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しゃんぐりら ~板橋の桃源郷~  作者: リノキ ユキガヒ
入稿!打ち上げ!秋葉原?
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時の移ろいは…

「いやー。おつかれ、おつかれ」

 ほろ酔い加減のカズヨシがボックス席でくつろいでいるレイミ達に話しかける。

「あー、なんか久々に飲んだ感じがしたなー」

 レイミはそう言うとボックス席の背もたれに自分の体を預け天井を仰いだ。

「ま、今日はお祭りみたいなもんだから仕事の事は忘れて楽しんでくれても大丈夫」

 カズヨシはそう言うと制服の蝶ネクタイをほどいた。そしてそれから

「ちょっと頼みたい事があるんだけどさぁ」

 と、レイミ達の顔色を伺いながら少し小声で話しかけた。

「何よ?」

 レイミがシートに預けていた身体を起こし虚ろな目で彼の話に耳を傾ける。

「実はさ、明日急用ができたんで、オレの代わりに顔出してほしい所があるんだよ」

「えー、どこー?」

 レイミが気の抜けた返事をする。

「アキバの虎だらけ」

 カズヨシが彼女の問いかけに間髪をいれず返す。

「え?それって委託先に挨拶に行くって事?」

 ヒトミがボックス席から身を乗り出しながらカズヨシに問い直す。

「まー、そうなるかな?」

 彼は幾分語尾を濁す。

「ってー事は私たちに営業をしろと…」

 ヒトミの視線が迷いなくカズヨシに注がれる。

「そんな、大袈裟なもんじゃないさ。担当の人と二言、三言話せばいいだけ」

 彼はヒトミから幾分視線をずらしフロアにそれを落ち着けた。

「まー、いいじゃんヒトミぃ。たまには顔位出した方がいいかもよ」

 ほろ酔い気分の抜けてないレイミがヒトミの太ももを撫でながら話す。

「じゃ、頼んだぞ」

 カズヨシはそう言うとそそくさとフロアを後にした。

 そして次の日、というかほぼ半日後


「まぶしい」


 秋葉原駅の前で佇むレイミ。彼女の全身にさんさんと輝く太陽の光が注がれる。

「ったく。吸血鬼みたいな生活をしているお水に日の光は毒だっツーの」

 レイミはそうボヤクと辺りを見渡した。

「ま、その気持ちは分からなくもないわね」

 その後ろからヒトミが突然話かける。

「なに?アンタいつからいたの?」

「たった今よ」

「あぁ、そう」

 レイミとヒトミは挨拶代りに言葉を交わすと二人とも自分たちの前に広がる光景をぼんやりと眺めた。

「ねぇヒトミ」

「なによ」

「こんな事言いたかないんだけど」

「んー」

「こうやって秋葉原の町並み見てると」

「んー」

「私達も年をとったわねーっておもわない?」

「んん⁉」

 ヒトミの生返事が突然驚きの声に変わる。

「なによ突然」

 彼女はそう言うとレイミの方を目を丸くして見る。

「いや、昔はさーアキバなんて本当に電気屋しかなかったのに、今じゃでっかいオフィスビルまで立っちゃって、サラリーマンが行きかうオフィス街みたくなっちゃったなー、ってふと思ったワケ」

「まぁ、時の移ろいだわな。アキバで同人誌も一昔前だとちょっと想像しづらいわね」

「そうよねー」

 二人にしばしの沈黙が訪れる。

 

「はぁー」

 

「あーた達なに二人揃ってため息をなんてついてるのさ?」

「時間って残酷…。って話」

 ヒトミが遠い目をしながら待ち合わせ場所に現れた、まーちゃんの問いかけに応じる。

「はぁ?」

 たった今来て、話の脈略が見えないまーちゃんにとって二人の状態は正直理解に苦しむところだろう。

「お二人の知っている秋葉原と今の秋葉原って大分違うんですかー?」

 まーちゃんの後ろからピョッコリ現れたしおんが彼女達に質問をとばす。

「アンタのその質問、グッサリ心に刺さるわね。なぜかしら?」

「傷口に塩とは正にこの事ね」

 レイミのボヤキにヒトミが答える。

「ま、とりあえず行こうか?」

 まーちゃんはそう言うと皆に背を向けた。

 東京は秋葉原。戦後の闇市から発達した電気街は今や日本のサブカルチャー発信基地としてその姿を変えたと言っても過言ではないだろう。

 レイミとヒトミはそれを肌で感じながら時を過ごしたのだ。

 まぁ、彼女達の年齢はこの際不問にして頂こう。

 




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