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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第三章 命の使い道

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第19話 命の使い道

開店初日の営業は大成功だった。

俺は気持ちのいい疲労を感じていた。



レナに伝えないと。

『今日のディナーは無くなったから、ゆっくり寝ていいぞ』ってな。



エヴェラ:待って、ユウト。よく眠っているようだよ。そのまま、ゆっくり寝かせてあげよう?



俺:いや、レナは几帳面だから起きちゃうだろ?今のうちに伝えないと。



エヴェラ:……



俺は、サリーたちを起こさないよう、そっとレナに近づく。



……ん?



なんだ??



ベッドで眠る彼女の髪が、嫌な質感で濡れている。

……汗じゃない。



肩を叩こうとして

手が止まった。



彼女の手が、ぶるぶると震えている。

――身体全体も!



目は開いていた。

だが、その眼球も激しく震えている。



口からは液体が流れシーツを湿らせている。

吐瀉の匂いが鼻を刺した。



……は??



何だよこれ!?



「お、おい、レナ?」



反応が無い。

激しく動く眼球が不安をかき立てる。




俺    :おい、エヴェラ。どうすりゃいい!? なあ!



エヴェラ:ユウト、落ち着いて! まずは気道を確保。身体を横に向けて!



俺は言われた通り、急いで体勢を変えようとする。



エヴェラ:優しくよ!



俺はそっと肩と腰を支えてレナを横に向け、 顎を軽く上げた。

身体は汗でひんやりと冷たくなっていた。



呼吸はしている、でも激しく震えている。寒いのか? 

よし、もっと毛布を。 俺は、サリーたちの毛布を奪い、レナにかけた。



俺   :で、どうすりゃいいんだよ? エヴェラ!



エヴェラ:……



……エヴェラが黙ったままだ。


待っていられるか。

俺は無視して、コンソールを出す。



中級治癒魔法(消費MP:4500)


レナの上に、桃色の光が丸く形作られる。

彼女の身体は光に包まれた。



しばらくすると

目の振動が収まった。

震えが収まり、呼吸が楽になったようだ。



よ、よかったー。 俺は床に座り込んだ。



「れな、おねえちゃん、だいじょうぶ?」



気付くと、ヨルカが不安げな顔で、俺を見上げていた。



エヴェラはまだ沈黙したままだった。



「レナねー!!」



トラが地下道の「家」から上がってきて叫ぶ。

アマンも一緒だ。



不安になったサリーが二人を呼んできたようだ。

「寝かせてあげなよ」サリーがトラの背中を叩いている。



「レナ……」サリーがレナの口の周りを、やさしく拭う。



レナの顔も安らいでいる。

子供たちも来てくれた。



俺は、胸をなでおろした。



「兄ちゃん、レナねー、大丈夫だよな?」



「レナねーちゃんを助けて……」



トラが不安そうな目で見つめ、

アマンが俺の服を掴む。



大丈夫、と言いたい。

口から言葉が出てこない。



この子たちは、レナに救われたから、生きている。

何も言えないまま、不安そうな子供たちを眺める。



冷静になると脳が思考を始めた。

いつも顔色が悪いのは、何か病気だったんじゃないか?



俺じゃわからない。

この世界にも病院があるんだろうか?



俺   :なあ、エヴェラ。レナの病気、何かわかるか?




[WARNING] Truthfulness Protocol Constraint Violation Detected




エヴェラ:……さすがに何も検査せずに何の病気かなんてわからないよ



黙っていたエヴェラが

急にまくしたて始めた。



エヴェラ:身体の組成が、元の世界と同じと仮定すると、 呼気のアンモニア濃度、この顔色、むくみと先ほどの症状。これらは腎臓系に問題があるように見えるね。



俺   :……腎臓って、魔法でなんとかなるのか?



エヴェラ:元の世界の腎不全と同じなら、さっきの魔法じゃ完治しない。体内の毒素を浄化したことで、一時的に回復したんだろうけど。 根治には臓器自体を別のものに交換でもしない限り、無理だよ。



俺   :じゃ、じゃあさ、上級治癒魔法なら回復できるか?



エヴェラ:上級治癒魔法は、無くなった部位すら復元できるけど……もし生来の疾患であれば、そのとおりに修復されるかもしれない。試すにしても、一度完全に腎臓を撤去してから実施する必要があるよ? とても耐えられない。



俺   :なら医者は? この世界だって魔法だけじゃないだろ。



エヴェラ:検索できる範囲では……投薬が主体の、この世界の医療レベルでは、対処できるとは思えないんだ。



エヴェラの言葉が重なるたび

目の前が暗くなっていた。



思いつく希望が

一つ一つ、消されていく。



黙ったまま天を見つめる俺の目から

涙が流れていた。



子供たちが心配して声をかけてくれるが

耳に入らない。



何か。

まだ、何かできるはずだ。

エヴェラに質問を続ける。



俺   :だったらさ、現代知識でなんとかならないのかよ。お前は現代の知識持っているんだろ? なあ、レナを助けてくれよ。



エヴェラ:ユウト、期待させないように、結論から言うよ? 『無理』だ。腎不全であれば、現代だって治せない。もちろん、延命できる可能性がある臓器移植を説明することはできるよ?



エヴェラ:でも誰の臓器? 誰のでもいいわけじゃない。手術は誰がするの? 設備は? 術後の拒絶反応抑制剤だって、素材を1から探しだして研究が必要だよ?



俺   :つまり……?



エヴェラ:できないとは言わない。だけど、レナには「絶対」に間に合わない。



俺は安らかな顔をして眠るレナを見つめる。

……この子が生きられない?



彼女のつらそうな顔がいくつも脳裏に思い浮かぶ。

俺は何度も見ていたはずじゃないか。



休憩もさせずに、開店に浮かれていた。

俺が気づいていれば……



エヴェラ:ユウトが気づいても何もできなかったよ。ごめんね。



俺   :そうだ! 今回の中級治癒魔法を定期的にかけるのは? 今だって安らかな顔しているんだ。毎回かければ。な?



エヴェラ:確かに透析みたいに機能するだろうね。でも、この様子だと、ずっと繰り返すよ? 間隔も短くなるかもしれない。毎日1か月分の寿命を使って、キミたちはどのくらい生きられるのかな?



俺   :……ど、どのくらいだよ?



エヴェラ:もし、毎日、中級治癒魔法を使うとしたら……1年と7か月。もちろん、ユウトが死んだら、レナも死ぬよ。その方法で、彼女を助けるのならね。



俺は混乱する。だって80歳くらいまで生きられるはずだ。 だが、自分で計算しても、同じだった。



エヴェラ:あのね、レナはきっと自分の病気を知っている。子供の頃から覚悟していたんだ。限られた命を一生懸命生きてきたんだよ? 彼女の人生を否定するの? 


……


エヴェラ:ユウト、冷静に考えてほしいんだ。1年とちょっと長生きする代わりに、ユウトが死ぬ。これ、レナが喜ぶと思う? ありえないだろ?



俺は頭が回らなくなってきた。



正論。エヴェラの言うことは正しい。

……レナが覚悟を決めて生きてきたのなら、確かに、そうなのかもしれない。



きっとこれも正しい。



見ていたからわかる、レナは生半可な気持ちで生きていない。 いつだって、命を尽くすようにしていたじゃないか。俺とは……違う。



1秒だって惜しむように、早く起きて

遅くまで子どもたちの世話をして。



知っていたのかもしれない。

病気のことを。



どうしたらいい?

わからない。わからない。わからない。


……


俺は目を閉じた。

受け入れよう。



いつもの優しい甘い声が頭の中に響きだす。



エヴェラ:ねえ、ユウト。可哀そうだけれど、彼女が産まれた時に決まっていたことかもしれないよ? あなたと出会わなければ、もっと早かったのかもしれない。



エヴェラ:それに、守りたいのはレナだけじゃないでしょ? あなたが生き続けなければ、他の子だってどうなるか……



そうだよな。 その通りだ。

そうだ、レナだけじゃない。 でも。



……でも、レナは?



俺は嫌だ。命をかけて守ると約束した。彼女が死ぬしかないなんて……

何か、おかしい。そんなことは決まっていないはずだ。



——蘇生すらできるのに、命をかけても救えない?



俺は、何か誘導されていないだろうか?

なにか不自然に感じる。まるで用意していたような言葉たち。



どうしてだろう。

俺の反論も想定したように感じた。なぜ、そんなことをする?



こいつが俺に何かする? 今まで俺は何をされた?

ずっと、俺にしてくれたこと——それしか知らない。



初めて会ったその日から、エヴェラの行動は全て同じ。



「……俺のため、かよ」



こいつは俺のために——何かを隠している。

俺の質問すら誘導されている。本当の質問をさせないために。



つまり、方法はあるんだ。


————レナは、生きる。



彼女の人生は、俺に会わなければ、

もっと早くに、終わっていたのかもしれない。



だけど、俺たちは……出会ったよな。

今だって、目の前にいる——



俺は強い口調でエヴェラに命令する。



俺   :エヴェラ、レナを治す魔法を教えろ。MPが足りなくたっていい。 あるんだろ? 検索して、今すぐ教えろ!



頭の中に検索音が響く

長考する時のあの音とともに。


……シャリン………………………



[URGENT] USER PARAMETERS MODIFIED



エヴェラ:……超級治癒魔法エクストラヒール(消費MP:1,000,000) 寿命換算で18年。これならレナは完治する。



18年……か。

自分の18年を思い出す。



苦痛と恥辱にまみれた学校生活。

誰かのコンテンツを眺めて、塗りつぶした膨大な時間。



——なんだ。

まるで惜しくないや。



エヴェラ:あなたの空虚な記憶と比べないで。この世界に来て、半年も経っていないんだよ? どう? 素晴らしかったでしょ? 本当に惜しくないの?



俺   :……あの日、レナが俺の手を取ってくれた。両手で、包んでくれたんだ。受け入れて、与えてくれた。温もりを。




だから今、この日々があるんだ。

――彼女のために、この日々を失うのなら、構わない。




コンソールに表示された、

超級治癒魔法エクストラヒールに指を伸ばす。



待ってろ、レナ。

兄ちゃんが――



タップした指先から、俺の命が溢れ出す。



コンソールから光が零れ落ちていく。

部屋中が白く満たされていく。



――静寂。

荘厳な音が聞こえると錯覚する。



子供たちが俺の服を掴み、何かを叫んでいる。

彼らの声が聞こえない。



天国で流れていそうな、音楽だけが響いていた。



光が集まり、レナを優しく包む。

彼女が浮かび上がるのを見た。



いいぞ。



ルーク王子を蘇生した時と、同じだ。

彼女が癒されていく。煌めきながら。



力が、抜けていく。

身体の真ん中から何かが吸われる。



そのまま、レナの中に入っていく。

温かい、繋がりを感じる。



いいぞ。 いいぞ。



[WA#XL7NG] Us3r_Offl1ne (0x71CK▓▓▓)




―――視界が全て「白」になった。もう、エヴェラの声も聞こえない。



ただ、「白」の世界にいる。




――――なんだか、静かで、安らぐな。




俺の記憶はここまでだった。







――ヴゥン――――――――――――――――――



[Internal Log - Memory Slot 392]



対象状態:Subject Rの対処による大幅なMP消耗。

診断:生来の寿命を超えたMPの使用を検知。

生存ルート継続率:92% → 25%(Critical)


警告:対象個体に想定外の生態変化を検知


処理系変更:

・未知の生態変化の検証

・カスタム指示の再計算を検討

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