そーなるよね~
カズヨシの眉がヒクついている。
口元は引きつり、目は三角だ。
いつも通りにミィーティングを始める為にキャスト全員をフロアに呼びつけた。
こちらもいつも通り、気だるそうにフロアに集まる。
しかし、今日はイベント当日だ。
いつもとは同じ。という訳にはいかない。
「確かにオレは今日コスプレイベントをするから銘々で準備するように言った。でもな、ここはキャバクラだ。お前ら何か勘違いしてないか?」
カズヨシは一列に並んだ、レイミ、ヒトミ、しおん、まーちゃんを端からゆっくり見ながらそう言い放った。
「あら?何か不満でも?」
レイミが何食わぬ顔でカズヨシに言う。
「あのな~」
カズヨシは遂に頭を抱えてしまった。
「ふふふ。私の余りのカリスマっぷりに貴方も参っているようね」
「ちがーう‼」
ツカツカとレイミに歩み寄るカズヨシ。
彼女の格好は勿論いつものナイトドレスではない。
白いフリルスカート。腰には大袈裟な巨大な腰帯みたいなリボン。頭にはドアノブカバーみたいな帽子。目はカラーコンタクトで真っ赤になっていた。おまけに背中にはコウモリのような羽根。
「だれがどー見てもレミリア・スカーレットだろ~が‼」
カズヨシはそう叫ぶと他の面子にも視線を飛ばす。
彼の眼前にまるで幼稚園児が被るような通園帽が目に入る。
隣にいるヒトミなのだが、その格好はまるで小学生か中学年みたいだ。
だが、その胸元にはそんな可愛らしい格好とは不釣り合いな不気味な何か縫い合わされたような球体があった。
「ヒトミ。おまえのそれ…」
「え⁈私が見えるの?」
「…。」
絶句するカズヨシ。肩がナゼか震えている。
「成る程。古明地こいし…か…」
「ご名答~♩」
弾んだ声で答えるヒトミ。
「わー!すご~い」
その隣りにいるしおんが感嘆の声をあげる。
「てか、しおんちゃん。折角先輩達にキャバクラ的なTPOを教わったのにその格好は何かな?」
ワナワナと肩を震わせながらしおんを問い詰めるカズヨシ。
「はーん。貴方があのパチュリー・ノーレッジね」、
カズヨシの背中からレイミの声が飛んで来た。
「はい!一度着てみたかったんですよ」
しおんも悪びれる事なく、カズヨシの質問ではなくレイミの質問に答える。
「ま、しおんちゃんはいいや。この業界入って間もないし。変に背伸びされるよりかは好きな格好をしてもらった方がイイカモ…」
「やだ。何でしおんだけ特別なの?」
「ほんと」
カズヨシの背中越しにレイミとヒトミの愚痴が聞こえてくるが、彼は無視を決め込んだ。
「おーいカズヨシー。私はどうなんだ~?」
「うおっ‼出た‼」
カズヨシは思わず叫んだ。それこそ妖怪か物の怪の類を見た様な叫び声だった。
その姿、まさに
「九尾の狐」
だが、まーちゃんはレイヤーだ。その凝り様は三人の比では無い。
彼女は金髪のロングだ。金髪こそそのままだが、今日はウィッグでアゴまでのショートヘアーになっている。
そして特筆すべきはその切れ長の瞳だ。
黄色く瞳孔はネコのように縦長になっている。
カズヨシが声をあげるのも無理はない。コンタクトレンズとはいえ
何も知らずに目を合わせると大概の人間は悲鳴をあげる。
そしてバニーガールのような蒼いレオタードに網タイツ。ショート丈のジャケット。頭にはウサギの耳では無くキツネの耳が乗っている。
「藍しゃま~~~~~‼」
レイミとヒトミは辛抱たまらん声をあげるとまーちゃんの尻尾に飛び付いた。
「うひゃーモフモフやぁ~」
「たまら~ん」
彼女達は何かに取り憑かれた様に九尾に頬ずりをする。
その姿を引き気味に見るカズヨシ。そしてボソり。
「ハハッ…。まーちゃんもやっぱり東方だったのね。八雲藍のレースクィーンバージョンか…」
案の定というか。やっぱりというか。キャバクラ「しゃんぐりら」のコスプレイベントは東方コスプレオンリーのイベントになってしまった。
(なんかこう書くと同人誌のイベントみたい)




