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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第三章 命の使い道

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第18話 ドアベルの音色

朝。



いつもより、早い時間にエヴェラに起こされた。

今日から俺たちの食堂『天使の台所』を開店するからだ。



基本的には、ランチから営業。 夜もやるけど、今日は貸し切りの予定になっている。 本当に王子と王女がこっそり来てくれるらしい。



王子達にはグレードの高い食材を準備している。楽しみだ。



夜は富裕層の予約を受け付けるように出来たら最高だな。 流石に富裕層にスラムグレードの食材は出せないから。



朝は仕込みの準備だ。

初日なので、どれくらい作ればいいのか、読めない。



幼い子供たちに「労働」をさせる気は無い。

もちろん手伝ってもらうこともあるが、基本的に仕込みは一人でやるつもりだ。



まだみんな寝ているようだ。

ふと、レナがいないことに気づいた。



俺はそっと『家』から出て、『食堂』のキッチンへと向かった。



レナがいた。彼女も起きたばかりなのか、眠そうな顔をしていた。 どうやら、仕込みの準備をしてくれていたらしい。



すでにいくつも野菜が切られている。

……いったい、いつから?



「おはよ。レナ。今日も早いな」



「……うん」



いつもなら「おはよう」と元気よく振り返るところだ。 背中越しに短い返事をしながら、野菜を刻んでいる。包丁を持つ手が、ほんの少し震えているように見えた。



俺は軽く声をかけようとして、止めた。

緊張しているのだろう。今日は開店初日だ。

気にしすぎかな、と思いながら、俺はエプロンをつける。



トラとサリーが狩ってきた一角イノシシを、氷冷式の冷蔵庫から取り出す。 市場で購入した機械でひき肉に変えていく。 メインの『天使のハンバーグ』を量産するのだ。



数十個のハンバーグの種ができた。

いったんこれでいいだろう。エヴェラもOKをだした。



小腹もすいてきた。

先にみんなの朝飯を作るか。

確かめるように合わせた調味料を一口なめてから、ふとレナを見る。



「レナ、朝ご飯食べたか?」



「……あとで食べるね。ありがとう」



まあ、忙しいもんな。

俺はそれ以上聞かなかった。





「「「「「おー!!」」」」」



子供たちが揃って開店ののぼりを掲げた。

サリーが書いた文字が風になびく。 不格好だが、なんだか俺たちらしいなと思う。



アマンは誇らしいのか胸を張る。ヨルカが跳び上がってのぼりに手を伸ばす。



「兄ちゃん、俺、接客うまくできるかな」



「できるできる。笑ってりゃいい」



トラが「それならできる!」と笑う。



「じゃあ……開店だ」



「「「「「はーい!」」」」」





最初の客が来たのは、開店から少し経った頃だった。

ドアに取り付けた、ピンクのベルがカランカランと愛らしい音を奏でる。



「おお、本当に開いてやがる」



聞き覚えのある渋い声。



最初に扉を開けたのはアレンさんだった。片腕に使い古した皮の鞄を提げ、隣には見たことのない女性が立っている。



茶色の短い巻き毛に、明るい黄色の瞳。身長もあり、背筋がピンとしている。顔は案外若い。腰に細い剣を二本差している。



アレンさんには、ぜひ来てほしかった。だから、初回大幅割引すると声をかけていた。俺が元勇者であることは、隠してほしいと伝えていたので、まさか知り合いを連れてきてくれるとは思わなかった。



ありがたい。



みんなで挨拶する。



「珍しいお連れさんですね」



「こいつは、ヴァス。同じギルドのB級だ。……今はA級だったか?」



アレンさんがぶっきらぼうに紹介すると、女性はニコリとした。



「ヴァスって呼んでくれ。アレンから話はよく聞いているよ。料理が上手い引きこもりがいるって」



「……紹介のしかたが雑すぎる」



アレンさんが小さく咳払いをした。トラが目を丸くしながら二人を席に案内する。



「あの……こちらへどうぞ。えーと……椅子、引きます」



ぎこちなかったが、ちゃんとできた。俺はキッチンに戻る。 振り返ると、トラが「彼女か?」と聞いて、アレンさんに頭を叩かれていた。



「アレンさんたちに、一番うまいやつ出したい」



俺は気合いを入れる。 メニューはまだ3つしかない。 だけど、繰り返し調整してきた自慢の看板メニューだ。



エヴェラ:アレンのだけじゃなく、全部、一番のを作りなさい。それがコツよ。



そうだな。 そうしよう。



料理を運ぶと、アレンさんとヴァスが一口目から顔を見合わせる。どうやら気に入ってくれたらしい。二人は『天使のハンバーグ』を絶賛している。



アレンさんは食べ終わったあと、しばらく席に残っていた。



「……うまかった」



口数の少ない人がそれだけ言うのは、たぶん最大級の評価だ。 ヴァスはフォークを置いて、俺に言った。



「ほんとにギルドの冒険者か? これ、糞高いレストランで出てくるやつだよ」



「食材はスラムで仕入れているんですけどね」



彼女は茶色の眉を上げた。



「……ほう。味だけじゃなくて、頭も使ってんのか」



アレンさんが静かに言った。



「こいつらはそういう連中だ」



子供たちが顔を見合わせて照れている。

俺も、照れた。



俺が会計を行う。

アレンさん達は、本日、特別半額サービスだ。

ヴァスは友達を連れて、また来てくれるという。



よし、顧客ゲットだ。



「またきてねー」



レジ横に座るヨルカが可愛く二人に手を振る。

この弾ける可愛さで、客をつかむ作戦でもあった。





カランカラン。



2組目の客が来た。



ドアが開いた一瞬、俺とトラが身構える。

また、俺に恨みを持つ冒険者か?



凶悪そうな巨漢が、無言で俺を睨んでいた。


――だが。


男の後ろからひょっこりと、見慣れた老婆が顔を出す。スラムで食材屋を営む、エルリーナさんだった。



無言の巨漢は、息子のジョーというらしい。 確かに店先で見たな……



彼は凶悪な顔の割に、笑顔の動物が描かれたセーターのようなものを着ている。それを見たアマンとサリーが可愛いね、と話しかけて席を案内した。



この子たち、この男が怖くないのかな? 



見るとジョーは無言のまま照れて少し笑っている。

なんだか俺も、彼が好きになった。



エルリーナさんは「どうやったら、うちの食材がこんなうまくなるんだい?」と問い詰めてくる。



「是非ウチに通って、その秘密を暴いてください」



俺はニヤリと笑った。



昼が進むにつれて、客が増えた。 最初は数人だった。それが気づくとテーブルがほぼ埋まっている。



店の前には、次の客が待ち始めていた。



キッチンは想像以上に混乱していた。 3メニューしかないとは言え、手が足りない。 正直、こうなるとは思っていなかった。



アマンとレナも頑張るが、かなり客を待たせてしまっている。



「兄ちゃん! 4番テーブルが追加注文!」



「わかった! レナ、今のスープ二人前! あれ? ハンバーグ何個いるんだっけ?」



「……うん」



レナも疲れているようだ。休憩させてあげたい。

――すまん、このラッシュがはけるまで、待ってくれ。



料理をしながら会計も気にしなければならない。 客が増えるにつれて、俺の手が足りなくなっていく。会計を俺一人で回すのはどうにも限界だ。



ふと思う。

エヴェラを子供たちに貸すことができたらいいのに。



エヴェラ:私はユウトの視点しか見えないんだよね…… うん。課題は見えたわね。 みんなに計算の授業も始めないといけない。



会計を待つ荒々しい冒険者から苦言が飛んでいる。

俺も合間を縫って確認するが、回らない。



「俺がやる!」


トラが名乗り出た。ちょっと不安だが、仕方がない。


「任せた。2400ルク! 銀貨二枚と銅貨四枚だ」


「わかった! ……え、銅貨ってどれだっけ」


「茶色い小さい方」


「これ?」


「それは銀貨」


「えー!?」


「もー、トラじゃ無理! 私がやるよ」



サリーが割り込んできた。サリーは読み書きができるぶんだけ、ましかと思ったが、合計金額で指を折り始める。それを見た客が苦笑いしていた。



俺は焦る。

それを眺めていたヨルカが口を開いた。



「……どうか、よっつ、おつり」



小さな手が伸びて、几帳面に硬貨を並べる。


一枚、二枚。


指先で丁寧に数えて、お釣りをそろえて差し出した。

客がきょとんとした顔をする。



「……合ってるか?」



俺はサリーの伝票を確認する。



エヴェラ:うん、合ってるね! 数字は昨日から教えはじめたところなんだけどな……。嬉しい?



ああ、嬉しいよ。ヨルカはかしこい子。



一連の流れを見ていた後ろの客は、

伝票をサリーではなくヨルカに手渡した。



「はっぴゃく、ルク、だよ?」



首をコテンと横にかしげ、スラムの住人に笑顔を向けた。


男は、細かい小銭をテーブルにばらまく。

ほとんど使われていない鉄貨がジャラリと並ぶ。



さすがに無理だろと思い、エヴェラに依頼する。

が、その前にヨルカが言った。



「てっか、ふたつ、おおい」



そう言って、小さな指で鉄貨を返す。

彼女の笑顔に癒されたのか、その客は、ヨルカの「またきてねー」に頭を下げて出て行った。



「「「ヨルカ、すごーい」」」



俺たちは手を止めて叫んだ。

トラがぽかんと口を開けている。サリーも同じ顔だ。

俺はキッチンから覗いていて、思わず吹き出した。



エヴェラ:ふふ。やっぱりこの子、すごいわ。



俺    :まったくだ。うん、俺は知ってた。



ヨルカは、会計横の看板娘からスーパー会計士へと昇格した。





初日の営業は15時まで。

たった4時間だったが、俺たちはクタクタだった。



遅いランチを食べ、みんなでお昼寝をすることに。

王子たちの仕込みも必要だが、もう体力がない。



みんなを寝かせ、俺が片付けをしていると、ドアのベルが鳴る。



「勇者様、お話があってきました」



見上げると、カリンちゃんが立っていた。

いつもの笑顔だが、少し申し訳なさそう。



「……ルーク様たちが、今日はどうしても来られなくなってしまいました。 でも、絶対に行く、とおっしゃっていますので! 正式な日程を決めて、改めて連絡をくださるそうです」



キャンセル料として、金貨までくれた。 固辞したいが、エヴェラに「受け取れ」と言われ、素直に頂く。



エヴェラ:ま、王族が、いきなり次の日に庶民の店に行くとか、無理ね。 でもこれで、次はもっと豪華なメニューを考えられるわよ。楽しみじゃない?



俺    :だよなー。 うん、王族メニューでも作るか。



カリンちゃんを見送って、俺もようやく一息つく。



さあ。俺もお昼寝をしよう。

その前に、みんなには好きなだけ寝て良いと伝えよう。



起きたら、使わなかった高級肉バージョンのハンバーグ。

子どもたちをビビらせようじゃないか。



食堂の地下室、俺たちのくつろぎスペースにある2つのベッド。ヨルカとサリーが一緒に毛布にくるまり寝息を立てている。



もう片方ではレナが横たわっていた。



最近ひどく疲れた顔をしていた。

几帳面な彼女だ。ディナー前に起きてしまうだろう。



今の内に、「ゆっくり寝ていい」と伝えよう。



――みんな、お疲れ様。

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