ナンバー1の扱い?
マンネリ。良くも悪くも仕事をする上でコイツはタマに顔を出しモチベーションを下げていく。
「あー。今日も暇だわー」
レイミがだれも居ない店のボックス席にデンと座り天井を仰ぎながらボヤく。
カウンター席には残りの面子が行儀よく並んで座っているが、ヒトミだけはノートパソコンに何やら打ち込んでいる様子だった。
店内のムーディーなBGMに乗せてキーボードをパチパチタイプする音が重なる。
カズヨシは表で客が来るのをボンヤリ待っている。
「どーすっかな~。カズヨシと一緒に立って客引きでもすっかな~」
レイミは更にボヤきを重ねる。
すると入り口のドアが開いた。
慌て立ち上がるレイミ。背筋を正しドアの方に身体を向け、笑顔を作る。
しかし、その笑顔はものの数秒で崩れ去って気の抜けた顔に戻った。
入って来たのはカズヨシだったからだ。
「客じゃねーのかよ」
レイミは不貞腐れながら言い放つと再びボックス席のソファにドッカと腰を落とした。
「ったく。タマには俺にも笑顔を見せろよ。つか、オモテは人っ子一人歩いてねーよ。このままだと風邪引きそうだから一旦店内にこもるわ。レイミ、お前オレの代わりに立っといて」
カズヨシはそう言い放つとカウンターへと入って行った。
「えぇー‼私⁈」
素っ頓狂な声をあげるレイミ。
「しゃんぐりらのNo.1が立ってれば客が来るかもしれないぜ」
見え透いたお世話を言うカズヨシだったがレイミの表情はみるみるうちにデレデレとなっていった。
「もー。しょうがないわねー。そこまで言われたらヤらざるをおえないじゃな~い」
レイミは身体をくねらせ猫撫で声でソファから立ち上がると、軽やかな足取りで入り口の階段を駆け上がって行った。
その背中を残りの面子は見送る。
キーボードを叩く手をはたと止めヒトミはボソりと呟いた。
「チョロい」
そしてまたキーボードを叩き始めた。
それを見てカズヨシは一旦ため息を吐く。
「はぁ…。悲しいかな。ウチの赤字分が同人誌で賄われてるなんて知れたら、同業者の笑いモンだな」
「ありがたく思いなさいよ」
ヒトミがキーボードを叩きながらそう言い放つ。
「しかし、いつもそう飽きずに書き続けられるもんだな」
仕事中にも関わらず同人誌の執筆をしているヒトミに、呆れ半分でカズヨシがそう言うが彼女の耳にはそれは届いてはいなかった。
「んー。このままでもアレだから何かイベントでもするかな」
彼はそう呟くとカウンターにその身を預けた。
「イベントって言っても今の時期なにすんだよ」
カウンターのスツールに腰掛けているまーちゃんがカズヨシに問いただす。
「そんなものはアレだ何でもいいんだよ」
「何だ行き当たりばったりかよ」
まーちゃんはそう吐き捨てる様に言うとカウンターに頬杖を付いた。
「でも何だか楽しそうじゃありません?」
しおんが屈託ない笑顔でカウンター席にいる二人に話しかける。
「私達の負担が増えるだけよ」
楽しそうな表情を浮かべるしおんをよそに冷めた表情で言い放つヒトミ。
「そうかな~」
釈然としないしおんはカウンターに背を向けた。
「ぶぁっくっしょん‼」
「くそっ。本当に誰もいねーよ」
表で人しれず豪快にクシャミを飛ばすレイミがそこにはいた。




