タクシーの運転手「!?」
「おーい、着替え持って来たぞー」
ボストンバッグを抱えたまーちゃんが出入り口となっている階段の所から入って来た。
「つーか、あーた達せめてドレス位脱ぎなよ」
まーちゃんはヒトミとレイミの姿を見てそうつぶやいた。
「そんな、時間も勿体なないの」
レイミが漫画原稿用紙に噛り付きながら答える。
「じゃぁ、私は着替えますか」
そう言うとヒトミはロッカールームへと向かう為スツールから立ち上がった。
その刹那。まーちゃんが思わず声を出した。
「あーたから、なんか臭う」
「臭うって失礼ね、私はそんな粗相はしてないわよ。そこで漫画ガリガリ書いてる人の方がよっぽど臭いそうだけど」
ヒトミは半信半疑に答える。
「いや、つーか、あーた達二人から何か、香水に混じって汗臭いよーな何とも言えない臭いがする」
まーちゃんが鼻をスンスン鳴らしながらそう言い放った。
「おい、まさかと思うが二人共…」
カズヨシが幾分引き気味に核心に迫る質問を放つ。
「だってウチに帰ってもいつの間にか出勤時間になってるだも~ん」
「私だってレイミに付き合ってたらお風呂なんて入る時間なんて無いわよ~」
レイミとヒトミ。二人してどうやら入浴をしてなかったらしい。
「おいっ!接客業してるヤツが風呂に入らねーなんてあり得ねーだろ‼今から銭湯でも行ってこい‼」
カズヒロは驚きながら怒鳴った。
「って言ってもこんな夜中じゃ銭湯は閉まってるから、明日」
元々無精なヒトミが面倒臭いのか?言い訳をする。
「馬鹿言え‼まだ酔ってるのか⁉だったら酒を抜くついでだ!タクシー使ってもイイから近場のスーパー銭湯行ってこい!」
そう言うとカズヨシは鼻息荒くタクシー会社に電話をいれた。
程無くするとキャバクラ・しゃんぐりらの前にタクシーが横付けされた。
タクシーの運転手は意気揚々と後部座席のドアの前に立って、キャストの面々を待った。
運転手も何だかんだで男だ。不粋な疲れたサラリーマンを乗せるより、華やかな水商売の女性を乗せた方が気分はいい。
彼はそんなソワソワした気分を悟られないようにキリリとした面持ちで待ち構えた。
しゃんぐりら店内に通じる地下への階段から華やいだ女性達だけのしゃべり声が徐々に大きくなってくる。
彼の先ほどまでキリリとした口角の両端は微妙に緩んできた。
そしていよいよ彼女達が見えそうになると、さらにその顔はだらしなく鼻の下まで伸びていた。
が、自分が思い描いていたのとは全然違う容姿の女性四人組が姿を表し思わず固まってしまった。
「あ、タクシーもう来てますよ!」
メガネ姿のしおんが自分のタクシーを指差した。依頼は確かにこの近所のキャバクラだったはず。タクシー運転手歴20年。ベテランであるはずの自分が場所を間違える筈はない。
しかし、彼女達。というかまるで何か合宿でもしている様な出で立ちの女性四人は真っ直ぐ疑いもなく自分のタクシーへと向ってきた。
「えーと、県境にあるスーパー銭湯までお願いします」
リーダー格の女性だろうか?メガネをかけ茶色の髪の毛を無理矢理まとめ上げた乱暴な髪型。
女性は行き先と一緒に強烈な香水の臭いと他に、何か得体のしれ無い臭いも放っていた。
彼は疑心暗鬼のままタクシーを発車させた。
そして頭の中は最寄りである県境のスーパー銭湯への最短ルートを模索していた。




