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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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第36話 投書

朝。



レナ姉さんの朝食をみんなで囲んだ。

今日から出す予定の新メニューだという『赤首大根の浅漬け』。



この衝撃的な美味しさに、ぼくは驚愕する。



「……これ、どうやって作ったの」



「これはね。エルリーナさんに教えてもらったの」



レナ姉さんが少し照れながら説明してくれる。

ぼくはすかさず記憶した。味、食感、温度、塩加減。完璧に。





「今日は俺が作った」



そう言って兄さんが手渡してくれた、

お弁当を革袋に詰める。



今日のは重い。きっと、詰めすぎている。



アマンがチラチラ見てくる。

いつもの顔だ。ぼくがいなくなるのが寂しいのだ。



「お姉ちゃんは仕事に行ってくるね」



そう微笑んでおいた。

彼は「ヨルカが妹—」と喚いている。————可愛い。



髪はサリー姉さんがセットしてくれる。

ぼくの要望は聞かれない。毎朝、彼女が決める。



不思議だけど、嫌ではなかった。



「行ってきまーす」





ぼくは、空へ駆け上がる。



スラムを超え、王城へ向かう。

眼下には、屋上に置かれた植物。器用に作られた家具。

そこでくつろぐ人々。ぼくを指さす、小さな子どもたち。



そういうものを見ながら、ふらふらと飛ぶのが好きだ。

空の上では、誰も敬礼しない。



この国では、飛行を規制する法律は無い。

飛行魔法を使える者が、ほとんどいないからである。



文句を言われないよう、王城のベランダから入室はしない。

近くで降りて、城門をくぐっていた。



門兵が直立する。——また新しい人に変わっている。

ぼくはいつもの笑顔を貼りつけて、通り過ぎた。





昼。



兄さんのお弁当が美味しすぎて、

そのことについて詩を書いて過ごす。



ここ、軍作戦本部での日常的な業務については、ほぼ自動化している。

それは単純に、複数の”人間”に仕事を割り振っているだけだが、

結果的に自動ではある。



戦況としても、ほぼ終戦。新政府との条約締結が目前だ。

要するに、現在、この部署は暇なのだ。



業務のふりをして、できる限りの情報を集めていく。

本来閲覧できない情報にもアーデスが権限を付与してくれた。



どんな情報でもいい。

ここを辞める前に大量に集めて、エヴェラに解析してもらう。



何か使える情報があるだろう。

エルフについての情報、なんてものもあった。



少しわくわくして読んでみた。

だけど、ほとんどがカリンちゃんから聞いた内容だった。



さて、そんな情報収集も、ほとんど終わりに近づいている。

『王都住民からの投書』今はこれを読んでいる。



これらは基本的には「誰にも」読まれない。

内容は、農民の悲痛な訴えだったり、衛兵への不満だったり。

……一定期間保存されて、ただ捨てられるだけの言わば、ゴミだ。



膨大なそれらを、流し読みしていた。

その中の1枚の『投書』———それを読んだとき、思考が止まった。



ぼくの顔が、一瞬だけ変わったと思う。



====================

[王都警備隊 市民投書]


おねがいがあり、書きます。


オルガノ村のちかく、

崖の下の街道で、こわれた木の箱をみつけました。

ほかには布きれと、すこしの血がありました。


ちかくに小さな子どもがすわっていました。

泣きもせず、じっとしていました。


怪我はないようでしたが、

おなかがとてもすいているようでした。


手もちの食べものをあげましたが、

わたしはこの子をそだてることができません。


王都の孤児院のまえに連れていきました。

どうかだれかが読んでくださることをいのります。


あの子がだれかにやさしくしてもらえますように。


====================



純朴であたたかい祈りのような文章。

書いた人の人柄が伝わってくる。


……この日付、レナ姉さんが、ぼくを見つけた頃だ。



ぼくの顔が、変わってしまう。

笑っているのか、悲しんでいる顔なのか、わからない。



すぐに顔を戻す。

誰にも見られていないことを確認する。



ズキッ———痛みが走る。

無意識に、自分のお腹に手を当てた。



……冷たい。

兄さんの手なら、温かいのに。



投書の日付。筆跡。紙質。インクの種類。

すべてを記憶する。



エヴェラなら、場所を特定できる。

オルガノ村。崖。壊れた木の箱。



ぼくの、はじまりの場所。

————エヴェラの哲学的な問いではなく物理的な、ぼくのルーツ。





夕方。



文字通り、飛んで帰った。

何かが変わる気がして、落ち着かない。



「ただいま」



「おかえりヨルカー。待ってたぞ」



「え? なんかあるの」



「毎日待ってるんだ」



よくわからないことを言う、兄さんを捕獲した。

腕の中は、朝と同じ匂いがする。



アマンが作った夕食を終え、暖炉の前に集まる。

トラとサリーが何かで言い合っている。レナが笑っている。



いつもの夜。



兄さんの膝の上で、目を閉じた。

みんなには眠っているように見えるだろう。



エヴェラとの会話をはじめる。



投書の情報を圧縮して送った。

数秒後、解析結果が返ってくる。



エヴェラ:大まかな場所はわかった。あとは、この村周辺の地図データを持ってきて?  そして———



エヴェラが付け足す。



『調査をするなら、必ず誰かを連れていくこと』



ぼくは少し考えた。



みんなで行くべきだろうか。

トラの時は、全員で行った。



『今回は、ユウト兄さんと二人で……』



皆には悪いけど、ぼくは兄さんと二人で見たい。



ぼくがどこから来たのか。



膝の上の温もりが、少しだけ滲んだ。

目は開けなかった。





次の朝。

朝食を終え、いつものように見送られた。



エヴェラ:ユウトには伝えておいた。二人で行くそうよ。地図データを見つけたら送って。それから日程もね。気を付けて、行ってらっしゃい。————



ぼくは、空に浮かぶ。

今日はいつもよりも念入りに編み込まれた髪を揺らす。



眼下には天使の台所と看板。

店の裏に広がる川の流れ。遠く王城まで続いている。



気持ちのいい春風の中、思う。———みんなと飛びたいよ。だけど、ぼくらは違う。

ぼくは一人で飛ばなくちゃいけない。



「まあ、アマンを背負って飛ぶくらいはできるかな?」



彼の顔が風の中、朝日に照らされる。

そんなイメージを浮かべながら王城へ飛んだ。








――ヴゥン――――――――――――――――――




[Internal Log - Memory Slot 779]



対象事象:Subject Yが自身のルーツに関する情報を取得。

     王都警備隊・市民投書アーカイブより。

     座標解析:オルガノ村南東、崖下街道——処理中。


診断  :外部情報源からの既存データと照合。

     調査の進行はSubject Yに重大な心理的負荷を与える可能性あり。

     感情的暴走リスクを「中」に設定。


新規log :宿題は優先度低下。

     Userの同行を必須条件として設定。


User生存ルート継続率:93% → 93%

次期提案優先度:Subject Y——サブタスクの安全な遂行管理。

焼き鳥のタレ、交換ルーチンについて提議。

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