癒し。癒しです…。
「やーい、いい歳こいて怒られてやがんの」
レイミの茶化す声がクラブ・しゃんぐりらの入口である階段付近から聞こえてくる。
カズヨシは声のする方を何気に見た。
すると、聞き覚えのする声はするが入って来た四人の女性を見ると一瞬、ギョッとした表情を浮かべた。
「おっ?カズヨシが、湯上がり美人の私達を見てビックリしてるぞ~」
「やーねー。カズヨシったらそんな色目を使わなくても~」
レイミとヒトミはそう言ったが、カズヨシの瞳は明らかにそれとは違う反応を示す様にパチクリとしていた。
「いや、そうじゃなくて。お前ら二人ノーメイクだと全く誰だか分からない」
と、言い放った。
笑顔のまま固まるレイミとヒトミ。
「ぶふっ!」
二人の後ろにいたまーちゃんが思わず吹き出す。
「カズヨシが分からないって、あーた達普段どれだけ盛ってんのよ」
「なによ?あんただって結構なもんだったじゃない?撮影会の時」
「バカ。あれはあれ用だし、まーちゃんのスッピンは撮影会で見慣れてるから俺は何とも思わねーんだよ」
「あー、なんかもう漫画書く気無くしたー」
「アホか?ボヤいてないでとっとと仕上げろ。俺だだっていつまでも付き合わねーぞ」
「そうよ。地下に幽閉なんて冗談じゃないわ」
「レイミさん。ほら、あと一息ですよ」
そう言いながらしおんはレイミの手を引いた。
その時彼女の顔が間近になる。
「はーっ。やっぱり若いと肌のハリが違うわねー」
と、言いながらしおんの顔をまじまじと見た。
そして思い出したかのように話した。
「そういえばまーちゃんなんであの時水に浮いていたの?」
「なんでまた」
その突拍子のないレイミの質問にヒトミが突っ込みをいれた。
「いや、さっきのスーパー銭湯といい、しおんの肌のみずみずしさ見てたら急に思い出しちった。」
スツールに腰掛けながらレイミはカウンターに頬杖をつきまーちゃんの方に視線を向けた。
彼女は一瞬戸惑ったような表情を見せたが特にこれといった表情を浮かべる事なく淡々と語った。
「あぁ、あれ?。あのプール実はアクリルの板で上底になってるんだよ。だから何にも知らない人からすると確かに水の上に浮いてるように見えるねー」
彼女はそう答えるとボックス席の方に腰を落とした。
「はーっ!なるほど。よくできてるなー」
レイミは感嘆の声をあげる。
「てーか、手品の種って分かると案外あっけないわね」
ヒトミがそう付け加える。
「何かいかにも、知ってました的な感じでアンタ言ってるわね」
そう言ったレイミの瞳が怪しく光る。
「そうだけど?」
それに気付く事なく即答するヒトミ。レイミの口元がいびつに歪む。
「そっか。あのプールって確かエッチなビデオで有名なんだっけ?だからか?ムッツリスケベのヒトミちゃん」
「ちょっ!アンタみんなの前で何て事言うのよ?」
「えっ…」
「あっ!ほら!しおんが引いてるじゃないのよ!」
「私は事実を言っただけですよーだ。今から漫画書くのに集中したいから話しかけないでねー」
そう言うとレイミは漫画原稿用紙に向かって漫画を書き始めた。
「っく~~」
「こりゃ、一本取られたなヒトミ」
カズヨシがカウンターの向こう側でスマホをいじりながら言い放つ。
やり場のない感情をヒトミは押し殺しながらフロアにたたずむ。
「まぁ、あーたの気持ちも分からなくはない」
なぜかまーちゃんがヒトミの肩を抱き慰める。
彼女の胸に顔をうずめるヒトミ。
「ふん。二人で傷でも舐め合いなさい」
レイミは冷笑しながら執筆を続ける。彼女はその負のエネルギーを吸収するように滑らかに、リズミカルに筆を進めていった。
そして、彼女の原稿は遂に完成を迎えた。
「おっし!お疲れさん?あとは俺が小茂根印刷に持って行くだけだ!」
カズヨシは勢いよく立ち上がると、クラブしゃんぐりらを立ち去った。




