第17話 エルフの瞳が語るもの
俺たちは初めてのお客様であるカリンちゃんを迎えていた。
「勇者様! ……みんなもこんにちは!」
彼女は店内を見回して、目を丸くする。
「わあ……か、かわいいです!」
俺は照れくさくて、頭をかく。
でも、いっぱい見てくれという複雑な嬉しさが漏れる。
「まあ、みんなでやっただけだよ。……どう? お客さん、来てくれるかな?」
カリンちゃんは大きく頷いて、太鼓判を押した。
レナが再開の挨拶を交わしながら、初めてのお客様を席に案内する。
トラが椅子を引く、ボトルからグラスにハーブティーを注ぎ、差し出す。
動きがカクカクと硬直していて、緊張が伝わってくる。面白い……カリンちゃんが想像よりずっと可愛いかったのかもしれない。あとで、からかってやろう。
自信たっぷりのアマンが本日のお品書きを彼女に渡す。
サリーが書いたためか、小さな天使の絵も添えられていた。
カリンちゃんはいたく感動した様子だ。アマンにお礼を撫でて俺を呼ぶ。
そして、巻物を差し出して俺に渡してくれた。
「これ、食堂の営業許可書です。ルーク様が『絶対に通す』って、張り切ってくれて」
微笑みながら教えてくれるカリンちゃんの顔に、ルーク王子とアリス王女の優しい笑顔が浮かんだ。見ると王家の印章が、赤く輝いてる。
俺は嬉しくて巻物を開いてみんなに見せる。
レナは「やった……!」と、ヨルカを抱きしめる。 トラは「これで、俺たちの店だ!」 サリーは「開店パーティー!」と叫ぶ。いやいや、お客様いるからね。
俺はキッチンで料理を仕上げる。
至高のメニューを順に提供すると、ニコニコと大事そうに食べてくれた。
その後、「これは城下の有名レストランにも負けない」、とキリリとした顔で分析してくれた。俺たちの食堂は、初のお客様に満足いただけたようだ。
食後はみんなでテーブルを囲んでお茶を飲む。
俺たちは手づくの家具の説明をしたり、お城の話なんかを聞いていた。
しばらくすると、カリンちゃんは、少しだけ目を伏せて、俺に言った。
「……ヨルカちゃんのこと、話したいんです」
俺はみんなを外に出そうかとも思ったが、止めた。
みんなに共有したい。もちろんヨルカも含めてだ。
エヴェラには、子供には刺激が強いと言われたが、もう俺たちは全部を共有してきたはずだ。少なくとも俺はそう思っていた。
理解できない部分はあとでゆっくりかみ砕こう。心の傷にならないようにしっかり伝えよう、そう思った。これが良い事なのかわからない。
俺がそうレナに話すと、静かにうなずいた。
「ヨルカちゃん。かわいいですね」
カリンちゃんが優しい目でヨルカを見つめながら言う。
「まず、エルフについてお話します。以前の掟の話も含め、あまり広めていい話ではない事、ご認識ください」
彼女は俺たち一人ひとりの目を見てからそう前置きした。
子供たちが大きくうなずく。
「エルフは――。厳密にはヒューマンとは違う生き物なんです。私たちの虹彩や髪は、純粋な魔力で出来ています。だから、髪や目の色での判断というのは、ある程度、理にかなっている部分があるんです。」
彼女はヨルカを見つめ、「あくまである程度ですが」と付け加えた。
「髪は魔法属性を表し、虹彩の色は性質を表す。 そんな風に伝えられています。これはおそらくどこの村でも同じ認識だと思います。」
俺はヨルカの透き通る水色の瞳を見つめる。
「虹彩の色は、赤・緑・黄・青・(黒または白)の5色があるとされています。私もこの5色のエルフしか会ったことがありません。」
みんなが瞳をのぞき込むと、ヨルカがにこりと笑う。かわいい。
「もしかしたら、そもそもエルフではないんじゃないか? そういう気持ちもあって今日来ました」
彼女は少し間をおいて、はっきりと告げた。
「会ってみてわかりました。ヨルカちゃんは間違いなくエルフです。」
俺はふと疑問を口にした。
「水色だから、青の一部なんじゃないか? もしヨルカが忌み子とされたのなら、黒髪だけで判定されたってのか?」
トラとサリーは怒りを顕わにしている。以前聞いた掟の話は伝えてある。
彼らの心に傷をつけてしまったのは間違いない。だけど、きっと知らされないほうが傷つく。
「今のところはそれが有力ですね。濃い薄いは個人差がありますから青なのでしょう。どこの村の出なのかは、わかりませんが、厳しい掟がまだ残っているのでしょうね」
カリンちゃんはまるで自分の責任のように、下を向く。
だが、顔をあげ、明るい口調でつづけた。
「でも、それはただの迷信。実際は、特定の属性が得意なだけ。 ……ヨルカちゃん、きっと強い子ですよ。こんな笑顔で」
ヨルカはカリンちゃんの顔をニコニコと見ていた。エルフ同士何か感じるのだろうか? 俺は胸が詰まる。でもそうだ。この子は最高に強くて、かっこいい。
「髪は、"闇属性"の魔法が強いってことだろ? それ最高にかっこいいぞ? 元いた世界なら大人気だ。俺だって"闇属性"が一番好きだぞ」
俺はヨルカを撫でまわす。
トラは「うおおおお。俺も闇属性使いてー!」とはしゃぎだす。
アマンもそれに倣う。
「性質ってのは何? 性格のこと?」
サリーが不思議そうに聞いた。
カリンちゃんは一連の流れを見て、少し笑っている。
「はい。性格……に近いですね。各色には、それぞれ『3つの言葉』が伝えられています。」
前の世界の占いみたいなもんかな?
「たとえば私の緑色はこうです。『調和・融和・愛』」
「おおー」俺たちは、カリンちゃんの美しい緑色の瞳を覗き込む。
そして、思う。めっちゃ当たってるやん、と。
レナもうなずき、納得している。
きっと、レナがエルフだったら緑色に違いない。
「性格診断みたいな感じかな。じゃあ青とか黒は?」
カリンちゃんは少し照れながら続ける。
「青は、『冷静・知性・孤独』です。凄く知的な人が多いんですよ!」
知り合いにいるんだろうな。ちょっと孤独が引っ掛かるが、そんな事にはさせないぞ。つづく、黒の説明になると彼女のトーンが少し下がった。
「黒は『深謀・災厄・破壊』……です。ただ、私がお会いした事がある人は、皆さんやさしい方でした」
彼女は悲し気な緑色の瞳を窓の外へ向けた。
何か辛い思い出があるのかもしれない。
「そっか、闇属性でその性質なら確かに悪い予想を立てる奴がいるだろうな。ムカつくけど」
子供たちがうんうんしている。
おれはもう一つ気になっていたことを聞く。
「耳は何か関係あるのか?」
カリンちゃんは首をコテンとする。かわいい。
自分の耳をさすりながら続ける。
「さあ、耳については聞いたことがないですね。小さくても大きくても、何か差別的に扱われるなど聞いたがことないです」
話を聞いていたアマンがヨルカの耳で遊びだしたので止めた。
俺は少しエヴェラと相談する。
俺:悔しいけど、黒髪だけがネックなら、いっそ染めるか?
エヴェラ:エルフ自体がこの街にほとんどいないし、このままでいいんじゃないかしら? 実際に被害にあってから考えましょう?
俺:そうだな。こんな綺麗な黒髪。迷信なんかで変える必要なんてないよな。
エヴェラ:ねえ、ユウト。性質の話、念のため全部の色を聞いておいて?
俺はカリンちゃんに性質について、改めて聞いた。
話をまとめると、こうなった。
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赤: 勇敢・力・戦士
緑: 調和・融和・愛
黄: 変化・機転・希望
青: 冷静 知性 孤独
黒: 深謀 災厄 破壊
または
白: 絶対 栄光 至高
~~
基本的には、黒と白はほぼ存在しないため1色あつかいで、多くのエルフが残りの4色を持っている。黒は100年に数人生まると言われており、白は数百年に1人でさらに希少。
だが、白の瞳のエルフは皆、伝説的な指導者になっているらしい。
なお、カリンちゃんの知る限り、今の世代にはいないという。
ふと脳内につぶやきが聞こえる。
エヴェラ:……もしかしたら、色が混ざるなんてこと、あるのかもね。
俺はそのつぶやきを聞いて、少し寒気を感じた。
だとしても、白と青を混ぜたら、すごい奴になるんじゃないか?
良いようにとらえよう。うん。
「まあ、これも迷信みたいなもので、ある程度の傾向です。女の子の間での定番トークではありますが」
しっかり者のカリンちゃんも女子トークしているわけか。
想像して少しほっこりする。
俺たちはカリンちゃんを見送った。
彼女は子供たち一人ひとりにお礼をし、頭を下げる。
開店したら、ルーク王子とアリス王女をなんとか連れてくるという。
まじか、サインもらって壁に貼ろうか?
彼女の話は納得できるものであり、少なくとも禁忌とされる闇の力をもった子供なんてことはなく、悲しい誤解から生まれた、ふざけた風習に思えた。
俺たちは片づけと最終チェックを行う。
エヴェラのチェックリストがみんなに送られた。
うん、問題なさそうだ。
開店日については、もう、明日からでいいだろ?ということになった。
エヴェラ:……うん、完璧ね。 みんな!明日から、本当のスタートよ。
「「「「おおー」」」」




