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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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第46話 満ちていく日々

「勇者様! お連れしました!」



カリンちゃんが息を切らせて駆け込んできた。その後ろに、フードを深くかぶった二人の姿がある。



「ユウト様。ご無沙汰しております」



フードを取ったのは、ルーク王子だった。隣にはアリス王女。二人とも少し大人びた顔になっている。



店の外には豪華な馬車が停まり、兵士が並んでいる。もちろん貸し切りだ。



「王子、王女。ようこそ天使の台所へ」



俺が頭を下げると、ルーク王子が目を丸くした。



俺の白髪と老いた顔に、明らかに動揺している。

だがすぐに表情を整え、手を差し出した。



「カリンから聞いてはおりましたが、苦労なされたようですね」



「……素敵なお店。温かい場所ね」



アリス王女は店内を見回し、壁に描かれた子どもたちの絵や、手作りの家具に目を細めた。



カリンちゃんが得意げに胸を張っている。「ねー、可愛いですよね?」



俺は腕をまくった。今日は特別メニューだ。以前キャンセルになってから温めて来た王族メニューを全力で行く。



「アマン、王子たちの度肝抜くぞ」



「了解!」



店の名前が入ったエプロンを翻し、アマンが厨房に駆け込む。レナが王族二人を奥の席に案内した。トラが緊張した顔でハーブ水を運び、半分こぼした。サリーが慌てて拭く。



ヨルカは——今日は非番で、カウンターの隅に座っていた。軍服ではなく、レナが選んだ白いブラウスを着ている。ルーク王子がヨルカに気づき、一瞬足を止めた。



「……君が、ヨルカくん?」



「はい。お初にお目にかかります、ルーク王子」



ヨルカが丁寧に一礼する。ルーク王子は何か言いかけたが、アリス王女に腕を引かれて席に着いた。



料理を出す。カレーを一口食べたルーク王子が黙った。二口目で目を閉じた。三口目で、隣のアリス王女と顔を見合わせた。



「……これ、城の料理長に食べさせたい」



「是非連れてきてください。アマンと勝負させよう」



俺が言うとルーク王子が笑った。久しぶりに見る、あの穏やかな笑顔だった。俺は王城での厚意に感謝を伝えた。



二人は、俺を牢屋に残してしまったこと、留守中に軍部が戦争に駆り出そうとしたことを詫びて来た。頭を下げる王族に俺たちは慌てる。だが、王子は笑って言った。



「まあ、すっかりヨルカくんに、乗っ取られてしまったようだけどね」



「そんなことありませんわ、王子」



見るとヨルカが、大人の顔で笑っていた。乗っ取るって何? 少し怖いがそっとしておこう。軍ではこんな顔しているのだろうか。



アリス王女はアイスを三杯おかわりした。カリンちゃんと二人で「もう一杯だけ」を繰り返している。フレーバーを増やし続けているため、いろいろ試したくなる罠だ。



食後、ルーク王子が俺に言った。



「身体のこと……聞いております。何かできることがあれば、遠慮なく言ってください」



「今はみんなが動いてくれてるから、大丈夫ですよ。それより、是非また来てくださいね」



ルーク王子は頷き、帰り際に店の看板を見上げた。



「天使の台所、か。……いい名前だ」



彼らが帰った後、店内に静かな興奮が残っていた。



「王子が来た店」という事実は、思った以上に大きかった。翌日から、富裕層からの予約が入り始める。週に一度の夜営業を始めると、あっという間に席が埋まった。



エヴェラ:この調子なら、もう一店舗出せるかもしれないわね。



「まだ早いよ。……でも、悪くないな」





「それで、神託はどうだったんだ?」



数日後、カリンちゃんが屋台に寄ってくれた。アイスを舐めながら、彼女は安堵した顔で答える。



「豊作と、平穏の兆しでした。よかったですー」



「そりゃよかった。フラグ回収されなくて」



エヴェラ:このまま、平和な日が続いていくのかしら。



なんか退屈そうに見えるエヴェラに、それが一番いいだろと答え、串を焼いていく。





トラとサリーが、興奮した顔で帰ってきた。



「兄ちゃん! 隣のバルデス国のダンジョンに、紫色の果実の噂があるらしい」



「桃朱雀かどうかはわからないけど、調べる価値はあると思う」



サリーが地図を広げる。バルデス国は馬車で三日ほどの距離だ。



「行ってくる。おれたちで十分だからさ」



トラが自信に満ちた顔をしている。以前の無鉄砲さとは違う。変身を経て、彼は確かに「戦える大人」になりつつあった。



「気を付けろよ。何かあったらすぐ帰れ」



「わかってるって」



俺はトラを横目にサリーの両肩を掴み「トラを頼む」とお願いする。二人を見送りながら思う。小さかった二人が、今は自分たちだけで国境すら越えようとしている。





ヨルカは軍の敷地の一角に、コンロン山から持ち帰った桃朱雀の苗木を植えていた。



「ここなら日当たりも土壌も悪くない。あとは水源の確保と……」



彼女の横には、三人の学者が緊張した顔で立っていた。ヨルカが振り向く。



「本日から、桃朱雀の成分分析と栽培研究を始めます。研究手法と手順はこちらに」



ヨルカがピンメッセージを一括送信した。三人の学者が同時に目を見開く。



「こ、これは……魔法薬学と植物学と錬金術の複合的な……」



「読めばわかります。不明点があれば聞いてください。ただし、一度だけです」



学者たちが顔を見合わせて震えている。ヨルカはすでに次の資料に目を落としていた。エヴェラとの高速通信で組み上げた研究計画。



人間の学者に実行させ、データを収集し、エヴェラが分析する。ヨルカはその橋渡し役だった。



「量産化できれば、兄さんは……」



苗木に水をやるヨルカの横顔は、穏やかだった。その目の奥にはいつもの——底の見えない水色が、静かに光っていた。





夜。



地下道の家。

俺は暖炉の前で、一人お茶を飲んでいた。



トラとサリーは遠征中。ヨルカは研究の監督で軍施設に泊まり込み。レナとアマンはもう寝ている。



静かだ。



エヴェラ:珍しく一人ね。



「たまにはいいよ。……みんな、自分の足で歩いてる」



エヴェラ:寂しいくせに。



「うるさいな」



暖炉の火を見つめる。

その横にある姿見に、ちらちらと老人が映る。幼いころに会った、祖父に似ている気もした。



王子が来てくれた。店も繁盛している。子どもたちはそれぞれの道を進んでいる。俺がいなくても、きっとやっていける。



——そう思えることが、嬉しくて、少しだけ怖い。



エヴェラ:まだ早いわよ、そういうこと考えるの。



「考えてないよ」



エヴェラ:嘘つき。



俺は笑って、冷めたお茶を飲み干した。

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