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お兄ちゃんのためなら、鬼にも小悪魔にもなってみせるわ。  作者: 日々一陽
第四章 大いなる悲惨~失われたトキメキを求めて
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4章 その3

 異変はすぐに起こった。


 翌朝登校すると教室に入るが早いか大石が僕の元に飛んできた。

「日丘、大変だよ!」

「どうした大石。昨晩の金髪ロボ・ヤンキードールを見損なったのか?」

「勿論見たさヤンキードール。すげえ面白かったぞ! 姫ロボ2号カグヤムーンの『月に代わっておしりペンペン』が凄いのなんのって、って……そうじゃないんだ!」


 大石は僕の手を引っ張って廊下へ飛び出した。

「どこへ行くんだよ、大石」

「ともかく、ともかくこれを見てくれよ!」

 大石は僕を一階にある生徒会室の前に連れて行った。

 生徒会室の前には黒山の人だかり。その向こうには一枚の張り紙があった。



 告知


 三年、浅野咲美を生徒会会長代理に任命する。

 尚、本日をもって生徒会長・吉良綺羅々は

 会長権限の全てを生徒会会長代理に譲る。


 星ヶ崎高等学校 生徒会



「何だこれは! 要は生徒会長は失脚。浅野部長が事実上の生徒会長に就任って事か!」

「そうなんだ。驚いたよ。クレーターだよ!」

「月の表面がどうかしたのか? それを言うならクーデターだろ」

「ともかく、日丘は何が起きたか知らないのか?」

「知らないよ。白銀さんと金条寺さんが何かをしたんだろうけど……」


 ふと見ると僕の目の前で浅野部長が呆然と立ち尽くしている。

「浅野部長!」

「……あっ、日丘君……」

「凄いですね、これ」

「凄いも何も。私も何が何だか分からないのよ! きつねうどんにつままれたみたい!」

 腹が減っているのだろうか。


「大石、教室に戻って白銀さんと金条寺さんに聞いてみよう」

「あのふたり、俺が来たときには机の上に鞄だけがあってどこかに行ってたんだけど、そろそろ戻ってきてるかもな」


 果たして教室に戻ると、金条寺さんと白銀さんが、丁度いまひと仕事終えました! と言わんばかりに中ジョッキで乾杯を交わしているところだった……


「ちょっと貴和さんに茶和さん、学校でビールはまずいでしょ! と言うか、高校生でしょ!」

「おはようっ、なおちゃん! これはね、お子様用ビールだから心配無用よっ!」

「そうよ、なっくん。アルコールフリーでもしっかりビールの味がするわ」

「と言うことは、茶和さんはビールの味を知ってるのかい!」

「知らないわ。広告の受け売りよ。わたくし、日本酒党だから」

「ああもう、僕、頭痛がしてきたよ!」

「まあ、なおちゃん大変っ! 二日酔いには迎え酒よっ!」

 このふたりに付き合っていたらアルコールなしで酔いそうだった。


「ところで、聞きたいことがあるんだけど……」

 僕と大石は生徒会室前の張り紙のこと、その事を浅野部長が知らなかったことをふたりに話した。


「で、一体全体何をしたんだい? たった一晩で」

「ふふっ、なっくん。女の子には男の子には見せることが出来ない、秘密の花園ラグビー場があるのよ」

 そのままトライを決めてもいいのだろうか。

「なっくんなら50ヤード独走でトライされてもいいのよ」

「茶和さん、人の心を読まないでよ!」


「なおちゃん、なおちゃん! 私の秘密のドアをノックノックきてよねっ!」

 翼があればいいのにと思った。どこかに飛んでいけるから。


「お兄ちゃん!」

 息を切らせて妃織が駆け込んでくる。

「見ましたか。見ましたよね。見て驚きましたよね! 見てどっきり大成功でしたよね!」

 あれはどっきりだったのか、妃織?

 興奮冷めやらぬ様子の妃織だったが、白銀さんと金条寺さんがそこにいることを発見すると急に姿勢を正した。


「茶和先輩、貴和先輩、ありがとうございます。凄いです。凄すぎです。たった一晩で考古学部を救ってくださって、しかもあの忌々しい吉良会長が失脚だなんて。これはクレーターですよね!」

 こいつ、大石と思考回路が同一なのだろうか。

「……お兄ちゃん、どうして間髪入れずに「それを言うならクーデターだろう!」って突っ込んでくれないんですか?」

「さっき大石に同じツッコミしたばかりだからな」

「ううっ! 少しの差で先を越されましたか!」

 全力疾走で二年の教室までやってきて、言いたかったのはそこだったのだろうか?


「ともかく……」

 気を取り直したように金髪銀髪コンビに頭を下げる妃織。

「本当にありがとうございました」

「別にたいしたことじゃないわ」

 軽く微笑む白銀さん。

「そうよっ。この前は妃織ちゃんが部の予算を救ったんだしっ!」

 笑顔炸裂の金条寺さん。


「ところで、おふたりは一体どんなことをされたのですか?」

「まあ、一言で言うと格の違い、かしらね」

「格の違い……」

「だいたい吉良って代議士は東西鉄道グループの支援がなかったらただの人なのよ」

「だからねっ! ちょっとだけお灸を据えてみたのっ! ふふっ」

 なんだか簡単にとんでもないことを言っている白銀さんと金条寺さん。


「お灸を据えるって、どういう事を?」

「妃織さん、世の中、聞いてしまったら夜ひとりでトイレに行けなくなる話もあるんですよ」

 かなり怪奇的な事が行われたらしい。

「分かりました。突っ込んじゃいけないところに突っ込むようなアブノーマルなわたしではありません。ともかく、これで一件落着。ありがとうございました」

 ペコリと頭を下げる妃織。

「そうね。一件落着ね。でも、わたくしたちをバカにした、わたくしの胸を平坦で真っ平らでバリアフリーだとののしったあの女の地獄は、きっとこれから始まるのよ……」

「私もそう思うわ、茶和」


 金髪銀髪コンビは何かを確信しているかのように、目と目で通じ合っていた。


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