再び
「こんな昼間っから客引きなんてしてくるのかしら?」
レイミは雑踏の中で懸命にチラシを配っているメイド喫茶の店員を何気に見ていた。
「ま、大体客引きなんてしてる時点でその店のレベルは押して知るべしね」
「ぼったくりって事?」
レイミが眉間にシワをよせる。
「最近じゃあまり聞かなくなりましたけど昔はあったみたいですね」
しおんが二人の会話に加わる。
「ふーん」
興味があるのかないのか?視線を合わせずレイミが気の抜けた返事をしおんに投げる。
「で、どーするの?あーた達」
まーちゃんがあおり気味に彼女達に問いかける。
「ねぇ!面白そうだから行ってみようよ‼」
レイミは瞳を輝かせてながら皆を見たが「あー…」っと、ヒトミは乗り気の無い返事をする。
しかし、再び彼女がレイミの方に首を向けたときにレイミの姿は既になかった。
「ちょっとレイミ」
ヒトミは慌ててレイミを探す。
彼女は意外なところにいた。先ほどまで自分達が見ていたメイド喫茶の店員の前にいた。
レイミは躊躇なく彼女に話しかける。
「ねぇ、ここら辺で一番のお店はどこ?」
質問を投げかけられた彼女は困惑の表情を浮かべた。
「ちょっとあーた、なんて事きいてるの?」
まーちゃんが慌てて間に入る。
「そうよ、大体自分の店以外をすすめるおバカな店員なんているもんですか」
ヒトミもそれに加わる。
「ん~、流石にそれはないか」
レイミもどうやら分かって聞いたみたいだ。
「だれかそういうのに詳しい人はいませんかねー」
しおんが思わず口走る。
「ねぇレイミ。カズヨシとかはどうなの?」
「あぁ、あの東方バカがそんな事知ってるとは思えないわ」
レイミはヒトミの質問にピシャリと言ってのけた。そんな時だった。
「その声は!」
と、誰か男性の叫びがレイミ達の耳に飛び込んで来た。レイミは思わず「誰よ」と口走ってしまった。
「やはりおぜう様‼」
その声の主は何か確信めいたものを感じると、こちら側に近づいてくる気配を放った。
そしてそれはレイミ達の背後で止まった。レイミはゆるゆると顔をそちら側に向ける
「あ!アンタ‼」
彼女の眼前には銀縁眼鏡姿の男性がいた。
「え?レイミさんの知り合いなんですか?」
しおんが驚いたような声をあげる。
「しお~ん。あんたもお水の端くれなら人の顔位ちゃんと覚えておきなさいよ~。この前私達がコスプレした時写真撮ってたヤツらよ」
ヒトミが少し先輩風を吹かせる。
「ちょっと、アンタのせいであのあと大変だったんだからね‼」
レイミは激高しながらその男性に言い放つと彼の胸倉をつかんだ。
「さ、さすがに国家権力が相手だと…」
その胸倉を掴まれた男性はしどろもどろになりながらもレイミの問いかけに応じる。
「あの時調子こいてたのはどこのどなたよ」
ヒトミが怒り狂うレイミをよそに冷静に言い放った。
「ま、いいわ」
そう言われた彼女は落ち着きを取り戻すと、彼から少し距離を置いた。
「ところであーた、何で私達って判ったの?」
まーちゃんが素朴な疑問を彼に飛ばす。
「そりゃー我々のようなオタクがキャラクターが変わっただけで、声優の声がわからなくなるなんてありえないです!顔がわからなくても声でわかります!それがオタクです‼」
眼鏡の彼は鼻息荒く自慢げに答えた。
「中の人などいない!」
「私達の声は別に声優さんがあてがってる訳じゃないんだけどね…」
激しくレイミ、静かにヒトミが言い返す。
「あの~。メガネさん」
「はいなんでしょう。パチュリー様」
「メイド喫茶とか詳しいですか?」
しおんによって彼はメガネと名付けられた。その彼は得意満面の笑みを浮かべてしおんを見返す。
「勿論ですとも‼」
「お、なんだか頼もしい返事だな」
「任せて下さいおぜう様‼」
そう言うと彼は勇ましく一歩踏み出した。
「な、何だったのかしら?あの人達…」
一人ポツンと残されたチラシ配りの彼女。その表情は正に狐につままれたよう。




