しおん!?
「いやー、凄いのなんのって」
休憩室代わりになっているメイクルームで弁当をパクつきながらレイミが声をあげた。
「はーっ。それなら金を払う価値はあるかもね」
ヒトミも興味深げに声を出す。
「私も、見てみたかったなーぁ」
一際気の抜けた声のしおん。
その余りにも覇気のない声にレイミは心配になり彼女の顔を覗き込んだ。
「あんた、大分疲れてるような気がするけど大丈夫?」
「そう言えば、あんまり姿見なかったけど殆ど表にいたの?」
ヒトミも心配になったのか?彼女の様子を伺うように声をかける。
「はい。おかげさまで何事もなく入場の作業は無事にすみました」
しおんは笑顔を作ると顔を上げた。
「そーいえばさー。あんた人が変わった様に飛び出ていったけど、昔に何かあったの?」
レイミはしおんのあの不可解な行動を聞いた。
「チョット、昔の仕事の事思い出しちゃっただけです」
そう言うと視線を伏せ目がちに落とした。
「ま、言いたくなければ言わなくてもイイさ」
そう言うとレイミは再び弁当をパクつき始めた。
「うぉーい。きょうはお疲れ様ー」
そう言いながら朗らかに入って来たのはカズヨシだった。
「ねぇ、これだけ私達がんばったんだからコッチの方も弾んでもらえるンでしょうね」
レイミが手でお金を現すサインを胸元にかざしながら話しかける。
「そーよ、現役キャバ嬢をこれだけコキ使ってタダって訳はないわよね」
「そーそー」
ヒトミの放ったその言葉に思い切り相槌を打つレイミ。
「当たり前だろー。だから奮発したろ弁当」
カズヨシの放ったその言葉にレイミとヒトミは目を丸くして、手元にある弁当の空き箱を見直した。
「あっ!これ志摩丹デパートで有名なヤツよ‼」
ヒトミがシワくちゃになった包み紙を広げながら叫ぶ。
「へっ⁉何ソレ?そんなに有名なの⁉」
レイミが素っ頓狂な声をあげる。
「そりゃもう何でも一日百食限定とかよ⁉」
ヒトミも包み紙を持って慌てふためく。
「なんだよー‼そんならもうちょっと味わって食べればよかったー!ガッ付いてよく分からなかったわよ~‼」
「あんたに老舗の味がわかるの⁉」
「ぅるさい‼知ってたべるのと知らないで食べるのじゃ全然違うのよ‼」
「どの道わかってないじゃない」
「かーッ‼心構えよ!何か損した気がしてしゃーないわ‼」
レイミは悔しそうに両足をバタバタさせた。
「おいおい、あんまりギャーギャー喚くなよ。まだしおんちゃんが食ってるだろ?」
カズヨシは落ち着き払ってそう言うとしおんの方を見た。
しかし、彼の視線の先には虚ろな目でボンヤリと前方を眺めている変わり果てた彼女だった。
「しおんちゃん⁈」
その憔悴した姿にカズヨシは思わず叫んでしまった。
しおんは僅かながらに彼の声に反応した様に頭を少し上げたがそこで力尽きたのか?
そのまま糸の切れた操り人形の様に両手をダラリと落とした。手にしていた弁当箱が地面に落ちる。
ドシャっと静かに崩れる様に床に弁当はその中身を床へとバラまいた。
彼女の異変に気付いたレイミとヒトミ。慌て降り向くがしおんの身体は滑り落ちる様に椅子から落ちて行く。
そしてその身は冷い床へと落着した。
「チョット!しおん‼」
一番近くにいたレイミがその身を寄せる。
しおんは薄れゆく意識の中で同僚の声が遠くなっていくのを感じるのが精一杯だった。




