まさか…?
閉店後のクラブ・しゃんぐりら。シャンデリアの照明は落とされていて華やかさのない無機質な雰囲気が店内には漂う。
しゃんぐりらのキャストの面々はボックス席で仕事終わりの余韻に浸っていた。
「あー、終わった。終わった」
そう言いながらレイミは水割り用の水をグラスに注ぎグビグビと飲んでいた。
「さてと、私はとっと帰って原稿の続きを書くわ」
ヒトミはそう言いながら席を立ったが
「えー帰るの?メシでも行こうよー」
と、レイミが引き止めた。
「アンタとご飯なんて行ったらそれこそ何時に帰れるか解ったもんじゃないわ」
彼女はそう冷ややかに言い放つと出口に身体を向けた。
「なんだよー、釣れねーな。じゃぁ、しおんどお?」
着替え終わってホールに出てきたしおんをレイミは引き止める。
「あ、私もちょっと…」
困った表情を浮かべながらやんわりと断るしおん。
「なに?このあと彼氏とデートとか?」
いやらしい目付きでレイミがしおんに問いかける。
「彼氏⁈」
別のボックス席でくつろいでいたまーちゃんが素っ頓狂な声をあげる。
「やだ、違いますよ~。あんまり遅く帰る日が続くとウチの両親が心配するんで…」
と、しおんは内訳を話した。
「なんだ。そんな事か…」
まーちゃんはホッと胸を撫で下ろす。
「何で、アンタがしおんの心配してんのよ」
レイミがまーちゃんに疑惑の眼差しを向ける。
しかし、彼女はこれといってレイミの視線に反応を示さなかった。
相手にされなかったレイミは
「つーか、いいわね~。お家に待ってくれてる人が居るって」
と、天井を仰ぎながら呟く。
「ま、早いとこ誰か捕まえないとアンタ一生独身よ」
そこにヒトミが痛い一言を突き刺してきた。
「うるさい。とっとと帰って原稿でもシコシコかいてろ」
「チョットそれ、なんか誤解を与えかねない言い回しね」
ヒトミがレイミの放った言葉に不快感を露わにする。
「あー、みんなチョットいいか~」
そこへカズヨシが割って入って来た。
「何よ。こっちは今から一人寂しくご飯を食べに行こうとしてるのに」
あからさまに無粋な表情を浮かべるレイミ。
「そんなの俺の知った事か」
それに対して冷たく言い放つカズヨシ。
「で、何?」
ヒトミがカズヨシにぶっきら棒に問いかける。
「おう。まーちゃんちょっと…」
カズヨシがまーちゃんを呼び寄せる。彼の横に少し照れ臭そうに並ぶまーちゃん。
それを見たレイミの目付きが少し泳ぎ始める。
「あんた達まさか…」
ヒトミが口をパクパクさせながらかすれた声を絞り出す。
「そうなんだ。実は…」
気まずそうにカズヨシが口を開く。
「実は…?」
続けてまーちゃん以外のしゃんぐりらの面々が口を揃えて開く。
カズヨシは一旦彼女達の顔を眺めて一息置くと口を開いた。
「撮影会を手伝って欲しいんだ」
彼の放った意外…。いや、斜め上をいく一言に一同強張った表情のまま一瞬固まってしまった。
そしてその言葉の意味を理解すると
「へ⁉」
と、レイミとヒトミが揃って気の抜けた声をあげた。しかし
「わ~面白そうですね~」
と、しおんだけどこ吹く風で興味津々な返事をした。




