何か違う
「やってしまったものはしょうがない。今日はみんなこの格好で勤務してもらう」
落ち着きを取り戻した。というか、呆れ返った冷めた表情でカズヨシは四人に言った。
「なんか、ヤっちまったものはしょうがないとか言われると私達がヤラかしたみたいじゃない」
レイミがヒトミを見ながらそう言う。
「んだ、んだ」
ヒトミも頭を上下に大きく振りレイミの言葉尻にのる。
「つーか、まーちゃんや、しおんちゃんならともかく。お前らベテラン二人がキャバ的なコスプレイベントを理解してないとは思ってもなかったよ」
カズヨシは冷ややかな視線そのままにレイミとヒトミを見ながら言った。
「なによ。てかベテランって言われると年増な感じするからやめてくんない」
「そーだそーだ」
レイミが腕を組みながら不満を露わにする。
「だったらアニメとかのじゃなくて、セーラー服とか、ナースとかにしろよ…」
カズヨシは彼女と視線を合わせず愚痴っぽく漏らす。
「ブッ‼今時。コスプレ=制服だなんてアンタのその昭和的センスを疑うわwww」
ヒトミが思わず吹き出す。
「東方はアニメじゃありませーん」
レイミが小馬鹿にした感じでカズヨシに言い放つ。
「あーもー‼何でもいいから客集めろよ‼こっちはなけなしの金でイベント手当用意してるんだからな‼」
カズヨシが苦し紛れに放ったその言葉にレイミとヒトミの目の色が変わる。
「イベント手当‼」
鬼気迫る声をあげるレイミ
「条件は⁈指名⁈新規⁈なによ‼」
鬼の形相でカズヨシに迫るヒトミ。
「今日の売り上げNo1に決まってるだろーが‼」
それを聞いたレイミとヒトミは猛ダッシュで入り口の階段を駆け上がった。
「キャラ崩壊著しいですね」
二人の突然のヤル気にしおんは唖然としていた。
「やっぱベテランは違うな~」
まーちゃんが二人の行動を見て唸る。
「ふー。やっとヤル気になったか…何だかんだで二人ともお水の血が騒いだんだな。やっぱりベテランはこうでないと」
カズヨシがため息をつきながら二人が駆け登った階段を見る。
キャバクラ「しゃんぐりら」は最寄り駅から少し離れた裏路地にある。その為常連客以外には中々気付いてもらえない。
一見さんを捕まえるには駅前の大通りに出るのが一番手っ取り早い。
が、今日は水曜日。駅前は閑散としており人々は家路に向かう為セカセカと歩いていた。
その光景を見てハッとしたレイミ。慌てスマホで曜日を確認する。
「平日かぁ~キビしいな」
思わず弱気な口調になるレイミ。
「あら、もう敗北宣言」
その後ろからヒトミが近づきながら余裕の表情を見せる。
「ふん。今日こそ貴方に格の違いを見せつけてやるわ」
レイミはそう言いながら両手を胸元にかざす。
「貴方のカリスマでお客を呼べたらいいわね」
ヒトミは皮肉っぽく言い放つと彼女に背を向けた。緑色のスカートがフワリと舞い上がる。
「あの~」
無駄に火花を散らす二人の間を縫うように男性の声が、二人の耳に入る。
レイミとヒトミは満面の笑みでその男性を見る…。が
ボサボサの髪。
銀縁メガネ。
何かしらのキャクターがプリントされたTシャツ。
しわくちゃのネルシャツ。
洗濯してなさそうなジーンズ。
それとは対照的にピカピカに手入れされた一眼レフのカメラ。
背中にはバックパック。そこからは丸められたポスターみたいな物が突き刺さっていた。
「う…」
レイミの笑顔が引きつる。
「今時、絵に書いたような…」
ヒトミも言葉を濁らせる。
そんな彼女達の表情をよそにその彼は
「おぜう様とこいしちゃんですよね‼」
と、目を輝かせながら叫んだ。




