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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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第33話 小さな旅行

トラの故郷にみんなで行く。



俺たちは馬車をレンタルし、

1週間ほどの往復旅行を計画した。



食事は外でする。小麦と調味料だけ積み込む。

水は魔法で、後は現地調達だ。



馬車は大きな2段ベッドになるように改造した。

少しでも快適になるように、みんなの疲れが取れるようにする。



トラの村は「ガザニア村」という。知っているか聞いてみたが

聞いたことが無いという。田舎とはそういうものなのだろうか。



初めての馬車の旅にみんながそわそわしていた。

アマンは馬に驚き、やさしく撫でている。



「そう。純粋な子ね」レナはうっとりと馬の瞳を眺めていた。

辺りに甘美な雰囲気が漂っている。



「レナ。みんなの服も詰め込むから手伝ってくれ」



「はーい。旅行なんて、ほんと楽しみだよー」



彼女の笑顔を朝日が輝かせた。

俺たちは準備をすすめる。





市街地から出て二日目、道が進むごとに

「ここ、知ってるー」とトラが連呼する。



レナとヨルカは

そんな彼を見つめ、微笑み合った。



「自分の村の名前も知らなかったくせに」

サリーが笑った。俺は噴き出した。



「ねー、村が見えて来た。」

アマンが御者席から顔を出す。



エヴェラ:あれが、トラの村に一番近い……人間の村ね。



村には戦闘の被害が生々しく残っていた。

数か月前に焼け崩れた家々が、そのままにされていた。



「ガザニア村を知っているか?」

俺は、果物を売ってくれた商人に話しかける。



先ほどまでにこやかに話していた男の顔が曇る。

「なんだあんたら奴隷商人か?」



「なんでだよ」俺は、子どもの故郷を探していることを話した。

エヴェラにはいちいち話さなくてよいと叱られたが。



俺がそう言うと、この村は、ライカンスロープの村と友好的で、

怪しい奴は捕まえているらしい。俺はトラを紹介した。



彼はトラを見て驚きながら、村の場所を教えてくれた。

「気を付けて」と言葉を残して。アマンが手を振っていた。



今でも、奴隷にしようとしている奴がいる。意味が解らない。

そもそも彼らはステータスが高く、なぜ奴隷に甘んじるのか?



エヴェラ:ヨルカの資料によれば、個人の戦闘能力は高いが、純粋で搦め手に弱く、騙されて、合法的に債務をつけられている者も多いみたいだね。



——————ヨルカから届いた情報。

ガザニア村の村人は奴隷ではなく、村で狩猟生活をしていた。

そこに、教会の神父フランク・ヨナサスが布教のため赴任する。

村人とも関係がよく、平和に暮らしていたが、魔王軍との戦況が悪化。

全世界の半分が絶望的な状況になる中で、村人たちを説得し、ライカンスロープの復権と救世をかかげ、軍に参加した。軍は彼らの希望通り、最前線におくる。

結果は、先導した神父フランクを含め全員死亡。



俺   :これレナに話すとき、教会のことは触れないほうがいいよな?



エヴェラ:そうね。あの子はきちんと受け止められるとは思うけど、今はね。



「あー、村だー」



ガザニア村が見えて、トラが馬車から飛び降りて、走り出す。

馬車の速度を大きく超えて走っていった。



「アイツ、早すぎだろ」



俺たちは嬉しそうに駆けるトラを見つめ笑った。



村には何人かのお年寄りがいるようだ。

トラがその一人に話しかける。



「おお、ゲンジー!」



「トラ、なのか?」



ゲンジーと呼ばれた老人がトラの匂いを嗅ぎに来る。

「ふんふん」とトラのおしりのあたりを嗅ぐ老人の絵がやばい。



「トラか。よくぞ、生きて」おしりの匂いで確定したらしい。

いつのまにか、銀髪の老人たちが集まって来た。



その夜。小さな歓迎会が開かれた。

村長を含め、ほとんどの村人が参加した。



残っているのは、けが人や高齢者。

おさない子供だった。



用意してくれた料理をアマンが熱心にメモしている。

このあたりは辛くて赤い料理が多いようだ。



サリーとレナはおしりを嗅がれそうになるのを阻止している。

俺はゲンジーにライカンスロープの変身について聞いてみた。



「変身には何か必要なのか?」



「んー、わからんのう」



そういうとゲンジーは、全身から銀色毛があふれ、可愛らしい子犬のようになった。目を輝かせたレナに捕獲され、顎を撫でられいる。



「ふんっ。て力を入れると、こうやって変身できるんじゃ」



俺は全く参考にならないゲンジーの説明が、トラに似てることに納得していた。トラは隣で「ふんっ、ふんっ」と顔を赤くしている。



ゲンジーはトラを眺め、目を細める。



「お前の両親は、最後には、ちゃんとお前を守ったんじゃな」



神父に率いられ、戦場に向かった彼ら。ライカンスロープの地位向上というスローガンを掲げて、魔王軍と戦った大人たちを思い出しているのだろう。



子を持つ親の中には、幼い子供も戦場に連れてったものも多いという。

トラの両親は彼を守った。——俺もそう信じたい。



トラは両親の話を楽しそうに聞いていた。

「もっと、もっと教えて」両親が幼かった頃からの話をゲンジーにねだっていた。



二人の生き方。考え方を聞いて、うんうんと聞いていくトラ。

俺たちも聞きながら、ライカンスロープの人となりを考えていく。



————信じやすく、純粋で、やさしい。

ライカンスロープたちは、何年もそうやって搾取されてきた。それが強いのに搾取される秘密なのかもしれない。



俺たちは村の伝統料理を楽しみながら、

村での滞在とトラの笑顔を堪能した。



ヨルカはその光景を黙って観察していた。





トラの家だった場所にいった。

1年ほど、誰も住まず。破れた窓からの風で荒らされている。



トラが「ここで寝る」というので、みんなで泊まった。



暗闇の中。

馬車から下した布団の中で、トラの話をみんなで聞いた。



父親が変身した時のかっこよさ。

隣に住んでいた男の子。……彼も戦場に行ったらしい。



友達だった犬。

母親が作る辛い料理。



幼いころの約束。

王都で必死に探したすべて。



その全てが。―—もう無い。

トラの声が泣き声に変わる。



探してたものが、「無い」と分かったトラに

俺たちはどう声をかけたらいいのかな。



「トラ。この街で暮らすか? ここなら監視もされないだろうしな」



エヴェラ:それは甘いでしょうね。王都よりはマシでしょうけど。



子どもたちは黙っている。

トラは、だが、はっきりと答えた。



「天使の台所。帰りてーよ」



「……そうか」



ガサガサと音がしてくる。



「おいヨルカ、頭撫でるな、子供じゃねーんだぞ」



トラが鼻声で、抗議の声を上げる。



闇の中、大きなヨルカがトラを撫でているようだ。

————きっと、愛おしそうな、顔で。



「いいぞ、もっとやれ」



いつの間にか、暗闇でのくすぐり対決に発展し、

トラの故郷での夜が更けていった。



起きたら……俺たちの店に帰ろう。





ゲンジーや村人たちに別れを告げる。

店の場所を地図に残し、再会を誓った。



アマンはこの村の特産の

まっ赤な香辛料をもらっている。



レナとサリーは変身してくれた村人たちを

モフモフしている。これもう1時間してる。



トラはいろんな村人と話しているようだ。

「よし、帰るぞ―」俺はみんなを馬車にのせようとする。



なかなか集まらない家族を一人ひとり集めていく。

「かえるよー」ヨルカも手伝ってくれた。



帰り道の馬車の中。笑顔が溢れている。

疲れもあったが、まだ旅は続く。また楽しい野宿だ。



トラは帰り道をしっかりと眺めていた。

「道を覚えてるんだよ」今度は、帰れるように。



御者をローテーションで代わり、勉強した。

もうアマンはしっかり操れるようになった。俺だってそうだ。



レナは馬を叩けず、手綱も引けず。

「いい子ね」と優しく撫でて、お願いをしていた。



それが不思議と通じていた。

そのようすをヨルカが見て微笑む。



彼女の顔は、この旅の中で、

いつの間にかほどけていた。柔らかな目をしている。



ヨルカは静かに馬車のベッドに寝そべった。

手を伸ばして、手のひらに風を感じてみる。



動く景色。緑色と青の世界。——風。

草の影に小さな動物が跳ねる。



「わあ……」



彼女の口から声が漏れる。

透明な水色だった。



俺は彼女の顔に小さなヨルカの面影を見つける。

彼女はずっと、そこにいたんだ。





ヨルカは、昨日までの日々を思い出していた。



不快な出来事は、不快なだけでなく、家族の価値をより高めた。

————彼女は、そう分析する。



もう、彼女は何も怖くなかった。

このような仕組みでできている世界が、美しいと思えた。



ヨルカはエヴェラに圧縮言語で宿題の回答を渡し、

ユウトには彼がわかるように回答を言語化してメッセージで送る。



「生まれてきて、よかった。ありがとう、お兄ちゃん」

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