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第十八話 『乙二種特一号作戦』2

大変お待たせしてすみません。

「さて……まずは作戦立案までの経緯をお話ししましょうか」


 席につき、差し出されたコーヒーに口をつけて満足そうに頷いたアルトマンが口火を切る。対面に腰を下ろしたアヅマとニーナも、姿勢を正してそれに応えた。なお、副官であるアンナはアヅマの後ろに控えている。


「事の発端は『ソロモン事件』……真崎准将はよくご存知ですね。あの事件により、皇国領内に統率された意思を持つ不穏分子の存在が確認されました」


 不穏分子。それはとりもなおさず、『ソロモン事件』の際に共和国艦隊と同調していた海賊船団のことだろう。『統一された意思を持つ不穏分子』などと遠回しな言い方をしたのは、その背後について未だ確信の持てる情報がないためか。


「当然、看過できる問題ではありません。情報庁は即座に調査をはじめ、結果として彼らの規模、目的、背後、それらを類推する程度の情報はすぐに集まりました」


 とつとつと、成果を語るアルトマン。まるでマークしていなかった連中の情報を短期間でそれだけ集めるのは成果と言えば成果だが、そもそも侵入を許したどころか事が起こるまで気づけなかった辺りは職務怠慢とのそしりも免れないところである。


 アルトマン自身そういったところは自覚もあるだろうが、まったくの平静で語る姿からは、胸のうちを推し量ることは出来なかった。


「ですが」


 そのアルトマンが、やや不自然な形で言葉を切る。


「うまく分散しているため根絶やしにするのは難しくてですね。下手につついて潜られてはかないませんし」


 ぼやくようにそう言い放つと、肩をすくめてみせた。あまりにも無責任な発言のように思えるが、字面通りではないだろうとアヅマは推測する。まったくの嘘ではないだろう。だが、それだけとも思えない。大方、いかなる理由でか諜報員を潜り込ませつつ泳がせていたのだろう。なにせ情報庁の諜報員は『どこにでもいて、どこにでもいない』とまで言われている。尻尾を掴んだのなら、ちょっと目なり耳なりを仕込むのは簡単なはずだ。


「そうこうするうちにですね、どうやら彼らが一所ひとところに集まるという話がありまして。散らばってこそこそしていた彼らが危険を冒して集うというのは、なにやら大事になりそうでしてね。それで宇宙軍に協力を仰ぎ、今回の出撃と相成ったわけです」


 そこまで話し、ちょっと一息、とばかりにコーヒーをすする。


「作戦の目的は二つ。一つは単純に彼らの排除です。いい加減、捨て置ける規模でも時期でもありませんのでね。そしてもう一つは、情報です。彼らの背後や目的、それらの裏づけですね」


 言い切り、アルトマンは再度言葉を切った。人畜無害に見える微笑みを浮かべたまま黙ったのは、ここまででの質問を受け付けるということだろう。そう判断したアヅマが、確認を取って口を開く。


「確認したいことはいくつかあります。まずは一つ、彼らの規模はどの程度だと想定されますか?」


 まず訊ねたのは、実務に絡む話だ。直接的に味方の損害に繋がる話でもあり、思いついた質問の中で一番回答を得られそうな話ということもあり、アヅマはこの質問を最初に持ってきたのだ。


「そうですね。現在確認されているところでは、フリゲート艦クラスの船舶が一五隻ほど。後はほとんど戦闘能力の無い輸送船が数隻、といったところですか」


 果たして、ほぼ即答で回答が返ってくる。アヅマはひとつ頷き、次の質問へ。


「二つ。その情報の確度は?」


 次なる質問は、その裏づけだ。作戦の前提となる情報であるだけに、アルトマンも正確を期したものだろうとは思う。が、何事にも不測はある。特に偶然かアヅマの不運か、といった具合で存在が露見するまでは、彼らの尻尾すら掴んでいなかったのだ。ここは念を押す必要がある。


「持ちうる手段の全てを使用して集めた情報です。ほぼ確定で間違いないかと」


 ほぼ。強気な発言に見せかけてあやふやな言葉を付け足すあたりに、不安要素が残る。だが、相も変わらず笑顔という名の鉄仮面をかぶり続けるアルトマンをつついたところで、これ以上の情報は引き出せないだろう。不測の事態に対する策はいくつか想定して練っておくことにして、アヅマは次なる質問へと意識を移す。


「三つ。裏づけとおっしゃいましたが、彼らの背後や目的について、どの程度の予想を立てていますか?」


 今回の作戦だけで見れば、特に関係のない質問。だが、アヅマはこれが最も重要なものだと考えていた。彼の上司が立てていた予想の内容は知らないが、情報庁の考えを入手することが出来れば、上司に報告することですりあわせ、予想の確度を高めることが出来るかもしれない。


 とは言え、アヅマは回答を期待していなかった。情報庁は物理的な実戦力を持たないためこうして軍と協力することはままあるが、情報の大切さを身をもって知っているからか、その本質は秘密主義と揶揄される程度には身内にさえ情報を秘匿する傾向にあるのだ。それに第一、


「まあ、この作戦が成功すれば確たるものを提示できますから」


 アルトマンの言うとおりだ。この回答は予想していたため、アヅマも軽く頷き返すだけに止める。


「さて、本題に移りますか」


 とりあえずの質問受付け時間は終了ということだろう。アルトマンが手元のパネルを操作すると、テーブルの中央に三次元宙域図が浮かび上がった。


「作戦開始は三日後、九月二〇日の午前零時。今作戦では、不穏分子の本拠点と思われる場所に奇襲をしかけます。場所はフィジー宙域です」


 フィジー宙域とは、ヤマタ星系に無数にある暗礁宙域のうちの一つだ。アヅマが共和国艦隊と一戦交えたソロモン宙域から何光年も離れていない。


「作戦は四段階に分かれています。まず最初に先行して潜伏している第七駆逐隊『おぼろ』『あけぼの』『さざなみ』『うしお』の四隻が正面より攻撃、彼らの戦力を釣り出します」


 アルトマンの言下、宙域図に『1』という数字が添えられた青い三角形が表示され、中央に表示された赤い三角形とぶつかる。


「次に第二段階。アヅマ准将率いる第二宙雷戦隊には側面より突撃、彼らと本拠点とを分断していただきます」


 宙域図に新たに『2』と振られた青い三角形が表示され、中心からもつれあうように離れた二つの三角形の背後へと進んでいく。


「そして第三段階。第二三駆逐隊『菊月きくづき』『卯月うづき』『夕月ゆうづき』の三隻が拠点へと陸戦隊を送り込み、制圧。第四段階で残存勢力を掃討します。なお、作戦指揮はアヅマ准将です」


 中央に新たに赤い四角形が表示された宙域図に、『3』の青三角形が追加される。それが中心へ進むと赤い四角形が青へと色を変え、その後三つの青い三角形が残った赤色を駆逐していった。


 その様を見るともなしに見やりながら、アヅマは脳裏で考えを整理していく。作戦に参加する艦が『川内せんだい』を除けば全て駆逐艦であるのは、暗礁宙域だからだろう。障害物だらけの宙域では、大型艦はどうしても動きが悪くなる。大型の軽巡である『川内せんだい』を混ぜたのは、退路を塞ぐ壁役であると同時に、不測の事態に対処するためか。


「アルトマン部長。可能性は低いとは思いますが、第一段階で敵が交戦せずに逃走を図った場合は?」


 本拠点には重要なデータもあるだろうし、逃げるにしても物資の問題がある。また、あえてこちらの戦力を低く見せるやり方をするのだ、まず間違いなく食いついてくるだろうとは思う。だが、可能な限りの穴は塞いでおくべきだ。


「第二二駆逐隊を遊撃に残してあります。その場合は彼らが頭を抑えますので、追撃を」


「彼らの本拠点に防空設備は?」


「小口径の粒子砲がありますね。砲台の位置は確認している限り、データでお渡ししましょう」


「輸送船の処分は?」


「可能な限り拿捕する方向でお願いします」


 思いつく限りの質問や確認事項を挙げていくアヅマと、それに答えるアルトマン。時折ニーナも混じりながら、作戦の詳細を詰めていった。

さて、次回から戦闘パート突入です。

やたら久しぶりに感じる……というか、本編では初めての実戦ですね。


前書きに引き続いての謝罪となりますが、これが今年最後の更新になりそうです。そして年明けは正月が明けるまで更新どころか執筆する時間も取れなさそう……ぐぬぬ。しばらくアラガミも食べてないし。


とまあタワゴトはさておき。

本年は拙作をご覧頂き、ありがとうございました。また来年もよろしくお願いいたします。


それでは、よいお年を。

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