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2章 その6

「さあ、始めましょう! ガンガン掘りますよ~」


 翌日は土曜日だった。昼の1時過ぎ。金髪銀髪美少女コンビに浅野、大石の主従コンビ、そして僕と妃織の考古学部ご一同様は学校の体育館倉庫裏に集結していた。


「何ですかここはっ。草ぼうぼうで毛虫とかが、うきゃっ」


 金条寺さんが嘆くように体育館倉庫の裏は雑草が生い茂り日当たりも悪く虫だらけの場所だった。ここに集まったのは他でもない、邪馬台国縁やまたいこくゆかりの埋蔵品を発掘するためである。体育館倉庫の横にはロープが張られ、コピー用紙に太字のサインペンで書かれた


 『発掘作業中 立ち入り禁止 考古学部    でも起ったら入れたいね』

の文字が躍る。


 部員達はみんな手にスコップやらショベルを持ちカマ……じゃなく穴を掘る気満々だ。


「貴和先輩大丈夫ですか? 毛虫は嫌ですよね、そう思って持ってきました『毛虫ほいほい』。これを置いておけば毛虫が寄ってきて粘着シートで一網打尽なんですよ」

 妃織、なんだその怪しげな商品は。毛虫がノソノソ集まるのに何時間掛かるんだ?

「何ですかその怪訝な表情は。お兄ちゃんは今『毛虫ほいほい』の効果を疑いましたね。これはドラッグストアの入り口にひとつ税込四十八円で山積みにされていたお勧め商品なんですよ。しかもひとつ買えばもうひとつ付いてくる!」

「妃織。それって単なる売れ残りの投げ売りじゃないのか!」

「苦しい言い逃れをする自分の妹に追い打ちを掛けるとは、お兄ちゃんの風上にも置けません」

「やっぱり言い逃れだったのか」

「さあ、兄妹漫談はいいから発掘を始めるわよ」

 浅野部長がシャベルで穴を掘り始めるとみんなそれに続いた。


 ザックザック

 んにょら~ おりゃおりゃ どりゃあ~

 んしょんしょ どっこいしょっ きゃっ。

 ほりほりほりほり

 サクサク ザクザク

 ひとつ掘っては父のため~。ふたつ掘っては母のため~。


 浅野部長、大石、金条寺さん、白銀さん、僕、そして妃織。みんなで穴を掘っていく。


 堀り方は人それぞれ。それでも穴は少しずつ広く深くなっていく。

「で、掘ったら何が出てくるの?」

 金条寺さんが今更な事を聞いて来る。

「銅鏡が出てきたらしめたものです。三角縁神獣鏡なんか出てきたら新聞沙汰ですね」

 浅野部長がそれに答える。


「漢の倭の邪馬台国の国王印なんかが出てくるかも!」

「志賀島あたりで掘ってくれ、妃織」


「黄金のマスクとか出てくるといいわっ」

「貴和さんは王家の谷にでも行ってくれ」


「だからスペイン軍に滅ぼされ、何も残っていない」

「邪馬台国がスペイン軍に滅ぼされていたら、それは凄い発見だよ、茶和さん」


「弥生人の埋蔵金が出てくるとかさ」

「いや、それ多分石とか貝殻だから。大石」


 ツッコミ入れるのも疲れてくる。もしかして僕がおちょくられているだけだろうか。


 ザックザック

 ザクザクザクザク


 無駄口を叩きながらも、みんな手だけは動かしながら着実に穴を掘っていく。

 と、その時だった。

 

 ガツン!


「何かに当たったわっ」

 金条寺さんが何かを掘り当てたらしい。慌てて浅野部長が駆け寄る。

「金条寺さん慎重に!」

「ええ、慎重に、慎重に、慎重に…… うりゃあっ! ずぼっ!」


 言葉と裏腹に金条寺さんは土の中から円形の何かを勢いよく引きずり出した。

「何かしら、この丸いものはっ。少しハンカチで拭いてみましょっ。拭き拭き拭き…… これは、この光るものは、鏡?」

金条寺さんが掘り出したものは鏡のように輝いて、その背面は泥の中にピンク色の物体が見えている。


「この背面も拭いてみましょっ! 拭き拭き拭き…… こ、これはっ」

 背面の泥を落として驚く金条寺さん。

「これは、猫柄の銅鏡?」

 金条寺さんの横で発掘された丸い物体を見つめる浅野部長も驚きを隠せない。


「千八百年前の、ヘローキテーちゃんの銅鏡だわ!」

 白銀さんもその輪に加わる。

「株式会社ヨンリオのライセンス渡来品と書いてある」

 興味津々に妃織も覗き込む。

「日本の考古学史に残る大発見だわ」

「うちの考古学部史に残る大失態の間違いだろ! どう考えてもここ数年に捨てられたものだから、それ。いいから続き掘ろうよ続き」

「はーい」

 またみんなで掘り進める。


 ザックザックザ~クザク

 がりがりザクザクがりがりザクザク

 ガキン!


 と今度は白銀さんのスコップが音を立てた。

「あっ、何かあるわ」

「今度は犬じゃないだろうね。アーモンド村とかピーナツ村とかの」

「いえ、鏡は鏡で同じなのだけど……」


 そう言いながら白銀さんは掘り出した丸いものに付いた泥を丁寧に拭き取っていく。

 金条寺さんも妃織も興味深そうに覗き込んでくる。

「私はクマのピーさんに一票っ!」

「わたしはセーラームンムンだったらいいなっ」

 いやいや君たち、探しているのはそこじゃないだろう。

 とやがて白銀さんが泥を拭きとって出てきた絵柄を見て目を見開いた。


「これは…… これは、『ひみつのアキコ』ちゃんの鏡!」

「古いわっ めちゃふるっ」

「凄いです、年代物です! やりましたね、大発見です!」

「あのね金条寺さん、妃織さん。私達は千八百年前の遺品を探しているのよね。昭和世代の遺品が出てきたからって大喜びしないの!」

 浅野部長があきれ顔でみんなを見回した。良かった。普通の感性の人が他にもいて。

「でも、この『ひみつのアキコちゃんの鏡』、珍しいから部室に飾りましょう! テクマクマヤコン!」

 ダメだ。真面目な浅野部長も毒され始めている。

「ともかく作業を進めよう。早くしないと日が暮れてしまう」


 ザクザクザクザクザクザクザクザク

 ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

 ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

 

 みんなまた作業に取りかかる。

「ところで、何となくだけど」

 大石が作業を続けながら独り言のように呟いた。

「この穴掘り、最後は温泉を掘り当てて、みんなで露天風呂で一儲けしてめでたしめでたしとか、そんなオチじゃないだろうね」


「そうなったら混浴ねっ。なおちゃんとふたりで混浴三昧っ!」

「何言ってるの貴和。能転気にもほどがあるわ。見えそうで見せちゃうチラリズムが男心を捉えるのよ」

「何言ってるのっ茶和。それを言うなら『見えそうで丸見え』でしょ!」

「それじゃチラリズムにならないわ。『見せてるから丸見え』と同じじゃない?」

 何を言っているのだ、この人達は。『見えそうで見えない』からこそ男心はときめくのだ。まあ、本音を言うと見えるに越したことはないのだが。

「お兄ちゃん、何を想像しているんですか。目尻が下がって涎が出てますよ」

「ごめんなさい、ちょっと想像しました」

「仕方ありませんね。素直なので許します」

 危なかった。本当に涎が出ていた。


「それはそうと、大石君が言うように、この穴掘りはどう決着がつくのかしら」

 黙々と穴を掘る浅野部長が口を開く。

「温泉以外だとしたら、石油が出てきて大金持ちとか!」

 と僕。

「さすがに日本でそれはないでしょうね。金や宝石の鉱脈が見つかるとか!」

 浅野先輩まで目を輝かせる。いったい何百メートル掘る気なのだ。しかしこの穴掘りに関してはひとつ気になることがある。僕はそれを確認しようと思った。


「なあ妃織、どうしてここを、体育館倉庫裏を掘ろうと思ったんだ? 学校の中には他にも沢山の場所があるのに」

「それはですね、私の直感なんです」

「直感?」

「ええ、直感。わたしの直感がこう叫ぶんです。『ここ掘れワンワン』って」

 その瞬間だった。


 ガツン!

 ゴツン!


 浅野部長と僕のスコップに同時に衝撃が走る。

「なんだこれは、結構大きいぞ!」

「慌てず丁寧に掘り出しましょう!」


 そこには陶器でできた鍋のふたのようなものが見えていた。

 その土鍋のような埋蔵物をみんなで一斉に掘り起こす。

 掘ってみるとその埋蔵物は土鍋よりずっと高さがあった。大きな壺のようだ。

 壺? まさか、さっき妃織は言ったよな『ここ掘れワンワン』って。

「どうやら何か壺のようね。それも結構古い……」

「もしかして、その壺の中には大判小判がザックザクとか!」

「お兄ちゃんの予想に妃織も3000点です。妃織の予感が導いたのは、きっとこの宝の壺ですよ」

「ともかく綺麗に掘り出して部室に持って行きましょう」


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