白百合の正体は
雑踏に咲いた白百合にまーちゃんは暫く言葉を失ってしまった。
「あー。どこかのご令嬢なのかねー」
「本当。私達とはいかにも住む世界が違うって雰囲気ムンムンね」
レイミとヒトミの愚痴のようなボヤキでまーちゃんは我に戻った。
改めて彼女の白い帽子を目で追う。俗に言う女優帽・キャペリン。
ツバが広いお陰で顔は解らないが細いあごと薄い唇が何となく育ちの良さを伺わせる。
帽子はアクセントにマリンブルーのリボンが巻いてありそれと、彼女の黒髪ロングが風で横になびいていた。
そしてその帽子に合わせる様に純白のワンピースにレモンイエローのカーディガンを軽く羽織っている。
肩にはキャンバス生地のトートバック。ヒールの低いパステルカラーのパンプス。ヒザが見えるか見えないかのスカート丈。
気品溢れるその姿は渋谷駅前の雑踏には余りにも浮いていた。
そして彼女は何かに引き寄せられる様にグングンとレイミ達の居る方へと近づいて来た。
ナゼかまーちゃんの鼓動が高鳴る。
そして彼女の白い帽子がまるで蝶々のようにヒラヒラと舞いながらまーちゃんの鼻先で立ち止まった。
まーちゃんは思わず息を呑んだ。
レイミとヒトミも彼女の背中越しに白い帽子を見ている。
白い帽子X黒いライダース
向かい合った白と黒のコントラスト。次の展開をレイミとヒトミは注視した。
「遅くなってすみません」
白い帽子の彼女は意外な言葉を発した。
まーちゃんは一瞬何がなんだか分からなかった。
が、彼女が顔を上げた時に全てを理解した。
白い帽子の正体は実はしおんだったのだ。彼女の大きい黒い瞳が自分の方に向いていた。
「いや驚いた。どこぞのご令嬢かと思ったらしおんだった」
レイミが声をあげる。
「ホォー。これなら銀座とかにすればよかったワ」
似たような感じでヒトミも唸る。
「馬鹿。私達みたいな場末のキャバ嬢が銀座なんて行っても浮くだけだっ~ツーの」
「それもそうだ」
レイミとヒトミはお互いに顔を
合わせるとワハハと豪快に笑った。
「あれっ?まーちゃんどうしたの?」
彼女の異変に気が付いたレイミが話し掛ける。
「あ⁉うん。なんでも無い。じゃ行こうか?」
まーちゃんは慌てそう言うとしおんに背中を向けた。
エンジニアブーツの踵がゴスっと音を立てる。
「さーて、何処にしますかねー」
レイミがそう言いながら四人の先頭に立つ。
「この歳で数字三文字のビルもねー」
ヒトミが誰に聞かせる訳でもなく言い放つ。
「なに言ってるのアンタの服買いに来たんじゃないのよ」
「てーか、ヒトミ渋谷なんて何年も来てないからわかんな~い♫」
「ブヘッ。無理すんなヒトミ」
漫才の様なレイミとヒトミのやり取りを微笑みながらしおんが見ていたが
「私、生まれて初めて渋谷に来ました」
と口走った。
しおん以外が「えっ⁉」と声をあげながら行き足をビタッと止める。
そして「ふ~ん」と、考え深か気にレイミが腕を組み鼻から息を抜く。それからヒトミの方を見た。
二人は顔を合わせるとニカッと笑い。
「よーーし‼今日は徹底的に渋谷で遊ぶぞーー‼」
と言いながら拳をあげた。
しおんも彼女達と一緒に拳をあげる。
「よしっ!今日の予定が決まったところでまーちゃん。案内頼むわ」
レイミはそう言いながらまーちゃんの肩をポンポンと、よろしく叩く。
「そうそう。私達じゃあ、しおんの渋谷ヴァージンは相手できないわ」
レイミと逆の肩に手を載せるヒトミ。
「ひゃっはー‼初体験なんて何かそそる言葉ーーーッ‼」
テイションの上がり切ったレイミが人の目も気にせず叫ぶ。
「ちょ、ちょっと。レイミさんにヒトミさん。恥ずかしいですよ…」
まーちゃんの後ろから頬を赤らめながらモジモジ、ボソボソ言うしおん。
それをみたまーちゃんはナゼか顔から火が出る様な感覚に襲われた。




