待ち合わせ
「ったく。あんたが余計な事言うから」
不粋な表情でヒトミがレイミに言い放つ。
「はぁ?後輩の面倒を見るのが先輩の務めでしょ?」
似たような表情で言い返すレイミ。
時刻はちょうど昼に差し掛かろうとしている頃。
レイミとヒトミは渋谷のハチ公前に立っていた。
今日はお洒落に頓着の無い…。というか、キャバ嬢としてのTPOが欠けているしおんの為に「しゃんぐりら」のキャスト総出で渋谷に集合しているところだ。
しかし、まだまーちゃんとしおんの姿が無い。
「ったくあの二人。先輩を待たせるなんていい度胸してるわね」
口元を歪めながらレイミはそう言い放つと
「全くね」
ヒトミも彼女の意見に同調する。
「ウィース」
そんな二人の愚痴をよそにまーちゃんが軽々と現れた。そしてレイミとヒトミを一目見てから
「しかしあれだね。渋谷なのにあーた達キャバ嬢全開の格好だね」
まーちゃんにそう言われて先ほどの愚痴の事も忘れ、自分の格好を見比べる二人。
「つーか、私はともかくヒトミ。アンタのその内面から溢れ出るお水臭はなんとかしなさいよ」
派手な花柄のミニスカートに大げさなフリルが襟元にあしらわられたブラウス。足元はそれを引き立てるかの様な原色系のハイヒール。
それにブランド物のハンドバッグだ。
長くウェーブのかかった茶色の髪型と相まって、見る人が見れば彼女の職業は想像に難しくは無いだろう。
「そーゆーあんただってどうなのよ」
ヒトミはレイミの立ち姿を頭からつま先までユックリ舐めるように見ながら言い放った。
「私の?」
彼女はその質問の意味を考えながら今一度自分の姿を見てみる。
いつも着ているトレンチコートだが今日の色はベージュだ。
そしてその内側からみえる真紅のブラウス。真っ白なパンツ。黒のハイヒール。
自分の中では別段気になる所は無い。
まぁ、確かに道行く人達を見てみれば自分の姿は幾分派手かもしれないが…。
と思っている所にふとまーちゃんが視界に入る。
「てかさ、まーちゃんもさー…。ねーヒトミ」
とニンマリとした表情を浮かべながらレイミはヒトミに視線を投げかける。彼女も似たような表情を既に浮かべていた。
「え?何?」
まーちゃんは眉を潜めながら二人の視線を浴びる。
その視線に耐え兼ねて一歩後ずさるとエンジニアブーツの踵がゴッと鳴った。
そこからスッと伸びる脚は黒のタイツで覆われており。彼女のトレードマークであるショーパン。そしてティーシャツ、ライダースジャケットだ。
二人と比べると色味は地味目だが流石にロングの金髪はそれを補って余りあるインパクトを放っていた。
「ま、アンタも結局のところは同じ穴のムジナなのよ」
レイミがしたり顔でそう言うとヒトミが彼女の肩を叩きながら通行人に紛れているとある人物を指差した。
「ちょ、ちょ、ちょ、レイミあれ見て」
「は?何よ」
面倒くさそうにその指先をみるレイミ。
「ぬぁっ‼」
そして思わず声を出してしまった。
その叫び声にも似たような絶叫にまーちゃんも思わず釣られてその方向に顔を向けた。
ヒトミの指の先にツバの広い白い帽子が目に入る。
それはまるで雑踏の中に咲いた一輪の白百合のようだった。




