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しゃんぐりら ~板橋の桃源郷~  作者: リノキ ユキガヒ
開いた希望のヒトミ
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満月の夜に…

 ヒトミから発せられるオーラにレイミはたじろいだ。

 銀座の酒神バッカスと言えばこの世界では知らないと人間はいないと言われる位の名店だ。

 そこの元ホステスとくれば当然同業者としては一目を置く。

「お姉さん。どうして辞めたの?」

 今まで我関せずとした態度をとっていたカズヨシが突然ヒトミに話しかける。

「自分という人間に自信が持てなくなって…」

「ふーん」

 カズヨシは短く言葉を返す。

「なぁレイミ。お前さぁ、あのままホスト狂いが治らなかったら今頃、風俗落ち確実にしてたよな」

「ちょっと!今何でそんな事言うの⁈」

 動揺と怒りが混じった感じでレイミはカズヨシに向かって声をあげた。

「そうね~。運良くカズヨシに出会えたから貴方は道を逸れずにすんだわ」

「オーナーまで」

 バツが悪いのか今までヒトミに悪態をついていたレイミが急に顔を赤らめ萎縮し始めた。

「この娘が悪態つくのは寂しがり屋だからなの。だから許してあげて…」

 オーナーは少し困った表情を浮かべるとヒトミに少し頭を下げた。

「いえ、別に私こそムキになってしまって…」

 彼女も謝罪の表情を露わにする。

「あの…」

 ヒトミの耳に意外な人物から声が入る。

「さっきはゴメンなさい」

 レイミが腰をおり深々とお辞儀をする姿がヒトミの目に飛び込んできた。

「私の方こそヨソ者なのに偉そうな事言ってゴメンなさい」

 彼女もレイミに習い頭を垂れる。

「じゃっ、二人とも仲直りした所でお店をあけますよ」

 オーナーはそう言うと入り口の所で入りたそうにソワソワしているサラリーマン風の男性二人組を店内へと促した。

 二人組のサラリーマンはオーナーのエスコートでレイミのいるボックス席へと向かって行った。

 そこには満面の笑みでそれを迎え入れるレイミがいた。ボックス席が華やぐ。

 その様子をヒトミは懐かしそうな目で見ていた。

「お姉さん。今日はここでノンビリしていきなよ」

 カズヨシはカウンターからそうヒトミに話しかけるとウィスキーの水割りをヒトミの前に置いた。

 ヒトミはスツールに腰掛けるとカズヨシの出した水割りに口を付けた。

 氷でキンと冷えたグラスの感触と琥珀色に輝くそれがヒトミの心に何かを目覚めさせた。

「あの…私をここで雇ってくれませんか?」

 突然の申し入れにカズヨシは粒らな瞳をパチクリさせた。

「ま、それはオーナーの決める事なので…」

 と、いいながら目でヒトミに合図を送る。彼女の後ろには微笑みをたたえながらオーナーが立っていた。

 ヒトミはカズヨシのいれた水割りを飲み干すと店を後にしようと席を立った。

 凄く久しぶりに外で酒を飲んだ。

 忘れていた高揚感が彼女の胸を高ぶらせた。

(本当に久しぶりこんな感じ)

 ヒトミはそう心の中でつぶやくと出入り口になっている階段を登って行った。

 そして地上に出たのと同時位に誰かから呼び止められた。

「ちょっと待って‼」

 その声の主はレイミだった。

 彼女は荒れた息を整えると、ヒトミをジッと見つめた。

「私はレイミ、あんたの名前は⁉」

 乱暴な言葉使いだがヒトミは不思議と不快な感じはしなかった。

 むしろ心を許した者同志に許された言葉使いの様に感じた。

「ヒトミ」

 彼女はそう短く答えるとレイミに背中を向けた。

 ヒトミの背中越しに満月が見えた。

「満月…」

 自分の背後から声がしたので思わず彼女は振り返った。

 そこには胸の辺りで手を組み、瞳を潤ませながら満月を見上げるレイミの姿があった。

「あぁ…お嬢様。私はあとどれだけ満月を見たら貴方の元へと行けるのでしょう。あとどれだけの月日を過ごせばよいのでしょう。真紅の御旗の元へと私の思いは届いているのでしょうか?お嬢様レミリア・スカーレット」

 突然聞こえてきた彼女の不可解な言動にヒトミは思わずレイミの顔を見た。

「あなたも東方が好きなの⁈」

 ヒトミはそう声をあげるが、それとは逆にレイミはキョトンとした表情を浮かべる。

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