ミーティング?
「それではミーティングをはじめまーす」
私服から制服に着替えた彼は何喰わぬ顏でミーティングを始めた。
「えー、本日金曜日にも関わらず同伴出勤が一人もいませーん。皆さんもう少し努力してくださーい」
「同伴しろって言われてもねぇ」
黒いドレスに着替えたレイミがヒトミを見ながらそう言い放つ。
「こんな東京の辺境で何処に行けっての」
グリーンのドレスのヒトミも愚痴っぽい口調で口をひらく。
「てか私、ここに来てからそんな事一度もした事ありませんよ」
しおんも彼女達の言葉尻にのる。
「はぁー、今日は金曜日だったんだ」
持て余し気味の金髪の毛先を弄りながら、少し気の抜けた声を出すまーちゃん。
「あんたら同人活動してるヒマがあるなら客の一人でも捕まえろよ!」
「きゃーカズヨシがきれたー」
「こわいー」
「ひゃぁぁ」
「ひぇー」
「ったく…」
呆れ顔で溜息を吐くカズヨシを尻目に彼女達はキャキャと笑う。
「もうすぐオープンだからよろしくお願いしますよ」
カズヨシはそう言い放つと回れ右をしてバーカウンターへと落ち着いた。
「ふぁー、今日もダルい一日が始まるワ」
レイミはあくびをしながらそうボヤく。
「ところでさレイミ。話の方が大分出来上がって来たんだけど」
「え⁉マジで、じゃぁネームの方切っちゃっていいんだね」
先ほどとは打って変わり弾んだ声を出すレイミ。
「あ、ヒトミさん。扉絵のラフが出来上がったんで暇な時に見てください」
「オッケーしおん」
「お。にわかに盛り上がってきましたね皆さん。私もボチボチ何のコスプレするか決めないと」
そう言いながら店の天井を仰ぐまーちゃん。
「皆んな同人誌の話題になるとイキイキしだすんだよなー」
バーカウンターに頬杖を付きながら呟くカズヨシ。
「ま、いいじゃないの。ここの連中はコレが生き甲斐なんだし」
いつの間にかまーちゃんがバーカウンターに寄り添いカズヨシに話し掛ける。
「ところでカズヨシ。撮影会の段取りはどうよ?ボチボチ新刊用にの資金集めを始めないと」
「あぁ?バッチリに決まってんじゃん。この俺をダレと思ってんの?」
「さすが、元大手印刷会社の営業マン。仕事が早いねーぇ」
カズヨシは得意満面の笑みをまーちゃんに見せると「あ、そーいえば」と何か思い出したかのようににバーカウンターをいそいそと出た。
そして、ボックス席で談笑している、レイミ、ヒトミ、しおん達に近づいた。
「印刷会社は今回も小茂根印刷。皆さんくれぐれも締め切りは厳守でお願いしますよ」
そう言って回れ右をした。
「はーい」
三人は先ほどとは違い、素直に返事に応じるが彼の背中が若干小さくなったところで顏を付き合わせた。
「小茂根印刷だって」
ヒトミが口火を切る。
「おっし!あそこなら締め切りから2、3日粘れるわ」
ガッツポーズを小さくして声を殺しながら叫ぶレイミ。
「実際助かりますね。私達、筆が遅いし」
「しおん。筆が遅いのはアンタだけよ」
レイミが先輩らしくしおんに若干キツめの口調で言葉を投げる。
「だって~。ヒトミさんが中々OKくれないんですもん」
「当たり前じゃない。私の頭の中で彼女達はああは動かないのよ」
鼻息荒くヒトミはそう言い放つ。
「はぁ~、仕事の方もあれだけ頑張ってくれたらいいのに」
カズヨシのボヤきを合図に店はオープンした。