なんだこれ。ありえねえ。
「気を付け!礼!」「お願いします!」「着席!」
私は如何にもダルそうに授業を開始ししたのであるが、これは致し方ないことだと、ここに主張する。
だって考えてもみてよ、今から数学という名の睡眠時間だっていうのに、この堅苦しい感じ・・・あり得ないから。マジで。
教師だって仕事なんだからさ、もっとこう、スマートにやればいいのに。
数学の鈴木と言えばウチの高校で知らない者はいない熱血教師。なんでコイツが教科担なわけ?ほんとあり得ねえ。
「・・・しもと!!い!し!も!と!!聞いてるのか!!!」
「・・・せきもとですけど。聞いてます。」
仏頂面で名前を訂正された鈴木は、若干顔を赤らめ咳払いをして授業の続きを始めた。
石元祐希。おもむろに自分の名前をノートに書いた。
せきもとゆうき。昔はよくこの名前でいじめられたな。
あの頃からかってきた奴ら、何してんだろうな・・・。
・・・気づけば授業は終わっていた。
目の前には鈴木が仁王立ちしていた。
「せ、石元!職員室までくるように!」
「なんでですか。」
「いや、その、まあいいから来い!!!」
「・・・はあ。」
授業聞いてなかったのばれたかな。ぼーっと名前見てただけだしな。
妙に納得して鈴木を追いかけた。
「失礼しまーす。鈴木せんせーは・・・」
「おう!!石元!はやかったな!!!」
相変わらずうるさい。こんなので怒鳴られたりしたらとんでもないことになるな・・・。
ここは先手必勝ってやつだな。さっさと謝って終わらせよう。
「「あの」」
あろうことか、声が被った。先手必勝とはいかなくなったわけだ。
まずい。非常にまずい。どうしよう、どうしよう・・・
「あの、石元、さっきはごめんな?先生、漢字は弱くてだな・・・。」
頭を掻きながら申し訳なさそうにわらう鈴木。想定外の鈴木のその姿をみて、なんだか力が抜けてしまった。
「ああ、そんなの気にしてませんから。よく間違えられるので。」
鈴木は心底驚いたような顔をしている。そして口を開いた。
「お前、笑うとかわいいな。」
「・・・は?」
「いやだから、お前笑えるんだな。」
「まあ、人間ですから。失礼します。」
足早に職員室を去る。
なんだあいつ。誰でも笑うぐらいするだろ。私はトイレに駆け込んだ。
自分でもうっすら気づいてる。本当はそんなの全然気にしてない。
「かわいいとか・・・」
思わず声に出た。咄嗟に口を両手で塞いだ。
・・・それがどうした。この胸の動悸は走ったからだ。当たり前だ。
授業が始まる。
息を整えるのも忘れて、教室へと急いだ。
「ほんと、あり得ねえ。」