第1話 『いいね』狂想曲
「異常気象による『いいね』の不作や、世界的な『いいね』需要の高まりにより、高騰を続ける『いいね』価格ですが……」
「こちら、スーパーの店頭ではなんと『いいね』一個当たりが1,800円を超えるなど……」
朝のニュース番組では、話題のトピックが紹介されている。
最近の話題といえば、もちろん『いいね』の値上がりについてだ。
「また『いいね』の値段が上がったのか、大変だなあ……」
若林は朝食を食べながら、テレビのニュースを見て言った。
昨今の日本では、『いいね』が値上がりしている。
以前とは異なり、庶民がスーパーやコンビニで気軽に買ったりはできない値段にまで高くなってしまった。
「おっとヤバい、電車の時間だ。急がないと……」
若林は急いで朝食を食べ終え、アパートを後にした。
電車に乗り、オフィスにたどり着くと、仕事が始まった。
「よう若林、最近は『いいね』が値上がりして大変だよな」
「ああ、そうだな」
同僚の津田が話しかけてきた。
「なあ知ってるか? 最近『いいね』強盗が多発してるんだよ。実は先日、うちの近所でも被害にあった人がいてな」
「『いいね』強盗だって? それは恐ろしいな。みんな『いいね』が足りなくて心が荒んでいるんだろうな」
「若林、お前も被害に遭わないように気をつけろよ」
「ははは、奪われるほどの『いいね』なんて持ってないよ」
若林は笑って答えた。
その後、定時になると彼は仕事を終えて、帰る準備を始めた。
若林の仕事は退屈なものだったが、定時で帰れるのが数少ない良いところだった。
会社からの帰り道、若林はいつも通っているスーパーに寄ることにした。ここで夕飯を買うのが彼の習慣になっている。
スーパーにたどり着いた若林だが、店内の様子がいつもと違った。
奥の方で、何やら大勢の人々が集まって騒いでいるのだ。
「ただいま、『いいね』のタイムセールを実施中です! ああっ、押さないでください!」
それは、『いいね』のタイムセールだった。いつもよりも半額未満の価格で、『いいね』が売られている。
「押さないでください! 押さないで、うわ……!」
店員の呼びかけなど無視して、客たちは我先にと『いいね』を手に入れようと躍起になっている。
「ちょっと、それは私が先に取ったやつよ!」
「うるせえババア!」
喧嘩をしはじめる客もいた。
『いいね』には人間に欠かせない栄養素が含まれている。これが不足すると、人は自己肯定感を保てなくなり、心が不安定になる。喧嘩になるのも無理はなかった。
「な、なんて群衆だ。でも、俺も『いいね』が欲しいな……」
若林は大勢の人々に恐れをなしたが、自分も『いいね』が欲しくなり、意を決して群衆の中に飛び込んだ。
「す、すみません、どいてくださ……」
「邪魔だ!」
「うわっ!」
若林は太った客に吹っ飛ばされた。
「いてて……腰を打った……。……!」
地面に倒れ込んだ若林は、周囲を見回すと、自分と同じように弾き出された人々が大勢いるのに気づいた。
「チクショウ……腕が折れた……」
右腕を抑えて倒れ込むサラリーマンがいた。
「うう……ワシの『いいね』が……」
顔中あざだらけの老人がいた。
「目を……! 目をやられた……!」
血涙を流す学生がいた。
「うわーーん! おかあさーん!!」
泣き叫ぶ子供がいた。彼女の親がどこに行ったのか、誰も知らない。
「な、なんて恐ろしい光景なんだ……早く逃げないと……!」
若林は恐ろしくなり、セールから離れた。
結局、いつも通り半額弁当を買って、アパートに戻った。




