二人の幻想郷
月が出ている。
夜空には星が瞬いている。
夜風が頬を撫でていく。
徐々にはっきりとしていく視界の中に金色をしたヒラヒラした物が見えた。そこから人の顔の様なものがあった。
「大丈夫か?」
それはこちらに向けて話しかけてきた。
まだ意識のはっきりしない彼女に答える気力は沸いてこなかった。
「突然倒れたからビックリしたぜ」
女性の声色に男性のような言葉使い。
彼女はハッとしてその身を起こそうとしたが自分の肩にそっと添えられた手がそれを制した。
「無理しない方がいいゼ」
「あなたは?」
彼女は問うた。
「霧雨魔理沙。普通の魔法使いだゼ」
「って事はここは?」
「幻想郷って事になるかな?」
そう言うと自分の髪をそっと撫でていった。
その時に自身の身体が仰向けになっている事に気が付いた。そして後頭部に感じる温もり。声の主がこちらを覗き込む度に頬に感じる柔らかい感触に甘い香り。どうやら膝枕の上にいる様だ。
彼女は溺れる様にその中に身を預けようとした。しかし何か閃いたように
「幻想郷⁉」
と、思わず声をあげてしまった。
点と点が繋がり一つの線になるようにいままでの景色がハッキリと見える様になった。
自分の目の前にいるのがまさかあの
霧雨魔理沙
であると。
彼女の驚く様子をよそに魔理沙は自分の頬をそっと撫でていく。
「しおん。今日はありがとうな」
息をする様に自然と自分の名前を呼んだ魔理沙。
「ううん、私の方こそゴメンね。こんな事になって」
しおんはそう言うと、魔理沙の頬に手を延ばしてきた。。
魔理沙はその手を受け取ると自分の頬へと当てがった。
「まだ、こうしてていい?まーちゃん」
しおんはそう言うとゆっくりとまぶたを閉じた。
魔理沙ことまーちゃんはそれを静かに見守る。
「あれあれ。寝ちゃったよこの娘」
「ま、一時はどうなるかと思ったけど」
レイミとヒトミがまーちゃんと横になったしおんの元へと寄って行く。
「まーちゃんどうする?」
レイミは彼女達の様子を見ながら話しかけた。
「レイミ、私達は先に帰ろう。あとはまーちゃんに任せてさ」
ヒトミはそう言うとまーちゃんに目配せをした。
まーちゃんもそれを受け取ると
「あとは大丈夫。私がしおん送って行くから」
そう答えた。
「そう。それなら」
レイミは二人のやり取りを知ってか知らずか?ニコリと笑みを浮かべるとその身を翻した。トレードマークのトレンチコートがバサリと音を立てる。
彼女達がバルコニーから立ち去るのと同時にしおんの目が片方だけ開いた。
「ねぇ、まーちゃん。私さっき幻想郷に行ってきたよ」
しおんがいつもの様に屈託のない笑顔をまーちゃんに見せた。
彼女はそれを一旦見ると夜空を仰いだ。
「それはきっと本当だゼ」
「ふふ。なりきってるね」
「それがレイヤーなんだぜ。しおん☆」
都内某所にあると言われている例のプール。
その謎めいた存在感は彼女達にとって幻想郷と似たような魅力を放っていたのかも知れない。
そう。彼女達は確かに幻想郷に行ったのだ。




