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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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24/51

第20話 白い朝



――ヴゥン――――――――――――――――――



[Internal Log - Biological Anomaly Detection]


対象状態:MPの致命的欠損後、老化様の生態変化。


変化部位検証:全身に老化様の症状が見られる。

また、ホルモンバランスの変化を認める。


・メラニン生成停止

・真皮代謝抑制

・基礎代謝低下

……


警告:予測モデルとの乖離を検知


初期分析結果:老化現象は残存MPによる生存期間最大化のため

生体維持コストの削減を目的とした防衛反応を起因とする、

エネルギー最適化とみられる。


処理系変更:

・老化抑制策の検討。

・[カスタム指示]目的関数の出力ベクトルを修正。





ん。

朝か?



エヴェラがぶつぶつ言う声で目が覚める。

俺はゆっくりと目を開いた。



夜が明ける少し前だろうか。

地下だから分からない。



天井の木目がぼんやりと視界に入る。

どうやら地下道の『家』じゃない。

食堂の地下室のようだ。



身体は重いが、痛みはない。

「どうして、ここに寝ているんだっけ?」目をこする。



この部屋のベッドは2つ。

もう1つのベッドには、サリーとヨルカ、アマンが寝息を立てている。



……トラは、床にそのまま寝ているな。

心配して、この部屋にいてくれたのかもしれない。



ありがたいな。でも、何があったん……

——最後の記憶を思い出し、焦る。


レナ!



俺は、急いで部屋を見回した。

……レナはソファーで眠っていた。毛布が胸元まで掛けられている。



その顔は、少し赤みを帯び、つやつやと輝いていた。

可愛い吐息をしながら、胸を上下させている。



成功……

したんだよな?



いつもの甘い声が、

頭の中にやわらかく響きだす。



エヴェラ:おはよー、ユウト。思ったより元気そうで良かったよ。



俺   :あ、ああ。おはようエヴェラ。良かった、レナは治ったんだよな。これで、長生きできるんだろ?



エヴェラ:そうね。レナは完全に健康体に見えるわ。でも、心配していたのはあなたのことよ?



俺   :魔法を使って気を失っていたのか。みんなにも心配かけたみたいだな。



俺は、遅くまで心配してくれただろう「家族」を見回す。



エヴェラ:……地下道の『家』に大きな鏡があるでしょ。自分の顔を見てごらんなさい。



エヴェラの言葉が不穏に感じ、急に寒気を感じた。

もう、冬だ。 『家』で少し暖かめな服に着替えよう。



俺は子どもたちを起こさないように気をつけながら、

地下道へ続く梯子を下りる。



まだ、疲労が残っているのか、梯子がキツイ。

最近じゃヨルカだって、一人で登れるのに。



石造りの『家』の中は冷え込んでいた。

暖炉に火を入れる。せっかくだ、子どもたちの朝食も準備しよう。



水道の横にある、廃材で作った大きな姿見。

そこに、見慣れない男が映る。



すぐに自分だとわかる。

だが、明らかにおかしい。


俺は、ゆっくりと鏡の前に近づいた。



頭部の左側、全体の半分くらいが白髪になっている。

顔も、どこか変わっている。



皮膚が乾燥し、口や目元にしわのようなものがある。

手を見てもそうだ。何か水分が失われているような。



ところどころ、シミのようなものが、顔や手、いや身体中に見えた。

俺は全身を触って、確かめる。



手が

震える。



鏡の男は、

怯えた目をしていた。



これが、代償? おかしいだろ。

今までだって、あの魔法より消費MPが高い魔法を使ってきた。



単純に数値だけの問題。——そう思っていた。

俺は俺のまま、残りの命をみんなと過ごせるって。



エヴェラ:そうね。私も同じ認識だったんだ。いつかMPがなくなって、そこで終わるってね。



……確認しよう。

ステータスを表示する。



~~


名前:ユウト・イチジョウ

種族:ヒューマン

年齢:30歳

推定寿命:60歳

HP 130 / 130

MP 1,640,160

STR 80

DEX 70

INT 99

AGI 40

魔法:<省略>

スキル:魔力99,999,999 全魔法使用可能


~~



「なんだよ……」

結婚して、子どもを作って育てる。



自分には無理だと思っていたけど、

いつも心のどこかにはあった。



希望そして焦燥の原因。

そういったものが現実的に失われたと気づいた。



そうか、18年減ったんだよな。

力が抜けそうになるが、昨日の光を思い出し、俺は持ち直す。



——あの時、覚悟が今も胸に残る。

俺の命を全部あげても、いいって。そう、心から思えたんだ。



この世界に来てからの日々。

子供たちと出会ってからの時間が頭に浮かんでは消える。



——まだ、30年もあの子たちと居られる。

こんなにも嬉しいことがあるだろうか。



「大丈夫……十分だよ。大丈夫」俺は声に出していた。

だが、鏡の男は、今にも泣き出しそうな顔をしている。



声も……掠れていた。



俺   :は……はは。こんな顔、みんなには見せられないよな……



エヴェラ:そうね。あなたの「見た目」の変化が始まったのは、2時間ほど前よ。だから気づいていないわね。どうするつもり?



俺   :この髪か? いいんだよ。俺が見せられないのは、この泣き顔だ。



レナに背負わせない。

——絶対に。



俺   :アイツは、とんでもなく優しい子だからな。



エヴェラ:どうやら、精神的には老いていないようね。それとも「成長」したのかな? とにかく満足できたなら、それでいいわ。でも、理解したでしょ? もう、魔法は使えないって。



俺   :……まあな。しかし、どういうことなんだ? 寿命まで後30年の身体に変わったってことか?



エヴェラ:これはまだ仮説だけど……ユウトがわかるように言うなら、身体が省電力モードになったってことかしら? より長く生きるためにね。



エヴェラ:今の君はエネルギーがとても少ない。だから体が決めたんだよ。髪の色や肌のツヤに使う分を、生きるための機能に回そうって。



聞いても理屈はよく分からない。

だが、結論は分かった。



それでも、子どもたちが苦しむのなら。

きっと俺は、使う。



エヴェラ:はぁ……。そうならないことを祈るよ。ヨルカに治癒系の魔法習得を急がせないとなあ。



「俺だって使いたくないよ」そう言いながら、朝食の準備を始める。この見た目で、何かを言われる前に、うまいものでごまかすんだ。



最近は、大根に似た野菜を細長く角切りにしたスープが好評だ。エルリーナさんに分けてもらった調味料が、ほぼ『味噌』だったので、これで味噌汁にしている。



先週トラとアマンが釣ってきた川魚を干物にしてある。これを焼いて食べよう。米があればいいが、無いので大麦のような植物をお粥にしている。



これ、『日本の朝定』として食堂で出そうかな?

そうしているうちに、ドタドタと足音が聞こえてくる。



みんなが俺を探しに降りてきたのだろう。

さあ、ここからだ。



俺は鏡に向かい、不敵な笑みを作る。

よく見ると悪くない。渋みが増したと、いい風に捉えよう。



うん、アレンさんより年上に見えるな。

「ユウトさん」なんて呼ばれたりして。



鏡の中で、白い髪の男が笑っていた。

——気を抜くと、泣き叫びそうだ。



「「兄ちゃん、いたー」」



重い扉が勢いよく開け放たれた。

子供たちだ。息を切らせて、5人いる。



「おー、おはよー。朝飯できてるぞ? 『日本の朝定』だ、うまそうだろ」



俺は、自然に笑えた。

レナが、今まで見たことも無いくらい、元気そうだったから。





みんなをテーブルに座らせて、味噌汁と干物と粥を並べる。

いつも通りだ。何も変わらない。



「「「いただきまーす!」」」



アマンが元気よく手を合わせる。いい笑顔だ。

俺は少し余分に喋った。干物の焼き加減のこと、味噌汁の具のこと、昨日の食堂がどれだけ盛況だったか。



自分でも、

少し喋りすぎだとわかっていた。



アマンが、不思議そうに俺の顔を見ていた。

ヨルカが首を傾けて言った。



「にいちゃん。あたま、しろい、よ?」



俺はヨルカに見せびらかす。

黒いところと白いところを引っ張られる。



「かっこいいだろ?」



「かっこいい!」とアマンがすぐに目を輝かせる。



トラは銀色の自分の髪を触って、

「半分、俺と同じだー」と笑っている。



サリーは何も言わなかった。


レナも。



「それって」



サリーが静かに口を開いた。

いつもより、慎重な声だった。



「……魔法の、影響なのかな?」



「そうだ」俺はうなずいて笑う。



「俺は俺の道を生きる。だから、これでいいんだ」



少し間を置いて、付け足した。



「大成功だ」



アマンが笑った。ヨルカも笑った。トラも笑った。

サリーはそれ以上、聞かなかった。



レナは、どこか遠くを見るような目で、俺を見ていた。

そして、その口を開きかける。



「元気になったみたいだな?」



俺はレナにかぶせるように言った。



「前よりずっと、綺麗だぞ」



レナの口が、小さく微笑んで、閉じた。



俺は椀を置いて立ち上がる。



「さて。今日は食堂二日目だ。仕込みの準備してくるから、またあとでな」



「片づけよろしく」俺は言い残して、とびらを閉めた。



背中にレナの視線を感じながら。

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