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しゃんぐりら ~板橋の桃源郷~  作者: リノキ ユキガヒ
てぃーぴーおー。アレコレ
10/72

えっ!?

「おはよー」

レイミはそう言いながらキャバクラ「しゃんぐりら」のドアを潜った。

「おう」

既に制服に着替えてたカズヨシがバーカウンターから目も合わさず返事を返す。

「ったく。挨拶位しゃんとしなさいよ」

「あー?同伴出勤してきたらシャンと挨拶位しますよー」

「口の減らない奴ね」

「お生憎様」

カズヨシと皮肉の応酬を交わした後にレイミはロッカールームへと身体を向けた。

「うぃー」

レイミは覇気の無い声と同時にロッカールームのドアを開ける。

そこにはまだ、ドレスに着替える前でリクルートスーツ姿のしおんがいた。

「あ。レイミさん!おはよう御座います‼」

と、元気一杯に挨拶をした。

「相変わらず元気ねーアンタ」

「はい‼」

眩しい笑顔でレイミの問いかけに答えるしおん。

「その元気を少しでもいいから分けて欲しいわ」

彼女はそう言うと手に持っていたエナジードリンクをグビリと一口飲んで鏡台の前に座った。そして振り向きざまにしおんの姿を見て

「あんた、どうでもいいけど出勤の時その服しかないの?」

そう言い放つ。

そう。しおんの出勤姿はいつもリクルートスーツだ。

「んー。ママが職場に行くんだからキチンとした格好しないと駄目だって」

しおんが天井を仰ぎながらそう言う。

「まぁ、確かにアンタのおかーさんの言う事も間違ってはないけどTPOつーものがあるんだからさ。もっちっとキャバ嬢らしくとゆーか…若者らしいとゆーか」

レイミがそれとなく、しおんのファッションセンスについて指南をしているが、本人はどうもピンと来てない様子だ。

その時だ。

「ハッ。あんたが人のファッションセンスにどうこう言えた義理なの?」

ヒトミが鼻で笑いながらロッカールームに入って来た。

「あら、それじゃぁまるで私が

センスゼロみたいな言い草ね」

「実際そうじゃないのかしら?万年トレンチコートだし」

「店で寝泊まりしていりヤツに言われたかないわね」

「私だって好きでしてるんじゃないの。創作意欲がそうさせてるの」

「御大層な事で」

「あの~」

レイミとヒトミが舌戦を繰り広げてる最中、しおんが申し訳なさそうに入ってくる。

「私ってそんなにダサいですか?」

今にも泣きそうな顔で彼女はレイミとヒトミを見つめていた。

これには流石の二人も参ったようで慌てふためきながらわめき立てた。

「いやッ。別にアンタがダサいとかそういうんじゃ無くて、ほらっまだ若いだし。ネェヒトミ!」

「えっ⁉そうそう!お洒落はさぁ女の特権よ!楽しまなくちゃ損よ!ネェ!レイミ‼」

「あぁ⁉何でまた私に降るのよ⁈」

「元はと言えばアンタが得意気にファッション指南なんてしてるからよ!」

「うわーーーん‼レイミさんとヒトミさんが喧嘩する程私ってダサいんですねーーーッ!」

「そうじゃ無いから」

オロオロしながらレイミは慌てしおんを慰めヒトミに目で訴えた。

「そーよ。あんな布切れ如きに貴女の価値なんてきめられないわよ」

ヒトミも精一杯の慰めの声をかけるが残念ながら彼女の耳には届いては無いようだ。

「そんならさー、今度皆でしおんの服買いに行こうよ」

いつのまにか現れたまーちゃんがそう言い放つ。

「え⁉私の服お二人が買ってくれるんですか?」

「「え⁉」」

レイミとヒトミが素っ頓狂な声を同時にあげる。

「おー、しおんちゃん。いい先輩を持ったね~ぇ」

ロッカールームの入り口付近からカズヨシの嫌みったらしい声が二人の耳に飛び込んで来た。

引くに引けなくなった二人は渋々首を縦に振った。


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