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雪女と狼男《雪解け》

作者: 雪華
掲載日:2026/02/03

初投稿

「あなたのことが好きです。どうか付き合ってください。」


静かに燃えるような男の愛の告白。しかし、ここはいきもの達がそれぞれ生を謳歌する花畑のような場所ではなく、厳しくなにもかもが凍りつくような雪山の中でした。これは男にとって夢ではなく覚悟を語る言葉だったのです。言われた当事者である雪女は男が何を言っているのか理解ができないどころか、きっと別の人に向けた言葉だろうと後ろを振り返りました。けれども吹雪いている山には二人以外他には誰もいません。


「……どうして?」

混乱した頭でようやく出せた言葉はそれだけでした。

「君が綺麗だから。」

男は困ったようにそれでも真剣な声で応えます。

「わからない。」

どうしてなのだろう、私の肌は青白くて君と手を繋いでも温もりは与えられないのに……。頭の中はそんなことを沢山考えて忙しいのに現実にここに居る雪女の表情は凍っているかのように無表情でした。

「今はいい、いつか知ってくれればいいから。」

すこし寂しそうな声に雪女は俯いた顔をあげ男の顔を見ました。

なんで君が悲しい顔をしているの?

心の中は疑問でいっぱいなのに何も言わず固まったように呆然とみつめる雪女に男は優しく微笑みなおしてこう言います。

「もし、君がまだ僕と会ってくれるなら明日また話そう。いつもの時間あの場所で……君と初めて会った麓にあるあの水車の前で待っていて欲しい。渡したいものがあるんだ。」

この人は何を言っているのだろう。それはいつも通りの約束でしょう。渡したいものという言葉に引っかかりを感じつつ雪女は頷きます。


「じゃあ、明日太陽が空の一番高いところに昇る頃にまた会おう。あとは………そうだね。うん、帰る前に手を出してもらってもいい?」

雪女は促されるままに恐る恐る手を差し出すと、男は優しくゆっくりと、がたがたと震え赤くなった手をそっと掴みました。そして頑なに固くなった指の一本一本をゆっくりと解くようにひらかせると掌の上に手の形をした深紅の毛糸の塊をぽんと優しく乗せます。

「これは?」

「手を温かくしてくれるもの。手に嵌めて使うんだ。手の震えが少し収まって楽になるよ。」

雪女は首を傾げてはじめてみたものに驚きながらもなんだか気になったため手にはめてみることにしました。左右違う手袋をはめてしまったりと大分もたつきながらも、ようやくはめ終わると言葉にできない不思議な気持ちになりました。

「手、変なかんじ。」

「うん。気持ち悪い?」

「ううん、少し怖いけど、このまま、着けて、いたい……。」

ゆっくりと言葉を探すように途中詰まりながらも雪女は男に思いを伝えました。

「よかった。わがままかもしれないけれど、僕は明日から先の未来に君が今まで知らなかった色々なコトを少しずつ伝えていきたい。この閉ざされた世界の外に在る想像もきっと出来ないような美味しい食べもの、綺麗な景色、そして重たいくらい大切な気持ちを少しずつ僕と一緒に経験してほしい。この雪山より世界はもっと広くて、そしてもっと自由でいられる色んな生き方があるんだ。今は僕が言っていることすべてを頷かなくてもいい。ただ、できるなら頭の片隅にでも今日のことを憶えていてくれると嬉しい。いつか遠い未来の果てに、あの時僕がこう言っていたなって君が思いかえしてくれたら僕はきっとすごく幸せだから。」


明日から先?明日の先はまた明日が来るんでしょ?男の言おうとしていることの意味がさっぱりわからないけれども、雪女はゆっくりと曖昧にうなずきました。うなずいたのは、ただ今日をずっと繰り返したいそんな思いからだったかもしれません。

「うん。じゃあ明日待っているからね。」

男は背中を向けて最初はゆっくりと、そして徐々に歩く速さを変えて最後には駆け足で雪女の前から去っていきました。一方雪女はその場からしばらく動く事が出来ず、吹雪く山の中その姿は遠めで見たら雪だるまや氷の像みたいに見えていたかもしれません。


太陽が昇り吹雪が止み少し歩きやすくなった翌日に雪女は約束通り、男と水車前で再会し男から淡い色の桜色をした着物をプレゼントされます。男の隣で女は少しずつ、もともと着ていた純白の着物を脱いで春の着物を好んで着るようになりました。

その先はというと、長くゆっくりとした時間を経て雪女は男から唯一の愛を教えられます。そして更に先に男は雪女の唯一の愛を伝えられます。


男と女、愛の交換を繰り返しつづけた遠い日々の果てに雪女は思います。あれから沢山の温もりを知ったけれど、彼の告白を受けたあの凍てついたはじまりの夜の記憶が一番温かいものだったと。


男と女が誰で過去に何があって、これからどうなるかはご想像にお任せします。

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