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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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第43話 みんなの誕生日

子どもたちと出会ってから、一年が過ぎようとしていた。



「わたし、今日、誕生日」

レナが、少し照れくさそうに切り出したのが始まりだった。



サリーも偶然同じ月らしい。トラの村には誕生日という概念がなく、ヨルカもアマンも、自分がいつこの世に産み落とされたのかを知らなかった。



「じゃあ、まとめてやるか」



俺のその一言で、合同誕生日会が開かれることになった。





場所は天使の台所。



「お前が生まれてきたこと、今日まで生きれたことを、みんなで喜ぶ日なんだ。プレゼントもあるぞ」



誕生日を知らないアマンにそう教えると、彼は大きな目をさらに見開いた。



「僕がいたら、嬉しいの?」



「嬉しいぞ」「嬉しいよアマン」



彼が孤児の理由はわからない。

今まで誰にも祝ってもらえてないのかもしれない。



「これからは毎年するからな」



渡されたプレゼントを両手で掲げるアマンの顔は、初めて地下道で出会った頃から随分変わった。血色がよく、輝いていて、生意気だ。



プレゼントはレナが作ったエプロン。



「料理長、似合ってるぞ」



そう声をかけると、アマンは新しい鎧を手に入れた騎士のような顔で、その裾を握りしめて走り回った。



「え、ぼくにもあるの?」



戸惑うヨルカには、サリーと一緒に選んだ水色の花が揺れる髪飾りを渡す。



「正確な日付はシラスに聞いておくが、今日はお前の誕生日だ。可愛いぞ、ヨルカ」



彼女は鏡を見るのをためらうように一瞬俯いたが、そっと髪飾りに触れ、壊れ物を扱うような手つきでそれを胸に抱きしめた。



それから店の仲間も、常連客も、巻き込んだ大騒ぎになった。



「おめでとうー!」

「おかわりあるぞー!」「ケーキ、もっと焼けよー!」



笑い声と皿の音、肉の焼ける匂いが混ざり合う中、レナがふと静かになった。彼女は、ケーキに灯された十六本のろうそくを見つめていた。



「……私、十五歳までしか生きられないと思ってたの」



震える声が、喧騒を裂いて届く。

レナが顔を上げる。炎が彼女の瞳に映り、濡れて光った。



「でも……十六歳に、なれた」



その一言で、店内の空気が柔らかく、そして静かに震えた。



メノウさんがフォークを置く音が小さく響く。常連の酒飲みのおじさんが、グラスを握ったまま動きを止める。喧騒が遠のき、ろうそくの炎だけが揺れた。



サリーが照れくさそうにケーキを頬張りながら、そっとレナの肩に手を置く。トラは肉を頬張ったまま、珍しく目を細めてレナを見ていた。



アマンが、堪えきれないといった様子で、小さな手を目一杯に叩き始めた。

「おめでとう、レナ姉ちゃん!」「立派になったなぁ!」「来年も、再来年も祝おうぜ!」



周囲の祝福が、波のように重なる。ガレンさんが温かい笑みを浮かべて静かにグラスを掲げ、トラが照れ臭そうに袖で目をこすった。



「レナ、これはお前へのプレゼントだ。真っ白な日記帳。……16歳からの物語を、ここにお前自身の言葉で書いていってほしい。お前の未来は、もう誰にも奪わせない」



レナは頬を赤らめ、瞳の端に涙を溜めたまま、何度も、何度も頷いた。

その笑顔は、泣いているようにも、祈っているようにも見えた。



それぞれが、違う形で、ここまで生き抜いてきた。

子ども達が生きていられる今を、選ぶことができた。



この光景がその証拠だ。

俺は間違っていなかった。





パーティーの翌日。



ヨルカは隣国のヤード公国経由でコンロン山に出発していった。

魔力を増やすアイテムを探しに行ってくれる。



「気を付けろよヨルカ。日記、送ってくれよな」



「うん。兄さんたちも無理しないで」



それだけ言って、彼女は去っていった。

頼もしいが、まだ十二歳の背中だった。



彼女を送り、新しい屋台の出店準備で市街地へ向かう。



朝のランニングと弓の訓練は続けている。

だが、体は正直だった。



「……はぁ、はぁ……」

肺が焼けるように熱い。足が鉛のように重い。



「ユウトさん、大丈夫ですか」

ガレンが駆け寄ってくる。



俺より十五歳ほど年上のはずの彼が、ずっと敬語なのは、今の俺が彼よりもずっと「老いて」見えるからだろう。



「屋台は俺たちがやります。休んでください」



「いや……行くよ」



震える膝を叩き、なんとか立ち上がる。



なんとか辿り着いた屋台は、上々の反応だった。

客の足も止まるし、売れ行きも悪くない。



帰り道。



果物屋の店先に『スーモの実』が並んでいるのを見つけた。

一年前に彼らと出会った時、最初に分け合った、あの酸っぱい果実。



あれから一年。彼らは高く、強く伸び、俺はただ、削れていく。

手に取ろうとした指先が、微かに震えていた。



「ユウト兄ちゃん、発見」

背後から声をかけられ、振り返るとサリーとトラが立っていた。



「ダンジョンのこと、わかったよ」



3人で並んで家に帰りながら、彼女たちの話を聞く。



炎魔のダンジョンは馬車で1日ほどのところにある。炎対策が必須だが、そこまで敵は強くない。ただし、迷宮化しており、マッピング能力や幻惑対策がないと遭難することも珍しくないらしい。



「そういう理由で推奨ランクが高いなら問題ないな」



「なんで?」

俺が言うとトラが振り向く。



「エヴェラがいるからでしょ?」

サリーが答えてくれた。



サリーが渡してくれた紙には、ダンジョンの場所や行き方。魔獣の種類が記載されていた。



「……よくこれだけ調べられたな。よくやった」



二人の頭をポンとたたく。



「これぐらい簡単だよ」トラが誇らしげに笑う。「あんた最後、殴ってたじゃない」サリーがため息をついた。「後から金だせって言うからよー」トラが笑う。



彼らのやり取りが少し不安になったが、

……ありがとう。そう言いたい。



気づけば、助けられているのは俺のほうだった。





「わたしも行きたいけど……」



出発を前に、レナが消え入りそうな声で言った。



「待っててくれ、レナ。これが成功したら、ずっと一緒だ」



「……わかった。約束だよ。絶対に、魔法は使ったらダメ」



彼女が両手の人差し指で大きなバツを作って見せる。その真剣な眼差しが、胸を刺した。



「がんばってねー!」



アマンが持たせてくれた弁当を抱え、俺たちは馬車を出した。

久しぶりの、三人での冒険者活動。



二人の役に立ちたい。格好いいところを見せたい。

そう願う自分は、まだ「お兄ちゃん」でありたいのだと思う。





ヨルカはコンロン山の頂上付近に降り立っていた。

そこは樹木の限界を超え、吹き荒れる風と砂利だけが支配する、死の世界だった。



ここに降り立つ前に、何匹かドラゴンに襲われたが3匹ほど撃ち落とすと近づかなくなった。



山頂の窪みには、まるで神の庭園のような泉と樹木が茂っていた。ヨルカの黒いブーツが、ごつごつとした溶岩の砂利を踏みしめる。



「綺麗だなぁ……」



数本の木に、紫色に妖しく輝く果実が成っていた。

文献にあった通りの、水袋のような手触り。



「これだ」



ヨルカが微笑むと、気配に怯えた小型のドラゴンが逃げ出していった。

静寂の中に、彼女の声だけが冷たく響く



「必ず救う。どんなことをしても」



彼女は数個の実を袋に詰め、再び空へと飛び立った。

冷徹な計算が、彼女の脳内を駆け巡る。



数百年、誰も口にしたことがない果実。これをいきなり兄さんに食べさせるわけにはいかない。



「……また、誰かで実験しよう」



水色の花が揺れる髪飾りにそっと触れる。



ヨルカは、ルクサーン王国へと飛んでいく。

期待と覚悟を抱えたまま。

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