こっちも
店に戻ったレイミとまーちゃん。店内の華やかさを彩る照明は落とされており、無機質な蛍光灯が灯っていた。
そして、彼女達の定位置。真ん中のボックス席に私服に着替えたヒトミとしおんがテーブルの上に数枚の画用紙みたいなものを広げて、何か話していた。
「なるほど、あなたの頭の中じゃ古明地姉妹はこうなっているのね」
しおんがヒトミの少し不満気な質問に渋々と「ハイ」と答える。
「足らないわ…。無邪気さの中にある狂気が…。純粋な残酷さが…」
その不穏な空気をまーちゃんは察すると
「あーこっちもか…」
と、吐き捨てるように呟く。
そんな彼女のボヤきとは裏腹にヒトミの講釈は続く。
「いい。古明地姉妹は人の心を読む妖怪よ。とくに妹の古明地こいしはその能力に耐えきれなくなり心を閉ざしてしまったの。それ故に人々から存在そのものが消えたようになったの」
「まるで道端に落ちている小石のように…」
「そう、その存在感はまるで道端の小石のよう…」
ヒトミはそう呟くとボックス席のソファから立ち上がった。そして明かりの消えたシャンデリアを見つめた。
「ふん、そんな木っ端妖怪が吸血鬼の開祖に勝てると思って?」
レイミが突然ヒトミに言い放つ。
その言葉を聞いた彼女はシャンデリアから視線をゆっくりとレイミへと移していく。
「それはどういう事かしら?」
「言葉の通りよ」
ヒトミの質問に鋭く答え返すレイミ。
しおんの目の前でヒトミのスカートが舞い上がる。
二人はまるで申し合わせたかのように店の中央。シャンデリアの真下に歩み寄った。
「生き血を啜るだけのバケモノにそんな事を言われる筋合いはないわ」
「ふん。己の力に耐えきれなったヤツの戯言を聞き入れる耳はコッチには無いわ」
「なにお‼」
「ヤル気?面白いかかって来なさい‼」
「んんっ」
まーちゃんが二人の会話を遮る様に咳払いをする。
それを聞いてハッと我に帰るレイミとヒトミ。
「あーた達店の中で弾幕ごっこでもするつもり?」
「残念ながら私達にそんな能力は無いわ」
「そうね」
レイミとヒトミはお互い顏を見合わせるとニタリと怪しい笑みを見つめた。
「はぁーあ。いつからウチは東方プロジェクトの巣窟になったんだ…」
私服に着替えたカズヨシが頭を抱えながらバーカウンターから出て来た。
「何言ってんのアンタも東方にズッぽしハマってるじゃないの」
珍しくレイミがカズヨシに対して呆れ口調で言い放つ。
「アンタ達みたいな二次創作メインのニワカに言われたく無いね。こちとらシューティングゲームからのファンなんだ」
カズヨシはナゼか勝ち誇った様な表情を浮かべながらレイミに言う。
「ふん。今の東方を支えてるのはゲーマーじゃなくて二次作の同人作家よ」
その横からヒトミが口を挟む。
「元ネタが無くてどうやって二次作品を作るんだよ」
「確かにカズヨシの言うとおりね。ヒトミ」
「ぐぬぬ」
ヒトミはレイミの最もな意見に対して釈然としない表情を浮かべる。
「さっ!仕事も終わったしとりあえずメシでもいかない?」
まーちゃんが一際明るい声で皆んなに問いかける。
「そーね」
レイミはそう短く返事をするとヒトミとしおんを見た。
彼女達は特に返事をするでもないが微笑みながらレイミに視線を合わせた。
「カズヨシ。あなたも付き合いなさい」
「あー?どうせ俺に奢らせるつもりだろ?」
カズヨシの憮然とした返事にレイミはニタリと口元を緩めただけだった。