いざ!
同人誌の委託販売。普通の人達には馴染みのない言葉かもしれない。
同人誌。いわゆる自主出版による書物の販売であり、世間一般には
同人誌=漫画
と、いう認識が強い。
一昔前なら、それらはコミックマーケットに代表される即売会でしか手に入らなかったが、物流網や、コンピュータを含めた印刷技術、インターネットなどの発達、普及によってより安価に大量に作る事が可能になり、その市場規模も急速に拡大していき、一大市場として今にいたる。
同人誌の委託販売。それこそ一昔前なら色目でしか見られなかった商売が今や場末のキバャクラの赤字を補てんするまでの販売力を持ってしまったのだ。
「たしか、この大通りよね」
大型のドルフィー専門店を右に見て、JRの高架をくぐるような感じで左にまがりアキバのメインストリート、中央通りにしゃんぐりらの面々は出る。
そこにはテレビや新聞でよく見る、いかにも秋葉原といった光景が広がる。
雑居ビルが所狭しと立ち並び、電飾とは無縁のセル画をそのまま引き延ばしたような大型看板がまるで壁というか?小高い丘のようにというか?そんな感じに立ち並ぶ。
「んー?アキバと言えば電気屋の看板が昔は目立ったのに今は、知らないアニメやゲームの看板ばかりだなー」
レイミは行きかう雑踏越しに秋葉原の変わった光景を口にする。
「レイミ?あんまり変わった、変わった、いってると歳がばれるぞ」
ヒトミがニヤニヤした顔つきでレイミに耳打ちをする。
「ん。それもそうね」
彼女はそう一旦口にすると改めて辺りを見渡した。
「ッても、本当に知らんもんばかりだから何を言っていのか解らん」
「ま、そんなもんよね」
「私はあーた達の言ってる事の方がよっぽど解らん。アキバってこんなもんじゃないの?」
まーちゃんはそう言うと二人より一歩前に体をズイと出した。
中央通りを上野方面に十分位歩いたところだろうか?
アイドルグループが拠点にしているディスカウントショップまで行かない位の途中のところ。長細い雑居ビル然とした佇まいの店構え。入口の自動ドアの向こうに所狭しと新刊の漫画本が陳列されているのが伺える。
「あ、ここ」
先頭を切って歩いていたまーちゃんが立ち止まる。
ここが彼女達の同人誌を委託販売している書店。「虎だらけ」 だ。
何かとアンダーグラウンドな雰囲気を醸し出す同人誌だが正面の店構えからすると普通の書店と変わりない感じはする。
「案外小さいビルなのね」
レイミが見たままを口にする。
「でも、これのビル殆ど同人誌で埋め尽くされてるんでしょ?」
レイミの横にいるヒトミが口をはさむ。
「そう、考えるとちょっと凄いですね」
しおんが少し驚いた眼差しで目の前のビルを見上げる。
「じゃあ、いくか」
まーちゃんがそい言いながら正面の自動ドアをくぐった。
「ウィーン」という自動ドアの作動音の後に、店内にいる客の視線が何故か彼女の達に注がれる。
まぁ当然だろう。オタクの聖地と言っても過言ではない秋葉原のそれなりにディープなスポットにいきなりキャバ嬢丸出しの格好をした四人組が入店したのだ。注目を浴びない訳がない。
書店独特の香り。漂うインクの匂いを押し分けて彼女達の香水の匂いが辺りに広がっていく。
「おっ…」
まーちゃんが一瞬たじろぐ。後ろに続くレイミ達もその雰囲気を敏感に察知した。
「なんか、銀座以上に私達の場違い感ハンパないわね」
レイミはその一種独時な雰囲気に風当たりの悪さを感じた。
客層はおおよそ二十代から三十代位の男女が半々位。平日の午後だがまばらに客はいる。
そしてそれは皆、レイミ達に一旦視線は向けるものの、すぐさまそれを手元に落とした。
「なんか、みんな無駄に殺気立ってるわね」
「普通に考えれば本屋なのになんでピリピリしてるのかしら?」
レイミとヒトミは店内の雰囲気を肌で感じると、思わずそれを口にした。




