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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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第48話 その炎が照らすもの

アマンが火魔法を覚えた。



エヴェラとメノウさんから基礎を教わり、生活魔法の火は1年ほどで使えていたが、料理人となると、攻撃魔法にも使える火魔法が求められる。高火力で炒飯でも焼くつもりなのか。



魔法を使いこなすヨルカに羨望の眼差しを向けていたアマンは、3年間真面目に勉強し、ついに火魔法を発現できるようになったのだ。俺たちは大いにそれを祝った。



肉やチーズを炙ったり、アマンは得意げに魔法を使っていた。才能がある、とエヴェラが言うとアマンの目が輝いた。



だが、問題も起きた。



「アマン! また川辺の草燃やしたろ!」



「ちょっとだけだよ。すぐ消したし」



「ちょっとじゃないだろ」



一緒に遊んでいた、ゼルグとレーテルも俯いている。



「面白かったから……」



「面白くない。火は人を殺せる。お前の手にあるのは、そういう力だ」



俺の声が、思ったより低く出た。アマンの顔から笑みが消える。



「……わかってるよ。わかってるけど」



「わかってないだろ! だから言ってんだ」



大きな声が出てしまった。

俺は口を抑える。



アマンが唇を噛んだ。俺を睨み、それから視線を逸らした。



「……もう、料理なんてしない」



そう言い捨てて、地下道に駆け下りていった。ドアが閉まる音が響く。



エヴェラ:いいの?



「よくないよ……」





夜。



地下道の家。石のドアの前に座り込んでいた。

ディナーも終わり、みんなの夕食の時間になっても出てこない。



「アマン。晩飯、食べないのか」



———返事がない。



「お腹空いたらでてくるよ」みんなはそう言ったが、全く出てこないので、俺は焦りだす。中で何をしているのか。何を思うのか。



「お前の好きなやつ作ったんだけどな」



沈黙。



俺はドアに背を預けたまま、天井を見上げる。頭の中で、「どうしたらいいか?」が駆け巡る。



ドアを叩いてみる。



話しかけてみる。



何も反応が無かった。これをずっと繰り返している。

部屋からは動いている音はする。どうしたら、いいのだろう。



——ふと前の世界を思い出す。もう戻れない、あの部屋のことを。



閉じこもり、親の声を無視した。あの時、ドアの向こうで母親がどんな顔をしていたか。父親がどんな気持ちでドアを叩いていたのか。俺は俺の気持ちで精一杯だった。



あのドアの向こうでは、

こんなに心細い姿をしていたのか。



たったの数時間。アマンが部屋に籠もっただけでこれだ。

何年も、呼びかけてくれた両親。どんなに辛かっただろう。



最後には、彼らは俺と話すことを諦め、文字だけのやり取りになってしまっていた。なんて、酷いことをしたんだろう。



もし声が届くのなら……



あり得ないことだと少し笑った。

石のドアを見つめる。



しばらくすると、レナがスープを持って現れた。彼女は「少し待っていて」と言った後、ドア越しにアマンと話をしていた。そのまま中に入っていく。



アマンはレナの後ろに隠れながら部屋からでてきた。それから俺には目を合わせずに、食堂へ夕食を食べに行った。



俺は、大きなため息をつく。



エヴェラ:子育ての醍醐味を味わえているのかもよ?



「これは、キツイわ……」





翌朝。



厨房に、アマンがいた。



何も言わず、仕込みを始めている。昨日の俺の怒りを覚えているのか、目を合わせない。だが、包丁を握る手に迷いはなかった。



「おはよー。アマン」



俺は隣に立ち、同じように仕込みを始めた。

しばらく、包丁の音だけが厨房に響く。



「……ごめん」



アマンが小さく言った。



「おう」



エヴェラ:おう、じゃないでしょ。ちゃんとしなさい



いつの間にかレナが後ろに立っていた。サリーも腕を組んで見ている。



「……大きな声、出して悪かった。だけど、火の扱いはキッチンだけだ。いいな」



「うん」



アマンが頷く。その目が少し赤い。泣いたのだろう。昨夜、一人で。



俺は彼の頭をぽんと叩いた。



「腹減っただろ。飯にしよう」



「……わかった」



厨房に、いつもの朝が戻る。

まだ少し、ぎこちないまま。





数日後。



天使の台所はいつもの風景に戻っていた。

アマンは、ゼルグとレーテルを連れ、遊びに出かけた。



レナが「気をつけてね」と声をかける。アマンが「大丈夫だよー」と手を振る。



いつもの光景がそこにあった。

三人は川辺を歩き、市場を冷やかし、裏通りを探検していた。



「ここ知ってる?」



アマンが足を止めた。路地の端にある、古びたマンホールの蓋。



「前ね。ここに住んでたの。みんなと出会った場所」



ゼルグが目を輝かせた。「まじで? 入ってみようぜ」



「やめたほうがいいんじゃない……?」レーテルが不安そうに言う。



「大丈夫。ここの道、覚えてるから」



アマンが蓋を持ち上げる。下水の匂いが広がる。暗い穴が口を開けていた。



「くさっ。こんなとこに、どうやって住んでたんだよ」



三人は梯子を降りていった。





下水道は、記憶よりずっと狭く感じた。



天井が低い。水の流れる音が反響している。薄暗い闇の中をアマンを先頭に進んでいく。



「ほんと、くさい」



「慣れるよ。ちょっとだけあったかいだろ? こっち」



アマンは迷いなく歩く。この暗闇の中で、暮らしていた。……お兄ちゃんが来るまでは。



角を曲がると、見覚えのある広い空間に出た。かつてねぐらにしていた場所。何度かあった大雨のせいか、大きな残骸が増えている。



「あ、ここだ。ここで寝てた」



「すげえ……本当にここに住んでたのか。レナさんたちも?」ゼルグが辺りを見回す。何もない、ただの汚れた暗がりだった。彼の顔が引きつる。



レーテルが何かに気づいて、アマンの袖を引いた。



「ねえ……誰かいる」



暗闇の奥。汚い下水道の壁際に、確かに何かが動いた。



アマンが手のひらに火を灯す。兄とは約束したが、友達の安全のためだ。許してくれるだろう。



照らされたのは子どもだった。小さな影が三つ、身を寄せ合っていた。

汚れた服。痩せた身体。怯えた目がこちらを見ている。一番大きな子が、鋭い目を向けている。



————あの頃の自分たちだ。



アマンの胸が、ぎゅっと締まった。



「大丈夫。怖くないよ。前にここに住んでたんだ」



アマンは笑顔を浮かべ一歩だけ、近づく。



「ねえ。うちにおいで。美味しいご飯があるよ」



もう一歩進んで、手を差し出した。



「なんだお前ら、帰れ!」



目つきが鋭い男の子が叫んだ。声が裏返っている。怖いのだ。怖くて、震えている。彼の隣の二人は怯えた目で黙っていた。



レーテルがアマンの腕を掴む。「アマン、帰ろう。危ないよ」



だが、アマンは動かなかった。

ここにいるべきじゃない。雨が降れば危険だ。今は寒いし、それにずいぶん痩せている。



「雨が降ると、ここは危ないんだ。一緒に行こう」



さらに、もう一歩。

指先に灯した小さな炎が、震える少年の顔を照らす。



「来るなっ!」



アマンは膝をついて、怯える男の子の目線に合わせた。

彼が安心するよう、笑顔を浮かべる。



「怖かったんだね。だけど、うちには兄ちゃんも姉ちゃんもいるから。大丈夫」



手を差し出した。———あの日、自分が、そうしてもらったように。



「来るなって、言ってんだろ!」



——男の子が立ち上がり、アマンを押しのけるように動いた。




その手に何かが光った。




火魔法の明かりが消えた。暗闘。レーテルの悲鳴。ゼルグが何か叫んでいる。



アマンは何が起きたのか、わからなかった。



腹が、熱い。



音が、遠くなる。

水の音も、ゼルグの声も、全部。



手で触れると、濡れていた。

視界が天井に変わる。



背にあたる石の床が冷たい。



「アマン! アマン!」



レーテルの声が遠く聞こえる。



「お前、何やってんだよ!」



ゼルグが男の子を殴り、その手に持っていたナイフを奪う。



暗闇の中で、アマンは小さく言葉を漏らす。



「兄ちゃん……」



視界が、白くなっていく。





———カランカラン!



天使の台所のドアベルが、激しく鳴った。



ゼルグが転がり込んできた。膝を擦りむき、息も絶え絶えに。



「アマンが……アマンが刺された! 下水道で、血が……!」



レナの手から、皿が落ちた。


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