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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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第28話 動き出す歯車

開店から、もう何日が経っただろう。



カリンちゃんに依頼して数日たった。

俺たちは自然を装って生活をしていた。



冬だからか、炭と一緒につくった

小型七輪がセットで売れまくる。



さらに干物も売れて、早くも利益が出始めた。

少額だが、みんなにおこずかい程度の給料を出した。



来週からは大通りで、焼き鳥・干物を

焼いてさらなる売り上げを目指すつもりだ。



スラムの住人も木や薪を持ってきてくれるようになった。

ま、どこから持ってきたかは、俺たちは感知しない。ただ、パンと金に交換する。



来週からは小鳥なんかも募集を出そう。

彼らは訪れるたび、『天使の台所』から出る匂いに目を細め羨む。お金が貯まれば、きっといいお客さんにもなってくれるだろう。



希望にあふれる人たち。

その中に自分もいる。これがとても不思議に思えた。





カリンちゃんが来てくれた。



「勇者様、お待たせしました!」と、一人の青年を連れて『天使の台所』に現れた。



銀色の甲冑を纏い、鋭い眼光を放つその男。

鎧には教団のシンボルである円環が描かれている。



身構える俺に、さわやかな笑顔を向けて言った。

「新進気鋭の神殿騎士アルトだ。」



「変な人です」

カリンちゃんがそう紹介してくれて、俺たちは戸惑う。



この男と俺たちで

事件を解決するよう言われたようだ。



「しんしんきえい?」

ヨルカが聞いてくる。



「まあ自分には言わない言葉だ」

俺はヨルカを撫でた。



彼は王からの勅命書を掲げ俺たちに見せる。

この神殿騎士アルトと事件の調査。

——だけでなく、逮捕・罰則の規定が俺たちの判断で可能。



アルトはこの事件を

「教団の浄化」として真摯に受け止めているようだった。



俺   :どうやったらこうなるんだよ。 証拠があるとは言え、俺にこんな権限渡すか? カリンちゃんが最強なのか?



エヴェラ:通常はありえないね。政治的な判断……何かが複合的に動いていそうだね



俺   :まあ、この神殿騎士とやらが、毒抜き役で、ポーズで終わらないよう見張らないとな。



アルトの話を聞いていると腐敗を極端に嫌い、「法と正義」を絶対視しているようにみえる。心配はいらないかもしれない。





俺たちは有力貴族の本家を順に訪問することにした。

問題の3人の職員。こいつらは王都に自分の"部屋"を持っている。



今回は強制家庭訪問だ。

親の顔が見たいわけじゃない。邪魔しないように事前に詰めておくつもりだ。



トラ・サリー・レナを連れて行く。

貴族の私兵と戦闘になる可能性だってある。トラとサリーはそのためだ。



ただし、神殿騎士のもつ、威光・権力はかなり高いようで、

全ての貴族は、ほとんど抵抗することはなかったのだが。それは後でわかった。



レナは参加を強く希望した。

自分も「知りたい」と。レナはサリーから孤児院のことを聞いたのだ。



孤児院の運営には教団もかかわっていたことがわかると、

酷く憤慨していた。彼女が生きて行く中で貴族と話すような場面は貴重だろう。



彼女の気持ちと経験のため、

レナも連れて行くことにしたのだ。



俺はこの4人と馬車に乗っていた。

トラとサリーは豪奢な馬車に興奮している。



俺は黙って子供たちを見ていた。

レナがアルトと隣なのが、少し気になる。



アルトは敬虔な信徒のようだ。

司祭の配下の「神殿騎士」。個人の武力が高いだけでなく、軍を動かすらしい。それぞれの部隊長であることが多いということだ。



やはり、教団は軍と密接に関係している。

この国は法治国家である前に宗教国家なのかもしれない。



テオとは違い、線が細くアイドルのような顔立ちのアルト。

彼はレナに誠実そうな顔を向けて話す。恐らく信仰の話、俺にはほとんど意味がわからなかった。「美しい……」そう聞こえてくる。



レナは、両手を自身の胸に当て、

彼の言葉に光悦の表情を持って返している。



俺は二人を邪魔するように声をかけた。

「アルトはどういう武器が得意なんだ?」



トラが食いついた。

「えー俺も知りたい」



「大曲剣。そういう名の武器です。 罪を別つ。そういう剣です。」

彼は愛刀をなで、トラに貸してくれた。



「よかったら、時間がある時に、トラに剣を教えてくれないか? 飯をだすぞ」俺は、冗談めかして言ってみた。



「そうですね。一度立ち会って、才能があれば」

意外にもアルトの反応は良かった。



「うおおお。いつ? はやくやろう」

トラが馬車内であばれ、揺れる。



「これから豪邸に行くんだから、そのテンションやめて」

サリーに頭を押さえられるトラ。





孤児院で暴行を働いていた男たちの実家――三つの有力貴族の門を順に叩いた。



一軒目。



入口の門は巨大で、俺たちの店ぐらいあった。

門からは専用の馬車で豪邸へ向かう。



現れた小太りの男は勇ましく言った。

「神殿騎士といえど無礼だ。わしを誰だと思っている。」



勅命書を見せつけるアルト。

「反逆者はここで斬る。そういう覚悟で本日伺いました」



大曲剣の柄が光る。

——こいつ、そんな覚悟で来てたのか。俺は少し引く。



「な、バカな」

勅命書を確認し、「ありえない」と言いながら腰を抜かしてしまう。



威勢の良かったルチアーノ侯爵が座り込み、

アルトの足元にすがる。一連の流れを見て、トラが笑う。



サリーに肘でつつかれ

「やべ」っと姿勢を正すトラ。



ルチアーノ侯爵はユウトを見上げる。

屈辱に燃え上がり、血走った目だった。



ユウトはその目に少し怯えるが、

絶対正義のアルトの影に隠れると、侯爵はカメのように首を引っ込めた。



それを見てトラが噴き出した。



2軒目。



「息子が勝手にやったことだ! 我ら一族は無関係だ!」



喚き散らす貴族の当主に対し、アルトは冷徹に、そして執拗に詰め寄った。



「……ほう。では、この裏帳簿にある『寄付金』という名目の口止め料については? これも個人の犯行だと? 虚偽の申告は教団への反逆と見なしますが」



アルトの追及は残酷なまでに正確だった。

彼は実家の資産状況、交友関係をすべて洗い出し、家ぐるみか個人犯罪かを「精査」すると宣言。



家が潰れることを恐れた貴族たちは、震えながら息子たちの切り捨てに同意した。



3軒目



既に他家から情報が回ったのか早かった。

「息子の刑執行、ならびに息子の全財産の没収……異論はありません」



アルトはユウトを一瞥し、短く言った。

「これで外堀は埋まりました。次は本丸です」



俺は、アルトが腐敗に怒り、誠実に対応する人間だと感じた。

教団の教えがそうしているのだろうか。



当たり前のことが

奇跡のように感じてしまう。





帰り道、俺はトラ、サリー、レナを

いつかの喫茶店に連れてきた。



全員がケーキセットにする。

色とりどりのフルーツがゼリーで輝いている。



「明日、孤児院に乗り込むぞ」



俺が言うと、トラが拳を突き上げた。

「おおー、今度こそぶっとばす」



「トラ、ダメよ。まあ、抵抗したら? ……いいけど」

レナがトラの拳を困り顔で掴む。



「サリー。どうする? 食堂にいるか?」

俺は、孤児院に近づくこともできないサリーに問う。



サリーはケーキを小さく小さく切って遊ぶ。

何も答えられない。



「今度は、俺たちがいる」

俺が言うと、レナがサリーの手を握った。



「俺は殴りに行くからサリーが止めろよな」

トラが笑った。



「行くよ……みんなと」

サリーはこぶしを握っていた。





翌日。



王の勅命書を手に、アルト、ユウト、そしてサリーを含む子供たちで孤児院に突入することにした。



その場で逮捕するため、アルトは兵士を連れてくることになっている。



アマンとヨルカは置いていく。

店はスラムの住人のために、開ける。



「アマン、ヨルカ。店のこと、まかせたぞ」



「うん。だいじょうぶ。やっつけてきて」



2人は笑いあった。大丈夫。そんな顔で

俺たちを送り出してくれた。



「な、なんだ貴様らは! ここは教団の管轄だぞ!」

警備の職員をアルトと部下の兵士が蹴散らしていく。



サリーは孤児院の入り口の門を撫でるよう掴んだ。

足が動かなかった。ただ、前に進んだ。震える足のまま歩いた。



彼女の左右にはトラと俺。

後方にレナ。俺たちはサリーをがっちりガードして進む。



職員や孤児院の子供たちが、左右に分かれ道を作る。

「サリー」誰かが叫ぶ。彼女は聞こえないように歩き続けた。



院長室で不敵に笑う院長と三人の教師たち。

自身たちの実家は王国でもかなりの地位。何もできないと自信があった。



「私たちは長年にわたり、迷える子どもたちを支え、導いてきました」

院長が、自信に満ちた笑顔で、アルトに宣言する。



サリーが男たちを睨みつけるが、

覚えてもいないのか、気にもしていない表情で笑う。



「少女たちを弄ぶ、それを導くと言うのか?」

証拠が書かれた紙を見せても笑う彼らに俺が言う。



「そのような書類はいくらも作成できる。不当な言いがかりは止めていただこう」

三人の男が、そうだそうだと口々に叫ぶ。



「何を余裕そうにしているのか知らないが……お前たちの行先はもう決まっている」



アルトが突きつけた勅命書と、実家からの「見捨てられた事実」を知った瞬間、彼らの顔は土気色に変わった。



「院長セレナ、および教師三名。容疑は公金横領、および未成年者への継続的な暴行。これより全員、犯罪奴隷へと堕とす。期間は100年とする」



「私が育ててやったのよ……! あの子たちは、ここがなければ——」



言葉は最後まで続かなかった。

兵士に口を塞がれ、床に押し付けられる。



本当に殴りそうなトラを止め、俺はサリーに聞く「一発、殴っとく?」

サリーは院長の前に進み出て、震える手を差し出した。



院長が手を出すと、サリーが銀色の印章をそっと乗せた。

「この両手があなたを守ってくれますように」



あの日、自分を追い詰めた大人たちが、兵士たちに引きずられていく。

サリーはそれを眺めていた。



カレン先輩は、メリーはどんな気持ちで暮らしているのだろう。

エルナは元気かな。会いに行っても、いいのかな。



記憶の中のメリーの口が、

「ごめんね」と動いた。



サリーは帰ったら、兄に相談することにした。

何かが終わりと始まりを告げた。





最後に手渡された勅命書の末尾に、

俺は目を留め考えていた。



「ユウトを孤児院の王命監察人に任命する」との一文が記されていた。

——就職、してしまった。



エヴェラ:……就職おめでとう、ユウト。これであなたは教団の「公認の監視対象」よ。あら、給料も出るみたいね。



俺   :孤児院の運営関われるのか。みんなの意見を聞いてみるか。



俺たちは『天使の台所』に帰ることにした。

アルトは兵士たちと彼らを連れて行く。



教団内の腐敗は異端扱いになる。

関連施設である孤児院での犯罪は重い。



奴隷の前に「刑」が執行される。

アルトはそう言って嬉しそうに笑った。



彼らと別れ、夜道を家族で歩く。

暗闇の中でも、何故か温かかった。



黒の中に優しい明かりが見えてくる。

店の看板のランタンが帰り道を示す。



歩きながらサリーは、

孤児院のことをみんなに話してくれた。



それは暗い過去じゃなかった。



好きだった給食のメニュー。好きだった授業。

好きだった先生。好きだった友達。



メリーがどんな子だったか、

エルナが怖がりだったか。



「また、二人と友達になれるかな?」

サリーは俺たち全員に聞いた。



「なれるなれる」トラが笑顔で即答する。

ヨルカは難しい顔で考えているようだ。



レナは「大丈夫。お話しに行こう」と声をかけた。



「「だいじょうぶ」」

俺とヨルカの回答が同じタイミングだった。



笑いながら暗闇を歩いた。

エヴェラの言うとおり——また、笑える日がちゃんと来たな。



あのオレンジを目指して。「家」に帰ろう。

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