アフター行きますよ!
「あの、私そろそろ…」
そう言って彼女は席を立とうとした。
「何いってるの?夜はこれからよ」
レイミが引き止める。
「でも…」
彼女が腕時計に目を落とす。それを見たヒトミ何かを察した。
「そんなモノ気にしない気にしない」
そう言って彼女の手を握る。
「そうそう。もう閉店してるんだしお代の取りようがないよ」
カズヨシもカウンターから言葉を投げかける。
「そんな、私の為にそんなの悪いです」
「いーの、いーの。こんな場末のキャバクラなんて元々客がいないから年中貸切みたいなもんよ」
そう言ってレイミは深々とシートに座りなおした。
「場末で悪かったな」
カズヨシがムスっとした声をグラスを磨きながらカウンターの中より飛ばす。
「ほいじゃまアフターと参りますか?」
レイミはそう言うとボックス席からひょいと立ち上がった。
「ちょっと席を外すわね」
そう言うとヒトミもレイミの後を追うように席を後にする。
「アフター?」
彼女の頭にハテナマークが浮かんでいた。
「あー。キャバクラ通いしてない人には馴染みのない言葉だな」
まーちゃんはそう言うとテーブルの上を片付けをしに来たカズヨシに視線を送った。
「アフターってのは閉店後にお店のコと遊ぶ事」
彼はそれを受けて彼女にアフターの意味を説いた。
「でも、それってお店の方を貸切る事になるから凄くお金がかかるんじぁ…」
彼女の顔が不安に歪む。
「なに言ってるの?こんな東京の外れでまともなアフターができると思ってるの?」
ドレスから着替え終わったレイミが彼女の前に立つ。
「ま、そんな気を追わなくてもいいわよ」
いつの間にかヒトミもレイミの後ろにいた。
「ほいじゃま、行きますか!しゃんぐりら名物お金のかからないアフター!!」
「おーっ!!」
レイミの号令一下しゃんぐりら一同は出入り口になっている階段を登ろうとしたが一人足りないことに気が付いた。
「あれ?あーた橋本は?」
まーちゃんがしおんの方を見る。しおんは目で一番奥にあるボックス席を指す。
「ンゴー」
ボックス席からは意表を突く高いびきが聞こえてきた。
しおんは苦笑いを浮かべると
「面白いように飲むんでつい…」
と、言葉を漏らした。
「は~ぁ。あんた新規の客を酔い潰すなんて中々ね」
ヒトミが感心するような呆れるような表情をする。
「彼は俺の方で見とくから行ってこい」
カズヨシはそういいながら手を振りレイミ達を店外へと促す。
「そ」
レイミは短く返事をすると軽やかに階段を登っていく。
表に出ると街はシンと静まり返り夜の表情をしていた。
「さて、お姫様。今宵は何を御所望で?」
レイミはそう言いながらまるで中世の騎士を気取るような仕草で彼女にお伺いをたてる。
「月が奇麗だからどこか良いところはないかしら?」
しかし答えたのはヒトミだった。
「ったく。アンタに聞いてるんじゃないの」
「あっ。でもそれいいかも」
彼女はヒトミの意見に同調した。
レイミとヒトミはニヤリと顔を見合わせると微笑みあった。
そして彼女の前に二人して膝まづくと
「かしこまりました。お姫様」
と言って深々と頭を下げた。そしてレイミは彼女の手をとった。
「じゃぁ!行きますよお姫様!」
「白馬は無いけど勘弁してね!」
「あーたカボチャの馬車もね!」
「十二時過ぎても私達はいますよ!」
レイミたちは月明かりに照らされて青く輝くアスファルトの上を走り抜けていく。




