一発!
「あいたー。それって全く手付かずって事?」
まーちゃんが素直な声で嘆く。
「ま、何かあったんですよね。レイミさん」
しおんは気づかうように優しい言葉を投げかける。
リビングのテーブルの前にチョコンと正座して座るレイミ。
それを見下ろす様に見る。カズヨシ、まーちゃん、しおん。
ヒトミはレイミが漫画を描く机の椅子に脚を組み座っている。
「どーでもいいけどヒトミ。あーたどうして下だけジャージなの?」
「バスルームでちょっとお仕置き」
「はぁ?」
まーちゃんが頓狂な声をあげる。彼女は思わずカズヨシに視線を飛ばすが彼は目線を逸らして遠くを見る。
「でも、よかった。家にある画材と機材ありったけ持って来ましたよ」
そう言うとしおんはボストンバッグから色々出し始めた。
ノートパソコン、スキャナー、ペンタブレット、トレイサー、文房具各種に漫画原稿用紙。
「レイミさんが下書きさえ描いててくれればなんとか私の方で仕上げます」
しおんはレイミを見ながら力強く言った。
「でも、肝心の作品が全く手付かず…」
ヒトミがそう言うと彼女の座る椅子がキイっと鳴った。
「兎に角。何かしないと先に進まねーな」
窓際に立っていたカズヨシが口を開く。
「私だって書けるもんなら書きたいわよ。でも…」
レイミがうつむき呟く。
「アイディアが浮かばない…。って事?」
ヒトミがそう言うとレイミはコクリと頷いた。
「まぁ、あんたみたいにテイション一発のコメディをメインにしてるとネタは貯めづらいわね」
「そうなの、何かキッカケがあれば一気にいけるんだけど…」
レイミが気の抜けた声をあげる。
「じゃぁ皆んなでアイディアを考えましょう!」
しおんはそう言うとスケッチブックをボストンバッグから取り出してレイミ達が集まるテーブルの中央にデンと置いた。
「何でも出てくるボストンバッグね…」
ヒトミはそう呟くと座っているイスからテーブルの方へと移動した。
しゃんぐりらの四人は額を付き合わせる。
「ところでレイミ。アンタどんな話書こうとしてたの?」
「なんかこうドタバタしたの」
「あー。派手な感じね」
「そう、でも正直紅魔館のメンツだとなんかマンネリ気味で…」
「ほかの面子は?」
「設定がよくわかんないから何かシックリこない」
レイミとヒトミがアイディアの種を探る作業に入った。
それをしおんがサラサラとスケッチブックにまとめ上げる。
「てーかいっその事、あーたが幻想郷行っちゃえば?」
まーちゃんが何気なく言葉を放つ。
「ははは‼だよな。おまえ満月の度に表で何か祈ってるよな」
カズヨシが笑いながら言い放つ。
「げっ!何で知ってるの⁈」
「知ってるも何もウチの常連さんは皆んな知ってるぞ。満月度にお前が何かブツブツ言ってるの」
「えぇーッ‼」
レイミが顔を真っ赤にして頭を抱える。
「出たー!カリスマガード!うー☆」
それをヒトミが茶化す。
「てーかもー、あーた達自体がもう漫画みたいダワ」
まーちゃんが事態の深刻さとは逆の雰囲気に若干、呆れ気味になる。
「ウフフ。でも何だかいい感じだよ」
しおんはそのやり取りをスケッチブックに書いていく。
「ちょっとアンタ!私を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ」
レイミはそう言いながら立ち上がると机に向かった。
先程とは打って変わりシャーペンのペン先が流れる様に動いていく。
そして白紙だった漫画原稿用紙の一コマ目にどこか見覚えのある店構えが書き上がった。
「見てらっしゃい」
レイミはそう言うとモーレツな勢いで作画を始めた。




