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三・一一  作者: 景雪
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最大震度7

 突然だった。何の前触れもなかった。

 14時46分。今までに体験したこともない強烈な揺れを感じた。それまでも地震は何度もあった。横揺れを感じて、決まって大紀は天井に掛けられた課の名前を示すプレートで揺れの大きさを確認した。けれど、今回の揺れは違う。地面から振動が飛び出してくるような激しい縦揺れだ。大紀は椅子を下げ、机の下に潜り込んだ。横目で確認すると、他の職員も同じようにしている。

 「うわぁ!」

 「きゃああ!」

 ところどころで叫び声が上がった。本当に信じられない揺れだ。抑えていなければ机ごと持っていかれそうだ。キャスター付の事務椅子が、いくつも好き勝手に動いているのが見える。しかも揺れが長い。永遠に続くのではないかと、大紀は机の下で思考を巡らせた。

 --そうだ。美沙希は平気だろうか。

 大紀は揺れをこらえながら、机の上のスマートフォンに手を伸ばした。

 机の下から顔を出した大紀の目に、大きく横に揺れるナイター照明が飛び込んだ。市庁舎のすぐ隣がプロ野球球団の本拠地球場だ。ナイター照明は、今にも折れそうに揺れている。

 球場とは反対側に目を移すと、動き出してしまったコピー複合機を、隣の課の職員が必死に抑えている。馬鹿だな。あんなものいくらでも買い換えられるんだから、自分の命の方が大切だろう。大紀がちょうどそう思った瞬間、奥の打ち合わせスペースのあたりから衝撃音がした。棚か何かが倒れた音だ。あんな大きな棚が倒れる地震を、大紀は未だかつて経験したことがない。

 机の下に戻り、美沙希にメールを打つ。

 --平気か!?

 回線が混乱しているかもしれないから、手短に済ませた。

 そうこうしていると、ようやく揺れが弱まってきた。何とかつかまっていなくても立っていられるほどになったので、大紀は机の下からはい出した。

 すぐに係長が近寄って来る。

 「太田さん。メール配信を。被害状況の報告を知らせるメール配信を!」

 メール配信とは、介護保険事業所に一斉に送るメールのことで、大紀が今年度の担当だった。重要な情報などをサービスごとに知らせる時に使う。今回は、勿論全サービスだろう。言われなくても分かっている。

 東北は震度七らしいぞ! 誰かの怒鳴り声が響いた。

 被害状況を報告する旨のメールを作っている時、またあの縦揺れが来た。さきほどとそう変わらない大きさだ。けれど、大紀はメール配信をしなければならない。机の下に避難するわけにもいかず、揺れに抗いながらメールを打った。まともに立っていることさえ困難だ。一体ここは震度いくつなのだろうか。

 やっとメールを完成させ、大紀は全サービスを選択して送信ボタンを押した。二度目の揺れはようやく弱まってきたようだ。

 「係長! メール配信しました!」

 「ありがとう!」

 大紀はスマートフォンを見た。美沙希から返事が来ている。震える手でメールを確認する。

 --平気。タンスが倒れただけ。

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