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しゃんぐりら ~板橋の桃源郷~  作者: リノキ ユキガヒ
マジで⁈締め切り五日前‼
38/72

あーっ!!

レイミの自宅であるマンションに着いたしゃんぐりら一同。しかしメンバーが二名足りない。

「あれ?まーちゃんとしおんは?」

ヒトミがカズヨシに問いかける。

「あぁ、画材と機材を取りにまーちゃんのバイクでしおんの家に寄ってからコッチに来る手はず」

カズヨシはそう答えるとレイミの背中をトンと押した。

「ちょっと、罪人みたいな扱いしないでよ」

レイミが反抗的な声を出すが、カズヨシとヒトミの目はそれを見る様な視線だった。

しょうがなく入り口のドアに身体を向ける。

「なんか、脱税したキャバ嬢を追い込む税務官みたいね…」

レイミがボソリと呟く。

「おまえ、脱税した事あるのかよ」

「ったく。締め切りだけじゃなくて税金もブッちぎってるの?」

カズヨシとヒトミの本気とも取れない様な口調がレイミに突き刺さる。

「確定申告はしてますよ‼」

そう叫ぶと自室のドアのキイを開けた。

「はい、どうぞ」

不粋な表情のままレイミは二人を招き入れる。

間取りは2DK、極一般的な間取りだ。

「ったく。相変わらず生活感の無い部屋ね」

ヒトミがそう呟きながらリビング中央にあるテーブルに腰を落とす。

「できてる所までの原稿見せろよ」

カズヨシがレイミに原稿を催促する。

「ん」

レイミはそう言いながら原稿を渡すが、カズヨシは思わず絶句した。

「なんだこりゃ⁉出来てないじゃねーか‼ペン入れ一ページの途中までとかアリかよ⁈」

「アレ?デキテナカッタノカナ~?」

レイミは冷や汗をかきながらオトボケを決め込んでいるが、カズヨシの背後には紅蓮の炎がメラメラと燃え上がっているのが見えた。

「ダメだこりゃ」

ヒトミもガックリ肩を落とす。

「っち。だからってレイミの漫画を載せ無い訳にはいかない。兎に角やれるだけやれ。レイミ」

「ま、そーね」

「うん。頑張る」

レイミはそう言いながら机に向かいペンを握った。

その様子を固唾を飲みながら見守るヒトミとカズヨシ。

しかし、ペン先は一向に動く気配が無い。

「あんた、話しすら作ってないわね」

レイミの背後からまるで亡霊の様に囁くヒトミ。

「ハハっ?まさか!フシュ~ゥ」

確信を突かれた動揺からか?レイミは変な呼吸をしだす。

「じゃぁ、ネーム見せなさいよ。私が先にテキスト切ってあげるから」

そう言いながらヒトミは手を差し出す。

「ネームはコ・コ♩」

と、言いながらレイミは自分のこめかみの辺りを指差した。

「ヒトツっも出てこないのに何が頭の中だーーーーッ‼」

ヒトミはレイミの襟首をひっ掴むとバスルームへと彼女をそのまま引き摺って行った。

「アーーーーッ‼」

バスルームからレイミの絶叫が聞こえる。

「おー。今夜はいい月がでてるなー」

そしてカズヨシは窓から見える景色をただ眺めるだけだった。


「ピンポーン」


レイミの部屋のチャイムが鳴る。

画材と機材を持って来たまーちゃんとしおんが到着したようだ。

「ハーイ」

と言うインターフォン越しの返事と共にガチャリと施錠を解く音がして、そこから見慣れない顔がニュッと出て来た。首から下はスエットだ。

まーちゃんは一瞬ギョッとしたが髪が白黒メッシュだったのでそれがノーメイクで部屋着のレイミという事が解った。

「さぁ、上がって頂戴」

まるで、魂というか覇気の抜けた声でレイミは二人を招き入れる。

「お、おう」

まーちゃんはその何かヤツれた様子の彼女に一抹の不安を抱きながらも入り口のドアを潜った。


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