なんてこったい!!
東京は城北地区にあるとある街。その駅前の極一部で特異な雰囲気が漂い始めた。
「そ、そうだけど…」
レイミが話し掛けられた男性から一歩後ずさりながら答える。
「お願いします‼」
彼はそう言うと胸にあるゴツいカメラを構えた。
ファインダーに困惑気味な表情を浮かべたレイミが収まる。
「視線くださーい‼」
彼はそんなレイミの事などお構いなしだ。
「あーレイミ。適当にあしらって早いとこ客捕まえないと」
「解ってるわよ」
ヒトミの忠告をレイミは受け取ると普通に棒立ちをした。
しかし彼はシャッターを切らなかった。ファインダーを覗きながら
「カリスマポーズで‼」
と叫んだ。
レイミはしょうがなしに両手を胸の所に持ってきた。
その瞬間だった。物凄い勢いでシャッター音は鳴り響きフラッシュが瞬いた。
それと同時にレイミの身体に稲妻のような何ともいえない感情が貫いた。彼女の身体は何かに操られる様に動きだす。
レイミはスカートの端を両手で持ち軽く広げ頭を下げた。中世の女性がするあの挨拶だ。
「ふぉーっっっっ‼カリスマーーーッ‼」
彼はそう叫びながらシャッターを切り続ける。
「こいしちゃん!一緒に入って」
すっかり興奮した彼はヒトミにもファインダーに収まるように促す。
「え?私⁉」
思わぬ誘いにヒトミは素っ頓狂な声をあげる。
「私と一緒に映る事をありがたく思いなさい」
「おぜう様ーーーッ‼」
彼とレイミは完全に二人の世界に陶酔していた。
「いや、つーか人前でそんな恥ずかしい事無理よ」
拒絶するヒトミ。それも当然の反応だ。二人、いやヒトミも含め三人の様子を遠巻きに足を止めてみてる人が出てきてるからだ。
「ま、私を引き立てるだけだけどね」
「何ですって!」
ヒトミはレイミのその見下した口調に我を忘れて彼女に近づいて行った。
「見せてあげる。無意識の怖さ」
「ふん。貴方の血は赤いのかしら?」
「ふぉーーッ地霊殿と紅魔館‼○×♯△〒◇‼」
興奮の余り呂律が回らなくなる彼はシャッターを切り続けた。
そしてスマホを取り出し慌てた感じで電話を始めた。
「そう!駅前!スゲぇレイヤーが居るから!」
知らない間に彼女達の周りには人垣が出来上がっていた。
遂に通行人を巻き込んでの撮影会が始まってしまったのだ。
「ったく。勢いよく飛び出すのはいいけど店のボード持ってかないと本当に唯のコスプレだろー」
まーちゃんが呆れた感じでしおんに言う。
彼女は苦笑いをするだけで特にこれといった事は言わなかった。
まーちゃんはレイミとヒトミがいると思われる大通りに出る為角を曲がった。
しかし、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
誰かを取り囲んでそれをスマホに収めてる人と、一眼レフのカメラを持った集団が歩道の一部を占拠していた。
「なんだー?事件か?」
まーちゃんは思わず叫んでしまった。
その声に気付いた一人の通行人が振り向きまーちゃんを見て思わず声をあげた
「で!出た~~~っ‼」
正にその叫び声は妖怪か物の怪を見たような感じだ。
そう。「九尾の狐」の格好を夜の裏路地で見て声をあげない方が難しい。
まーちゃんは内心しまったと思ったがその人垣の視線が一斉に注がれてしまってはどうしようもない。
しおんの手を引きその人垣に堂々と割って入る。
するとその先にはレイミとヒトミがいた。
思わず目が点になるまーちゃん。
「あーた達、客も呼ばないでなにしてるのさ‼」
「あっ⁈」
何か大事な事を思い出したかのように声をあげるレイミ。
しかし、二人にダメ出しをできる状況では無いのは確かだ。
「藍さま…だ」
「パチュリーも来たぞ」
誰かがそう呟いた。呟きは徐々に大きくなりうねりとなって歓声へと変わった。そうなるともう止まらない。
一眼レフのカメラの集団はまーちゃんにフラッシュの嵐を浴びせる。
これがまーちゃんのレイヤーとしての本能を無条件に発動してしまった。
彼女はすかさずポージングをする。
ミイラとりがミイラになるとは正にこの事。まーちゃんも結局そのまま臨時の撮影会の波に飲まれてしまった。
人が人を呼びその輪は歩道を占拠するどころか車道まではみ出て収集が付かなくなった。
白と黒の車がサイレンを鳴らしながら来て事態はようやく終わりを見せた。
「あー。みんな出て行ったきり戻って来ねー」
RRR~
「おっ電話。予約かな?」
ガチャ
「はい。お電話有難うございます。クラブしゃんぐりらです。えっ⁉警察⁉」
この後カズヨシのカミナリが四人に落ちたのは言うまでもないだろう。




