ようこそ!しゃんぐりらへ!
「お?」
看板の前に立っていたカズヨシの目が丸くなる。
「カズヨシさーん。二名様ご新規でお願いしまーす」
しおんが笑顔でそういうと自分の後ろにいる人物二人を前に出るように促した。一人は女性で、一人は男性の橋本。
「君たちががレイミの言っていた…」
「橋本です!本日は紅魔館にご招待頂き有難うございます!!」
例によって橋本が鼻息荒く自己紹介をする。
「うちは別に紅魔館じゃないんだけどな…」
カズヨシが苦笑いをするとその後ろからスッと女性が姿を現した。
「私は秋葉原の…」
その女性は名乗ろうとしたがカズヨシが彼女の目の前に手を出しそれを制した。
「ここで肩書きは不要。君はただ身をゆだねればいい」
そう言うと店の入口に通じる階段を手の平で指した。
「ようこそ、しゃんぐりらへ。レイミ達が待ってるよ」
カズヨシは微笑みながらそう言うとその女性はコクリとうなずき歩み出た。
一歩一歩地下に通じる階段を下りていく。するとその行き当たりに一枚のドアが現れた。
ドアには平仮名で「しゃんぐりら」と明記されておりそのドアがカズヨシの手によって開かれた。
「いらっしゃい」
艶やかな女性の声がしたので彼女はそちらの方に顔を向けた。
そこには黒いナイトドレスに身を包んだレイミがいた。
「えっ…と」
それを見た彼女は一瞬だがそのあまりにも妖しくも魅惑的な雰囲気に圧倒された。
「昼間はどうもメイド長さん。今夜は貴女が主役よ楽しんでいって」
メイド長と呼ばれた彼女は目をパチクリさせた。
「そうよ。素敵なランチタイムありがとう」
黒いドレスの女性の後ろから更に緑色のドレス姿のヒトミが現れた。
「ま、ヤラれっぱなしは性にあわないでね」
その後ろからもう一人、鮮やかな金髪とシルバーのドレス姿が眩い、まーちゃん。
「お席の準備ができてますよ」
最後に彼女の後ろからしおんがボックス席につくように促す。
「あなたのお店のようなサービスは無理だけど今夜はハメを外して鬱憤を晴らしてちょいだい!」
レイミはそう言うと彼女の手を取りシートへと導き入れた。
成すがままに彼女はシートに腰を落とすと目の前に水割りのウィスキーが出てきた。
「たまには女王様になってみたら?」
ヒトミがそう言いながらズイとコップに入った水割りを突き出してきた。遠慮深げにそれを受け取ると彼女は口を付けた。
「プッはぁッ!!」
そして一口飲み干すとテーブルの上にそれを置いた。カンッ!とガラスのコップは音をたてる。
「おっ。いけるクチかな?」
レイミはそう言うと自分のグラスを煽った。
「ふうっ」
そしてそれを一気に飲み干すと自信ありげな表情を彼女に向ける。
「駄目よ、あのコの真似しちゃ」
それに驚いた彼女。諭すように横に寄り添いヒトミが話しかけた。
「おーぅ。たまにはやるか?ヒトミィ」
「やーよ、あんたと飲み比べなんてしたら身体がいくつあっても足りないわ。お酒は嗜むものよ」
そう言うとヒトミは水割りを一口軽く飲んだ。
「ハン!とか言って弱くなったの隠したいんでしょ」
「あんたこそ、その空威張りやめたら?」
「なんですって!」
「そっちこそ!」
レイミとヒトミは同時にシートから立ち上がる。二人は彼女そっちのけで口喧嘩を始めてしまった。
「あははははは!」
店内に響く笑い声。レイミとヒトミがキョトンとした表情をする。
「お二人共仲がいいんですね」
彼女はボックス席で腹を抱えて笑っていた。
「こんなのしょっちゅう」
向かいの席にいるまーちゃんが少し呆れた表情で話しかけてきた。
彼女はまーちゃんの問いかけに微笑みながら
「喧嘩って仲が良くないとできないんですよ」
そう答えた。
「私とレイミが!?」
ヒトミが頓狂な声をあげて彼女の隣に座り直す。
「えぇ」
「だって悪口はその人の事をよく見てないと思い浮かばないじゃないですか?」
「狭いお店だからいやでも目に入んのよ」
「レイミさん。でもそれってお互いに意識してないと無理だと思いますよ」
「なるほど」
「ヒトミ。あんただけ納得してるじゃないわよ」
「なにかしら?寂しがりやのレイミちゃん?」
「カーッ!!あんたのその減らず口いつかへし折ってやる!!」
「やれるもんならやって御覧なさい?」
「キーッ!カズヨシ!!氷溶けてる!」
「あー?自分で変えろよ」
「ったく!どいつもこいつも!!」
「あははは!やっぱり皆さん仲がいいんじゃないですか!」
彼女の笑い声が店内に響き渡る。しゃんぐりらの面子が繰り広げる漫才のようなやり取りはいつの間にか彼女の固くなった心をほぐしていった。




