紫金の蠍は同級生を死なさず ―全ての決着―
数分前。まだ校舎の中にいた時。
僕はギルフォードから力を半分貸してもらった状態で、ギルフォードと一緒に、邪悪な気配に操られた人たちに対処していた。
その最中、ギルフォードは校庭の方を向いて、
「力が強まっている。近づいたからというだけでなく、総量が変わっている」
「なら、いよいよ本丸を叩きに行く? ギルフォード」
「そうしかない。これ以上雑魚を相手にしても、キリがないからな」
生徒会辺りが働き始めたからだろう。生徒用玄関に戻ってみると、沢山の人が列になって素早く外へ出ていた。
「ここから校庭へ出ようとすると、確実に浮くし、止められるよ。ギルフォード」
「じゃあ別の道を探すか」
僕とギルフォードは、ときどき操られた人をのしつつ、廊下を走った。
その道中、僕は決戦前に聞いておく。
「ところで僕、このまま力を借りっぱなしでいいの」
「どういう意図の質問だ」
「戦闘経験が豊富な貴方が、百パーセントの力で戦った方がいいんじゃないかって、僕は思うんだけど……」
するとギルフォードは首を横に振る。
「いい。半分はテメェが持ってろ。さっきあんな説明しといて何だが、オレ様はまだ導霊として、ああいう悪霊との実戦経験はない。資料でしか知らない。
校庭にいるヤツが何するかわからん。だからここは、ミハルとオレ様、数の利で勝負する」
「けど、僕は化物と戦ったことなんてないけど、いいのこれで」
「うるせぇ! オレ様がテメェと戦ったほうがいいって信じて言ってるんだから、黙って受け取りやがれ!」
「わかったよ、ギルフォード」
もう彼の理不尽な怒鳴りに慣れてきた自分がおかしくなり、僕は思わず顔をほころばせてしまった。
けど、ギルフォードはそれを指摘せず、窓から外の様子を見ていた。そちらは駐車場スペースだから、あの元凶はいるはずがないのだけれど。
「ただ万が一の時は……どうしようか……」
*
「お願い、榎本さん! これまで助けられた分の恩返しを、精一杯ここでさせてください!」
僕は必死に、榎本さんへ懇願した。
恐らく、榎本さんは限界なのだろう。彼女は声を出さず、残る気力を振り絞って、僕にカードを投げた。
「させるか」
アヘビスは放物線を描いて飛ぶカードへ、邪悪なオーラのミサイルを撃つ。
けどそれは全部、予想外の方向から飛んできた光の弾で打ち消された。
「それはこちらの台詞だ、アヘビス!」
と、榎本さんの後ろで何故か負傷し倒れていた、例の留学生が、ボールペンを構えて叫んだ。
「おのれ……」
アヘビスが留学生を睨みつけている間に、僕は意識を集中させ、スコルケトを完璧に受け止めた。思わず「おおっ」と感嘆した。体育の球技ではどんなボールもまともに受け止められなかった僕が、こんな大一番で成功させたのだから……
(もう、引き返すことはできない)
「どこの誰だか知りませんが、こんな僕にも、力を貸してくれませんか、サソリさん……!」
『スコルケトでございます……いいでしょう、もう変身者の厳選などやってられるものですか!』
と、スコルケトがよくわからないことを言った間、僕の腰に、砂金色の四角錐に、カードを入れるスロットをこじ開けたようなデザインのベルトが出現していた。
さっき上流さんがやっていたように、差し込めばいいのだろう。
『ちなみに貴方も、気の利いた口上とかポーズとかしなくていいですからね』
しないよそんな恥ずかしいこと。
僕は呼吸を整え、スコルケトをしっかりと握りしめ、そしてベルトの真ん中部分に……
「待て、ミハル……オレ様もやる」
寸前、ギルフォードが僕の両肩に、両手を置いた。そう、両肩に。
僕は首を回し、ギルフォードと目を合わせる。
彼は全てを、後先のことを覚悟したような、今まで見せたことのない、優しさに満ちた表情をしていた。
僕の脳裏には嫌な予感が満ちる。
「オレ様もやるって、どういうこと……!?」
「さらに半分の力を貸すってことだ。さっき打ち合ってわかった。アイツはフルパワーのオレ様でもまるで勝てそうにない。
だから、ミハルと、オレ様と、このサソリ野郎の、三人の力をまとめる……それしか勝機はない」
「さらに半分の力を……!?」
僕は覚えている。
『どうせなら全部よこしなよ』
『死ねって言いたいのかテメェ。ほら、無駄話はこのくらいにしてさっさと剣を拾え』
前にチャンバラ勝負をした時、対等にするために初めて力を貸してもらった後の会話を。
「やめなよ、ギルフォード! そんなことしたら貴方は……」
ギルフォードは僕の性格をよく知っている。だからギルフォードは、僕に微笑んだまま、何も言わず消えていった。
更なる力が溢れてくる。空気の微細な流れを感じる。そして勇気が湧き上がってくる。
僕は素早く目元を左手で払い、
「ありがとう、ギルフォード……!」
右手に握ったカードを、ベルトに刺した。
そして僕は変身した。紫を基調とし、ところどころを黒で縁取った鎧姿――騎人バスタースコルケトに。
アヘビスが尋ねてくる。
「先程は金縁で飾られていたが、これはどういうことだ。弱体化したように見えるぞ」
「そう思い込んだまま死ねよ、アヘビスッ!」
僕は瞬く間にアヘビスの一足一刀の間合いへ踏み込み、右腕から生えた刃で突く。
アヘビスは素早く己の剣で受け止めた。そこから剣を蛇腹のように伸ばし、その反動で自分を後方へ押し動かした。
アヘビスは衛星のように円錐のオーラを浮かばせ、そして一斉に僕へ打ち出す。
僕はその場で右腕を構え、左手で思い切りここ殴り、生えてる刃を外した。
(ああっ、なんてことをするのです!? 私ご自慢の専用装備が!)
「ごめんなさい、手で持った方が取り回しやすいので」
僕はすぐに刃の根本を柄代わりに握り、迫りくるトゲを一弾一弾正確に斬り落とした。
そこからアヘビスは、ビームや蛇腹剣の延長で、僕を遠距離から攻撃した。
どうもこのスコルケトには遠距離武器はないらしい。
だが関係ない。今の僕にはギルフォードから受け継いだ反射神経と観察眼がある。
あちらの細々とした牽制を全て乗り切り、僕は奴の懐に帰った。
もう小細工はさせない。僕は一撃一撃の流れに無駄のない、洗練された斬撃を、絶え間なくアヘビスへ放ち続ける。
アヘビスは僕の猛攻を耐え凌いでくる。蛇腹のような伸縮ギミックを抜きにしても、僕が使っている剣よりも一・五倍ほど長いのに、それを器用に振るい、威力を柔らかく受け流してしまうんだ。
ようやく土俵に上がれた。三人の力を合わせた結果がこれだと知ると、やるせなさがこみ上げてしまう。
おまけに、地面の術式の魔法陣も、いよいよ九割が光っていた。
僕はそれらの余計な感情が行動に出ないよう、グッと集中し、斬り結び続ける。
周りで榎本さんが慌てているが、それも無視する。
「ダメだ、まだ全然余裕じゃんアイツ! な、なんか、なんか都合の良い弱点とかないの!?」
「……私に、一つ考えがある……」
「え、マンセルさん!? あなたは寝ててくださいよ!」
「心配は無用、デース……本当にチャチャっと出来る策ですからネー……」
剣技においても自分は神王あるいは王神であるということを証明するように、アヘビスは僕の連撃をより余裕にいなし始めた。
このままでは逆転される。そう僕が悲観しだした矢先……!
「HEY! そこのお二人サーン! アタシとイイコトしまセンカー!?」
「は?」
「何だ?」
(え?)
(ああ?)
「え?」
「ちょっ、どうしたんですマンセルさん?」
僕、敵のアヘビス、意識を共有してるスコルケト、榎本さん、上流さんまで、これには硬直せざるを得なかった。
榎本さんの横――さっきまであの留学生がいたところに、茶髪の、なんとなくスマホゲームのキャラっぽい女の子がいた。
その女の子は蠱惑的にくねくねしながら、僕の方を見てくる。
いけないいけない。戦いに集中しなくては。僕は気を取り直して、アヘビスの方へ向き直る。
すると、アヘビスの頭が、いつぞやの男子トイレからリュックを取ってくれた男子のものに変わっていた。
その男子は、燃え盛る故郷を間近でみたような、憤怒の表情をしていた。
「貴様ァッ! よくも俺のミア・ロマネスク様を安易なエロを掛け合わせやがったなァ!
確かにミア様はクリバテ内ではトップクラスのスタイルをお持ちの御方ではあるが、雑に肌を見せつけたり、異性を食い漁るような下品な女ではないのだ!
遠路遥々海外からやってきて、見ず知らずの人々を守るために身を削るその海よりも深い寛大さと山のように高い誇りこそが真のミア様の魅力なのだ!
それを粉微塵にも解さぬクソニワカカス解釈不一致異端者は疾っ疾と散れええええぃッ!」
そうか、これが微かに聞こえていた、留学生の策だったのか。
アヘビスが乗り移ったこの人の意識が、表面化している隙に、
「今だァァァッ!」
僕はアヘビスを袈裟に斬りつけた。
「え、ちょっ、グワーッ! キリステ・ゴーメン!」
それも、ベルトの部分を狙って。
(真行寺ミハルさん……貴方、中々図太いですね。ベルトの破壊は悪役がすることでございますよ)
「うるさい。なりふり構ってられないのは貴方だけじゃないんだから」
ベルトに納まったアヘビスのカードには、斜めに紫色の線が刻まれた。
アヘビスの剣が、地面に滑り落ち、突き刺さる。
ベルト本体は、ボロボロと崩れ落ち、アヘビスも合わせて落下する。
同時に、
「あれ、俺、斬られてない……?」
リュックを取ってくれた男子は、首から下も元通りになった。
すると、さっきの茶髪の女子が留学生の姿に変わりながら(こちらも元通りになったのか)、男子に駆け寄った。
「大丈夫か、ゼン氏!」
「いやそっちこそ大丈夫かってヤツですよ! 脇腹メッチャ血まみれじゃないですか!?」
どうやらこの二人は友人だったようだ。
……あの二人のこともあり、これにて一件落着というムードになっているが、僕はまだ安心してない。
僕は変身を解かず、足元に目を向ける。
アヘビスは紫色の裂傷を刻まれたまま、蛇のように変形していた。
僕はこれ以上のことはさせないように、剣を突き立てる。
しかし、アヘビスは火事場の馬鹿力を働かせて、急に蛇行しつつ疾走し、僕たちから離れてしまった。
『おのれ、これで振り出しか……!』
そしてアヘビスは、魔法陣の光る地点に、尻尾を突き立てた。
たちまち魔法陣の光が全て消え失せる。
(あれは術式に使っていたエネルギーを、自分に戻して回復したのでございます。余裕が無くなった証拠でございますよ)
「ご丁寧に説明どうも……」
ならより一層、トドメを急がないと。僕は剣を構えたまま、アヘビスを追う。
その時、アヘビスを挟んで、僕の方に、高城トラジが向かっていた。奴の目は、アヘビスの眷属を示す水色に輝いている。
『万が一のことを想定して正解だった……! あの少年と比べると遥かに格が足らんが、その身体と魂を使わせて貰うぞ!』
流石は野球部。トラジは素早くアヘビスの元へ馳せ参じ、滑らかに拾い上げる。そして腰にボロボロのベルトを出現させ、強引にアヘビスのカードを差し込んだ。
蛇を模した黒い鎧に、水色のラインが点滅する――騎人バスターアヘビス、再変身、といったところか。
あれこそ弱体化という奴だろう。けど、僕は気を緩めず、剣を構える。
対するアヘビスも剣を構え……ようとして、自分が無刀であったことに気づく。
「武器はこっちだからな、この蛇野郎!」
と、あの男子は突き刺さったままのアヘビスの剣にもたれながら叫んだ。その時の満面の笑みが、清々しいったらありゃしない。
「……知ったことかァ!」
アヘビスは右拳を強く握りしめ、水色の光の剣を生み出した。
その後、アヘビスの身体のラインの点滅がより激しくなる。ただでさえ減った力を消耗したに違いない。
「これ以上、貴様らのような矮小な輩に、我の誇りを傷つけられてたまるか……! かくなる上は、この一撃で終わらせてくれる……!」
アヘビスが拳でカードの上辺を叩く。
刹那、奴の周囲に水色のオーラの輝きが生まれる。さらに、奴の得物の光の剣が膨れ上がり、大蛇と化す。
(アレは奴の必殺技です。ミハルさん、必殺技には……)
「必殺技だ!」
僕はベルトに納まったスコルケトの上辺を、目一杯指でグッと押す。
すると僕の周りに、金色のオーラが放たれ、やがてそれは僕の両足へと収縮していく。
アヘビスが剣を振るい、水色の大蛇が空気を歪めながら、こちらへと向かってくる。
僕は数歩助走した後、力いっぱい踏み込んでジャンプし、錐揉み回転を加えてキックを放つ。
一瞬、トラックが激突したような衝撃を味わう。僕は、スコルケト、そしてギルフォードの思いを抱き、全身に力を込めて、抗力も恐怖もはねのける。
大蛇の光が硝子のように粉々に砕け散っていく。この両足を奴に近づけていく。
アヘビスの頭部アーマーが消え、トラジのものになる。奴は僕に語りかける。
「貴様も我と同じことを思わぬか。人間どもはろくな理由もなくお互いを見下し合い、奪い合い、挙句の果てには殺し合う……! そのような世界を、変えたいとは思わないのか!?」
「僕の背後にあの四人がいるのに、『はい』と言えるわけないでしょうがァァァッ!」
僕は両足を、アヘビスの胸部にぶつけた。回転するにつれ、その装甲は見るも無惨にへこんでいき、そして……!
「(地獄の果てまで落ちろ、この邪悪がァァァッッ!!)」
僕は両足を地面につけた。数秒置いて、トラジの普通の身体が、地面に落下した。
すぐさま辺りを見渡すと、アヘビスは蛇形態となり、空に直径一メートルくらいの水色の光の輪を作っていた。
輪の中には幻想的な色鮮やかな背景に、星のような光が散っている。ワームホール……か。
アヘビスはそこに尻尾から入り、徐々に吸い込まれていく。
そこから顔をのぞかせながら、奴は言った。
「まさか我が、かような烏合の衆まで大敗を喫するとはな……だがこれは所詮、運命の悪戯、まぐれに過ぎ……!」
スコルケトがサソリ形態となり、自力でベルトから外れて、僕は元の小柄な男装少女に戻った。
スコルケトは八本の足で、ベルトを踏み台にして大ジャンプし、ワームホールへと跳んでいく。
「リョウカさん! 突然のお別れと、これまでさんざんワガママ言って申し訳ございませんでした!
貴方との二週間ちょっとの日々は決して忘れませんよ! これからは無意味なしがらみに囚われず、自由に人生を送るのです!
スコルケトとの約束でございますよーッ!」
と、早口に言い残すと、スコルケトはアヘビスの頭に尻尾を突き刺しつつ、一緒にワームホールへと吸い込まれる。
「わかった……! これから一生の相棒に出会えるように頑張ってよー!」
と、榎本さんが叫んだ後、ちょうどのタイミングで、ワームホールは一気に閉じた。
僕はその様子を見上げた。十一月らしい雲の少ない、何の変哲もない青空だけがそこにあった。
……元凶が去った。これでようやく、全てが解決したんだ。
けど、僕の心には、喜ぶ余裕がなかった。
「ギルフォード……」
だけど、こうして僕が悲しみにくれることは、せっかく力を全部かしたくせに僕がアヘビスに負けた時に次いで、ギルフォードは嫌うだろう。
だから僕は、どうにか声を振り絞って、その反動で涙を流しながら、言った。
「……ありが、とう……!」
「泣くのはいいが、勝手に殺すな、ミハル」
「……え?」
僕は恐る恐る、後ろを振り向く。と、そこには、はっきりとギルフォードの姿があった。
「え、何で何で!? ギルフォード、貴方死んだんじゃないの!?」
「オレ様が、どこでどうやって死ぬんだ?」
「だって貴方、僕に力を全部貸してくれたじゃないの。半分貸してるのに、さらに半分も貸したら、全部貸したことになって死ぬんじゃないの?」
「ああ、そういうことか……ミハル、お前本の読み過ぎで理解力が過剰になってるんじゃないか?
確かにオレ様たち導霊は、全部の力を貸すと死ぬ。これはテメェの覚えてる通りだ。
ここが大事だ。お前が変身しようとした時、オレ様が貸したのは、全体の二十五パーセント。だからさっきまでお前が持ってたのは、俺の全体の七十五パーセントの力だ。
オレ様が『さらに半分』って言ったのが悪かったかもな。正確には、『今持ってる中の半分』ってことだ」
「じゃあ、どうしてギルフォードの姿が消えたの?」
「導霊は力の半分より多い量を貸し出すと、実体を保てなくなる。だからあの後、オレ様はお前の中に意識だけ残ってた」
「ならどうしてずっと黙ってたの! スコルケトのように、ところどころ助言でもしてくれたらいいのに!」
「それはミハル一人でこの困難を乗り越えられるか見定めたかったからだ。ま、ちょくちょく声漏らしてたけど……」
ここで僕は、ギルフォードの顎にアッパーを食らわせてしまった。
「こんなところでまで僕を苦しめるとか、貴方つくづく性格悪いね!」
「全く、そこはどうにかして欲しいものだ」
「ですよね……って!?」
僕は慌てて踵を返し、ギルフォードはのけぞった体勢をピンと正す。
僕たちの目線は、神々しい光を放っているように錯覚する、銀髪の渋みのある男性に向いていた。
「初めまして真行寺ミハル様。私は武の導霊爵、アンセルムでございます」
「武の、導霊爵……?」
ギルフォードは中腰になって僕にささやいた。
「アリュシストに九人いる、導霊の隊長みたいな人。でもってあの人はオレ様の直属の上司で、訓練長官でもある」
「説明ご苦労、ギルフォード……お前の異世界での特別研修の様子、時々陰ながら見ていたぞ」
ギルフォードは再び姿勢を正す。
「はっ! お忙しい中ご覧いただき光栄でございます!」
こんなギルフォード、ちょっと見たくなかった。僕のイメージだと、上司にも多少の反骨精神を見せてくれると思ったのに。
「それで、今回の使命の達成の可否についてだが……一応、合格だ」
ギルフォードの使命――僕を幸せにする。
「その使命は、どう達成されたのですか?」
僕は思わず、アンセルムさんに尋ねた。
するとアンセルムさんは、まるで僕が小粋な冗談を言ったかのように、口角を上げて、
「それは貴方が実感しているとおりですよ」
「いえ、まるで実感がないです」
「二週間前の貴方なら、誰かに助けを求めたり、誰かのために危険を冒すことなど出来ませんでした。
ですがそれを容易くこなし、歴史上の英雄に勝るとも劣らない勇気に満ち溢れているではありませんか」
なるほど、通りで笑われたわけだ。
僕もおかしくなってクスクス声を漏らしてしまう。
確かにそうだ。僕は、この二週間でだいぶ派手なことをしまくった。その前まで、両親のことで怯えて、半分家に閉じこもっていた僕なのに。
「じゃあ、この特別研修はもう終わりってことでいいんですね? 故郷に帰っていいんですよ、ね?」
と、隣のギルフォードは目をキラキラさせて聞いていた。
けどその輝きは、すぐに消えた。
「いいや、特別研修は続けるぞ。ここではもうしないが、また別の世界でもう一件、使命を果たしてもらう」
「え、なんでですか!? この通りミハルを幸せにしたじゃないですか!? それなのにどうして……!?」
「他の異世界の侵略者が来たというイレギュラーの発生。
それに対する貴様の無茶な行動。
この二点から、今回の使命達成は正当に評価しがたい。なので本当に導霊としての務めを果たせるか確認するため、もう一度別の異世界で試させてもらう。というわけだ」
ギルフォードはアンセルムさんにしがみついて言った。
「そ、そんなぁ〜! もう少し寛大な処置をお願いしますよ!」
別に好きというまでじゃなかったんだけど、お願いだからこれ以上キャラを崩さないでくれ。
アンセルムさんは、ギルフォードをそっと押して引き剥がす。
「これは決定事項だ。つべこべ言わず従え……私が一目置いているお前が、これ以上みっともない姿を見せるんじゃない」
「……はい、失礼しました」
ギルフォードを大人しくさせた後、アンセルムさんは校庭や校舎、この辺り隅々を見て、
「さて、では早速次の世界へ……と、言いたいところだが、その前にまず、この世界にお詫びをしないとな……ギルフォード、あの蛇のせいで荒れた諸々の復元作業に取り掛かるぞ」
「はい、教官!」
ギルフォードはキビキビとした動作で、アンセルムさんへ敬礼した。
なんとなく、僕もそれに合わせて、右手を額に当ててみた。
「なんかあの子も異世界絡みで色々あったみたいだなー」
「そのようだな、ゼン氏」
「それアタシも同感。まさか他にも変な遭遇してた人がいたんてね……」
「あれ、俺仲間はずれになってる?」
【完】




