第3話:村での第一歩
「こちらが村長の家です。」
案内役を務める中年男性――ロバートは、圭を村の中心部にある木造の立派な家へと案内した。家の周囲は花壇で飾られており、どこか温かみのある雰囲気を醸し出している。
「ありがとうございます。本当に助かります。」
圭が礼を述べると、ロバートは少し笑って首を振った。
「いやいや、お互い困った時は助け合いさ。特に帝国兵に絡まれたとなれば、君も大変だったろう。」
その言葉に、圭は胸をなで下ろす。異世界に迷い込んだばかりで、心細い中、村人たちの好意に少しだけ救われた気がした。
「村長は村だけでなく、この辺りの情勢にも詳しい。この世界のことを知りたいなら、まず村長に話を聞くのが一番だろう。」
「ありがとうございます。状況を整理したいので助かります。」
圭が深く頭を下げると、ロバートは村長の家の扉を叩いた。しばらくして中から現れたのは、白髪混じりの年配の男性だった。目には鋭さがありつつも、どこか穏やかな雰囲気を持っている。
「ロバートか。そしてそちらは?」
「この方がさっき話した旅の途中で帝国兵と遭遇した方です。」
「なるほど……それでは、中に入って話を聞こう。」
村長の一言で、圭は家の中へ案内されることになった。
村長の家の中は、木の香りが漂う清潔な空間だった。大きなテーブルと椅子が置かれ、暖炉が柔らかい暖かさを部屋に広げている。圭は勧められるまま椅子に腰掛けた。
「さて、まずは自己紹介をお願いしようか。」
「村中圭と申します。元々は日本という国で暮らしていましたが、ある日突然、この世界に迷い込んでしまいました。」
「日本……聞いたことがない名だな。」
村長は腕を組んで考え込むような仕草を見せた。
「正直、私自身も状況がわからないままです。ただ、帝国兵に絡まれたので身を守るために戦いました。それ以上のことは、この世界について何も知らないので、何とも言えません。」
圭が丁寧に説明すると、村長は真剣な表情で頷いた。
「ふむ……君がこの世界の住人ではないというのは、話を聞くだけで十分に伝わる。だが、帝国兵を倒せるとはな……並の力ではないだろう。」
「運が良かっただけです。相手が油断していたのかもしれません。」
圭が控えめに答えると、村長はふっと微笑みを浮かべた。
「君は謙虚だな。それにしても、この村にとって君のような力を持つ者が訪れるのは、ある種の幸運かもしれない。」
その時、ロバートが話に割り込んだ。
「村長、彼がしばらくこの村に滞在するのはどうでしょう?彼も情報を必要としているし、私たちも帝国の動きが心配です。」
「それはもちろん歓迎しよう。村の者にも彼が信頼できる人間であることを伝えねばな。」
村長の言葉に圭はほっとしながら頭を下げた。
「ありがとうございます。しばらくお世話になります。まずは、この世界のことを少しでも知りたいです。」
こうして、圭はオルグ村に滞在することとなった。彼の異世界での生活が本格的に動き出す。
(第3話終了)