しゃんぐりら。とは
金曜日の夜という事もあり「しゃんぐりら」にしては客の入りは上々だった。
とは、いっても三つあるボックス席が全て埋まる程では無い。
四人のキャストでフリーのお客を回すのに丁度いい程度の客の入りだ。
「ふうっ」
最後の客が店を出るのを見送るとレイミはひと息付いた。
「あーっ、何だかんだで金曜の夜は忙しいな」
まーちゃんが背伸びをしながら店の入り口へと身体を向ける。
しかし、レイミはナゼか夜空を見上げていた。
「今宵は満月…」
彼女はそう呟くとまとめ上げていた髪を解いた。
黒い髪に白のメッシュが入ったセミロングの髪型が月明かりに青く照らされながら肩の辺りまで滑り落ちていく。
「あー…。レイミ?」
呆れ半分の声でまーちゃんが、話しかけるが彼女の耳にそれは届かなかった。
「お嬢様。私の想いはいつになったら届くのでしょうか」
レイミは祈るようにそう言うと胸の辺りに組んだ両手を上げた。
その後ろでまーちゃんが「またか…」とボヤく。
「闇夜の世界に身を投じて幾つの月日が経ったのでしょう。幾つの満月を見たでしょう。そしてあなたにどれだけ近づけたのでしょうか?真紅の御旗の元にどれだけ身を投じればあなたの元へといけるのでしょうか?教えて下さい。お嬢様。レミリア・スカーレット」
そうひとしきり言うと静かに目を閉じた。
「へっくっし‼」
しかし、そのような厳かな雰囲気をブチ壊すようにクシャミの音が夜空に轟く。
「レイミ。あーたね、そんな格好で長いこと外にいたら風邪ひくっつーの」
クシャミを放ったレイミに完全に呆れかえった口調で話し掛けるまーちゃん。
「ウルサイ!アンタみたいに人前でヘソやら脇やらを見せびらかせて喜んでいるのとは訳が違うのよ!」
「ま、その事に関して全力で否定はしないけど」
「好きでやってたのね!HENTAI!」
「何で変態だけ英語なまりなのよ。私はもうすぐ撮影会で風邪ひくと困るから、先に戻ってるわよ」
まーちゃんはそう言い放つとレイミに背中を向けた。
彼女のドレスの裾が舞い上がり、深めのスリットから魅惑的な足が一瞬露わになる。
「あ、ちょっと待って」
レイミは慌てまーちゃんの後を追いかけて行く。
そしてキャバクラ「しゃんぐりら」の幕は閉じて行く。
しかし、ここから「しゃんぐりら」はもう一つの顏を覗かせる。
そう、それは同人誌制作サークル
「しゃんぐりら」
だ。
彼女達は夜にキャバクラの仕事をこなし、余った時間を同人誌の制作に当てているのだ。
つまり「しゃんぐりら」は、
夜はキャバクラ
昼は同人誌のクラブハウス
となっていたのだ。
しかもこの同人誌サークル「しゃんぐりら」
知る人ぞしる有名サークルで、某大手。同人誌委託販売業者のランキングに時々顏を覗かせる程である。