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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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幕間 Subject Y phase 2



兄さんの温かい膝の上。


ぼくは、まぶたを閉じる。



頭の中全体に、優しく響くエヴェラの甘い声。


その裏で、低く深い音が身体の底を震わせる。



彼女の指示で送られた言葉を、自分のものとして脳内で復唱していく。


さあ、木漏れ日の中、気持ちの良い風を感じます。



一番安心できる人のそばに、寝そべっています。


身体が順に重く、温かくなっていきます——



頭、顔、首、背中、腕、腰、足。


言われたとおり、部位ごとに意識を向ける。



重みと温もりが確かに広がった。



額に風が吹く。全身が重くなる。


まぶたがさらに落ちる。



身体にわずかな振動を感じる。


それが深まっていく。



甘い声が続ける。


落ちていくと。



身体は、ゆっくりと溶けていく。


甘い声に導かれ、形を失う。



滴となって兄さんの膝からも零れ落ちる。


温かな地面に吸い込まれ、暗い土の奥へ。



奥へ……。


深く、深く——。



闇の中に、記憶の断片が通過していく。 


甘い声が記憶を引き出させる。



「最初の光」



与えられた言葉が、ヨルカの脳で反射を引き起こす。 



ヨルカは、それを見つめている。


反射し、自動で生まれてくる、脳の奥からの光を。 



見逃さない。


それは、ほんの小さな、記憶のひとかけら。



記憶を見たヨルカの中から、


次々と反応の連鎖が産まれ、さらに記憶を引き出す。



それらに触らず。じっと眺めている。


慈しむように。流していく。



最初の光。


最初の温もり。



呼吸と香り。


音と液体の質感。



誰かの手。


困惑の顔。



誰かの疲れた笑顔。


誰かの胸。



奪われた光。


奪われた温もり。



暗闇。片隅の小さな光。


覗き込む黄色の瞳。



耳に届く、悲しい声。


母の味のする、布。



冷たい壁。身体の痛み。


一人のさみしさ。



かみ殺した声。禁止された声。


暗闇。



エヴェラは再度、問う。


「二度目の光」を。



脳が震える。



暗闇。




時間。




身体の痛み。




争う声と沢山の音。


初めての、大きな音。



恐怖。



視界が震えている。



母の叫び声と。


——激しい揺れ。



男たちの声。


笑い声と、何か。



身体が浮く。


落ちている。



声が聞こえた気がした。



衝撃と光。


身体の痛み。



身体が光に覆われていた。



あの声の人。


上を見上げる。



真っ黒な天井に青い線が入っている。


……ずっと、上。



「母は上にいるのかな?」



記憶の中を見ているヨルカが、


「問い」を挟んでしまった。 



世界が一瞬ゆがむ。



優秀な脳が反応し、答えを探す。



最期の母の声、あれは————


すぐ真横から聞こえていた!



ずっと。衝撃までの間、


すぐそばで聞こえていた。最後まで、ずっと。



落下する箱が見える。


箱を抱きしめながら、ささやく女性の姿————



「ごめんなさい。だいじょうぶ。ここにいるよ」



……母の言葉。


毎日、聞いていた言葉だった。



胸の奥が、熱く震える。


まだ、聞いていたい。



吐息の隙間まで、逃さないように必死に耳を澄ます。


だけど、それが、ぼくを現実へ引き戻していく。



記憶の中で見た、ぼくの身体の光。


あれは、防御魔法の光だ。



————全ての魔力を。ぼくに。



ぼくは最後に、


地面に激突した時の「音」を思い出した。



その音も、衝撃も、粉塵も、すべて消えていく。


そして、まばゆい光が、ぼくを包んだ。



「二度目の光は、一人で見たんだ。」



ヨルカは生まれてから一番大きな、泣き声を上げた。


兄さんの膝の上で、喉が裂けるくらいに——。

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