表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/52

第41話 あと2mm

「着いたよ」



馬車の中で目を覚ます。

ヨルカが心配そうに俺を見ていた。



手を持ち上げる。指の節が、少し太くなっている気がした。手の甲に浮いた筋が、前よりくっきりしている。



エヴェラ:老化、してるわよ。前回と同じね。



彼女の言葉で、目を覚ますのを止めたくなった。

それでも、生きていかないとな。



ベッドに改造した後部座席は快適だった。

この馬車は食材や木の運搬のため、店で新規に購入したものだ。



店に着くと、「木の運搬で馬車が必要だった」とヘンスたちが文句を言いながら近づいてきた。



御者席のヨルカが手を挙げると、ヘンスは緊張した顔でペコリと頭を下げた。彼は成長したヨルカを前にすると、どうしても緊張してしまうのだった。



彼は後部座席に寝ている俺を見て、声を上げる。



「ちょ、兄ちゃん! 大丈夫かよ」



「どうした」「えー、何?」



炭窯で作業していた子どもや、ガレンが馬車に集まってくる。ヘンスが心配した顔を向ける。



「兄ちゃん。顔色ってか、やべえよ、いろいろ」



俺は鏡を持っていない。

こんなに心配されるほど、老化が進んでいるのだろうか。肩が重くなる。



「大丈夫だ、たぶん。どうなってるんだ? 俺」



ヘンス達は顔を見合わせる。



「頭、真っ白」



「顔しわしわ」



悲しい言葉たちに俺は目を伏せる。ヘンス達も黙ってしまった。「少し休むわ」そう言い残して俺とヨルカは馬車を降り、食堂へと向かう。





———カランカラン。



天使の台所には、客はおらず、レナとアマンがディナーの仕込みをしていた。



「ただいま」



「おかえり!」



アマンがびしょ濡れの手で抱きついてきた。



「……何が、あったの?」



レナが俺の顔をのぞき込んで、悲痛な表情に変わる。



「ちょっとな……。少し、休みたい」



「そっか」



レナが肩を貸してくれる。


地下室のベッドへ横たわった。レナとアマンが心配そうにのぞき込む。ヨルカは、迷子の子どものような顔をしていた。



「ヨルカ、お前も寝ろ」



「え?」



「疲れただろ。寝ろ」



俺が寝ている間、コイツが少し心配だ。だったら一緒にお昼寝してたほうがいいだろ。身体中の疲労感の中、俺はそれだけ言った。





暗闇の中、目が覚める。



薄暗い地下室。横を見ると、2つの水色の光がこちらを見ている。



「ヨルカ」



「おはよう。兄さん」



「起きてたのか?」



「寝顔を見ていたの」



そう言われて少し照れる。

いつから見ていたのだろう。



「どんな感じだ? 顔とか」



自分の顔をさすりながら、ベッドに腰かけた。

誰かが置いてくれた水を飲む。



「かっこいい、よ」



俺は水を吹き出しそうになる。

エヴェラの笑い声が耳元で響く。



「そうか。まあ、変わらず、お兄ちゃんだ。忘れんなよ」



「うん。忘れない。ずっと」



暗がりに水色が微笑む。



「兄さんの魔力。必ず回復させる」



「できるのかよ」



「やるよ! そしたらずっと一緒にいられる」



エヴェラ:魔力が回復するのなら、何百年も生きられるかもね♡ ヨルカ、絶対に成功させるのよ?



「それはそれで怖いな。ま、期待しないで待ってるよ」



「もう、期待してください」



エヴェラ:ヨルカの寿命は長い。お兄ちゃんなら付き合ってあげなさい。



「無茶言うなよ」





俺は、鏡を見るため、地下道の『家』に降りていく。

ヨルカは寝かせた。お兄ちゃん命令だ。



まだ寝ているだろう子どもたちを起こさないよう、そっとドアを開ける。



アマンとトラが、とんでもない寝相で寝ている。レナは胸の上に手を組み、綺麗な寝顔をしていた。



小さな暖炉の火が、かすかに部屋を照らしている。



俺は姿見の前に立った。

どうやら髪は、ほとんど全体が白くなっているようだ。心なしか痩せているようにも見える。



目線が姿見のふちから、やや低い。

「もしかして縮んでいるのか?」



エヴェラ:どうやら身長が2cmくらい縮んでいるみたいね。



俺は頭を抱える。



「あと2ミリで170だったのに!」

……ほんの少しだけ、笑った。



ステータスを見ながらつぶやく。



「あと18年と少し、か……」



俺はこの世界で生活し、31歳になっていた。


推定寿命は50歳と表示されている。肉体年齢は60~70といったところだろうか。しわだらけの腕を見つめる。



エヴェラ:"まだ"18年よ。最後まで、ちゃんとしなさい。最期まで、ちゃんと付き合うから。



彼女の声が、オレンジ色の部屋の中に、甘く響く。

気を抜くと、後悔しそうになる。



だけど、エヴェラの言う通りだ。ちゃんと、残りの日々を生きよう。



しっかりと味わっていこう。できる事も、しなければいけない事も。きっと、まだある。



鏡の前で、笑ってみた。

口元は動くのに、目が笑わない。



もう一度。

——駄目だな。前はできたのに。



「———お兄ちゃん」



振り向くとレナが立っていた。

ヨルカがプレゼントしたレースの寝間着を着ている。



「悪い。起こしたな」



彼女は小さく首を横に振った。

そして両腕で、俺の頭を自分の胸に抱き寄せた。



俺は慌てるが、抵抗できない。

レナは俺の顔を、優しく抱きしめてくれた。



「……また、無理したんでしょ」



それだけ言って、俺の背中を撫でてくれる。

俺は、泣いていた。老いた顔のまま、子どものように。





「お兄ちゃん。今日、一日休むって」



アマンがランチの準備をしながら、ヘンス達に伝える。



「そっか、元気になるといいな」



ヘンスが、地下道に目を向ける。



「ユウトお兄ちゃん。大丈夫かな」



祈るように両手を合わせるレーテルに、ヨルカが膝をついて目線を合わせる。



「大丈夫だよ、レーテルちゃん。ぼくが必ず治すから」



「ヨルカちゃん……」



ヨルカに撫でられる彼女は、大きくなったヨルカに慣れるまで、少し時間がかかった。それでも変わらぬ水色の瞳に、また心を開いていた。



「なあ、おれたちにも何かできないのか?」



「そもそもなんで魔力が回復しないわけ? 回復するでしょ、普通」



トラとサリーがテーブルで朝食を食べながら口を挟む。ヨルカが振り向き、早口で説明し始めた。



「考えられるケースは2つ。①もともと魔力が無い。スキルで手に入れた魔力だから回復しない。②もともと魔力はあった。スキルの力で魔力量が固定された」



トラとサリー、それからアマンが困惑の表情を浮かべる



「この世界は生きて行くのに魔力が必要。①の場合、スキルで魔力を選ばないと即死だから、過去にも勇者がいる以上、これはありえない。つまり、兄さんのスキルが回復を阻害している可能性が高い」



アマンが小声でレナに聞いた。「なんて言ってるの?」

ヨルカが口を閉じ、少し息を吐いた。



「ごめん。……兄さんのスキルが呪われてるかもってこと」



サリーがヨルカに聞く。



「それなら、その呪いを解けばいいってこと?」



「そうだね。スキルを解除できれば——普通に回復するかもしれない」



「おおおおおおお。兄ちゃん治るのか?」



トラがフォークを持ったまま両手を上げる。



「まだ、わからない。もう少し軍で調べてみる。スキルを封じるアイテムなんかもあるみたいだから」



場に少しだけ明るい空気が流れた。

アマンが不思議そうに聞く。



「ヨルカ、それできたら……お兄ちゃんの髪、黒くなる?」



ヨルカは一瞬だけ、目を伏せた。



「……なるよ。きっと」



———兄さんがいなくなる。きっとぼくは、耐えられない。



ヨルカは、地下室を見つめ、拳を握った。






—————————————————ヴゥン———



[Internal Log - Memory Slot 951]


対象事象:前回同様、Userに老化様症状。残存寿命18年と3カ月。


診断  :Userは保護対象の生命危機が不在の状況下で寿命10年を消費。自己犠牲の閾値が懸念通り低下している。ただし、幸福度関数の上昇を認める。


User生存ルート継続率:87% → 41%(Declining)


次回提案優先タスク:

・各Subjectによる老化対抗策を支援。

・Userへの消費抑止アプローチ——保留継続。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ