これって?
「ここです!」
秋葉原のメインストリートからそう歩かない所にそれはあった。
一見すると雑居ビルのように見えたが入口の所にはそれ相応の装飾が施されていた。その雰囲気からその店がこの界隈でそれなりにランクの高い店だ分かる。
「いざ!鎌倉‼」
「お国の一大事かい?」
レイミはそう言うと入口の門を潜った。その後にボヤいたヒトミ、しおん、まーちゃん、最後尾にメガネの順となった。
ビルの入口から直ぐには店舗にはなっておらず、階段を登って行く。
そして登りきるとそこには重厚な作りのドアがあり中世の屋敷を思わせるような感じだった。
そしてそのドアは何も前触れなく静かに開いた。
「ようこそ。失礼ですがどちら様のご紹介ですか?」
オールバックでバリッと決めた蝶ネクタイ姿のスラっとした男性がレイミ達一行をいちべつするが、メガネの事を見つけるとその表情が少し柔らかくなった。
「これは、これは橋本様のご紹介でしたか」
彼はそう言うとドアを全開に開きレイミ達を招き入れた。
彼女達は促されるままにおずおずと入口のドアを潜った。しかし、そこはまだ店内ではなく玄関エントランスだった。そしてその奥にもう一枚ドアがありそちらはどうやら店舗になってる感じだ。
「先程は失礼いたしました。私こちらで執事を務めております。本日はご来店有難う御座います。どうぞ御自宅のように御くつろぎ下さい」
そう言うとハンドベルを鳴らした。
「チリリーン」と鐘の音は響くと同時にもう一つのドアが開いた。
「お帰りなさいませ橋本様」
そこにいたのは正に中世の屋敷に居そうな雰囲気を出すメイド姿の女性だった。彼女は深々と彼に頭を下げるとメガネこと、橋本から視線をレイミ達へと移した。
「当館へようこそ。主人の橋本に変わり本日は私がエスコートいたしますので、よろしくお願いします」
そう言うと再度頭を深々と下げた。
入口からその重厚な雰囲気に圧倒されっぱなしのレイミ達。
彼女のエスコートの元いよいよ店内のへと入る。
ドアを潜ったその瞬間、レイミはハッと息を飲んだ。
眼前に広がる世界があまりにも浮世離れしていたからだ。
中央に噴水、その奥にステージのような物がありグランドピアノとバイオリンが演奏者の手によってを美しい調べを奏でていた。
「こりゃー本当に中世のお屋敷に来たみたいね。映画のワンシーンみたい」
ヒトミが思わず言葉を漏らす。
「どうぞこちらへ」
メイドの彼女によってレイミ達は窓側の席へと促された。
「なんか、想像してたのと全然違うわね」
レイミは席に着くと小声でヒトミに囁いた。
「なんつーか、銀座でもこんなハイクラスな雰囲気だせる店はないわよ」
「てか、値段どんだけすんだ?」
まーちゃんが不安気な表情を浮かべる。
「多分、メニューとか見ても値段書いてないかもしれませんよ」
しおんがまーちゃんの気も知らずに不安をさらに煽るような事を言う。
「改めてまして私。本日、橋本付きのメイドでございます」
彼女はそう言うと深々と頭を下げた。
「橋本樣。本日はいかがいたしましょう?」
そして、メガネこと橋本の脇にスッと寄り添い指示を乞うた。
「んー」
彼はメイドの問いかけにしばし目線を漂わせた。
「ねぇ、ご飯って食べれるの?アンタ?」
レイミが橋本の方を見ながら言葉を投げかける。
「勿論」
橋本はそう言うと自分付きのメイドを呼び寄せて耳打ちをした。
「なんだか、私達は蚊帳の外ね」
ヒトミは隣にいるレイミに身を寄せながら囁いた。
「ねぇ、ヒトミ」
「なによ」
「あんた、今月余裕ある?」
「ダメよ、私だって今月ピンチなんだから」
「そーよね。場末のキャバ嬢の給料じゃ厳しいか」
「なんで借りる方が偉そうになのよ」
レイミとヒトミがゴニョゴニョ話してると先ほどの橋本付きのメイドと共に数人のメイドが列をなして彼女達のテーブルに近づいてきた。
「おっと、これは」
ヒトミはその厳かな雰囲気に一瞬飲まれた。
そしてそのメイドの集団はそれぞれの席にナイフとフォークのセットを始めた。
「う…」
それを見たまーちゃんの顔が一瞬歪む。
「みんな、落ち着きなさい」
レイミも平静を保つふりをしているがテーブルの下では激しい貧乏ゆすりが行われていた。




