでしょうか?それとも希望を望む私が愚かなのでしょうか?真紅の御旗は何を示しているのですか?答えは求めておりません。只、私は貴方に忠義を尽くすのみです。お嬢様…レミリア・スカーレット」


「時は流れるもの、それを止めることは罪な事。しかし私はそれでも構いません。たとえそれが愚かな行為と判っていても、地獄の業火に焼かれるとしても、貴女の笑顔を守る事ができるのであればこの身を捧げる覚悟はできております。お嬢様…レミリア・スカーレット」


レイミは思わず声のする方を見た。

「あなた、まさか…」

彼女もレイミを見つめる。

二人は視線を合わせるとお互いに微笑みあった。


長くない夜が終わろうとしていた。駅の周りがにわかにざわつき始める。始発に合わせてこれから準備が始まろうとしているのだ。

レイミ達は彼女に別れを告げるとそれぞれの家路に付いた。


東京の城北地区に錆びれた雰囲気を醸し出す一軒のキャバクラがある。その店の名は


「しゃんぐりら」


理想郷の地名を冠したこの店名。ある者にとってはそれは理想郷になりうるかも…しれない。


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