例のプールが…
下駄の音は幾重にも連なるカメラマン達を割いて来る。
そしてプールサイドまで来るとその行き足を一旦止めた。
すると今までプールサイドに降り注いでいた日の光がブラインドによって遮られた。
プールには照明だけの冷い光りしか無くなった。
そこにいた誰もが思ったに違いない。
「なぜ、降り注ぐサンセットを遮るんだ…?」
その答えは次にあった。プールサイドに佇むまーちゃんは皆に背を向けたまま進み続ける。その先は水の張られたプールだ。
いよいよ行き場が無くなったがまーちゃんは止まる気配を見せない。
躊躇う事なく彼女は水面へとその足を落とした。
パシャりと水の弾ける音がしたと思ったその瞬間に、室内の照明が全て落ち場内は漆黒の闇に包まれた。
「トラブルか⁈」
場内に緊張の波が瞬時に伝播する。
しかし、次の瞬間にプールが怪しく水色にジンワリ光り出した。
水面に立つ様に浮かび上がる一人の女性。
その姿は正に三途の川の水先案内人
死神・小野塚小町
だった。
皆が何かに取り憑かれた様にその現実離れした光景に言葉を奪われた。
水面に浮かび上がる、紅い二つに結われた髪。蒼い袴。そして『死神』象徴でもある人の背丈位はあろうかという巨大な鎌。
まーちゃんの演じる小野塚小町は正にこの例のプールを三途の川へと変えてしまった。
その圧倒的とも言える雰囲気はコレが撮影会という事を忘れさせてしまう程だ。
「ほれッ。どうした!アタイの晴れ舞台だ‼ボヤっとしてるんじゃないよ‼」
まーちゃんは檄を入れるようにそう叫ぶ。
そこにいま全ての人間がコレが撮影会という事を思い出したかの様に一斉にシャッターを切り始めた。
三途の川の水先案内人は稲光の様なフラッシュにその身を捧げる。
最早そこに居るのはレイヤーのまーちゃんではないと誰しもが思っていたであろう。
彼女が死神・小野塚小町であると。
第三の撮影場所。バルコニーへと会場は更に移る。
例のプールの興奮冷めやらぬ会場。そこにまーちゃんは再び姿を表すがそのなりは至って普通だった。
と、いうか彼女の格好が至って普通に見える位、
霧雨魔理沙
に成り切っていたからだ。
誰もがその「普通」という圧倒的な存在感に染められた。
まーちゃんは集まったカメラマン
達に笑顔を振りまきながらバルコニーを背にした。
降り注ぐ太陽。青い空に映える白黒の衣装。風に棚引く金髪。
よく一枚の絵を切り取った様にと、言われる表現があるがこれがそれ程しっくりくる場面は無いだろう。
レイミは自分の役割も忘れただ、ただ、それを見つめるだけだった。




